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Doll 2号  no.4

no.1(1話目)はこちら
https://note.com/mmm12o2/n/n106685e6726a

—— 漆黒の夜 ——

「なんで地上60階の女の生活を地上3階の女に汚されなきゃいけないの」

と、二人の寝室から聞こえてきたのはママの声だった。

ありきたりだが、ママが大好きで旅行に行くたびに集めたスノードームがキャビネットから崩れて落ちていくのが聞こえた。でも、投げない。
偽物と言われても、作り上げた美しいパパの鼻を壊そうとはしなかった。
他人から偽物と言われようともパパが本物になるために作った鼻だ。
今、それを汚されたママは、本当は一番壊してやりたいものだったかもしれない。
けど、ママはそれをしなかった。
今、一番音を立てて崩れてしまいそうなママが、必死に耐えようとしているのが、開けちゃいけない気配が漂う寝室のドアあからも感じた。

そして、そのあと寝室から大きな声が上がることはなかった。


真夜中。窓には世界に取り残されたような闇が張り付いている。
どうしても眠れなくって、レナが部屋のドアを開けるとダイニングにママが居た。大理石のテーブルの下。小さく蹲って。

よりによってパパはなぜリカちゃんママ、常田さんちの奥さんと不倫なんかしたのだろう。
ママから言わせると、規定通りの幸せと呼ばれるものに無理矢理体をねじ込んで幸せという程をとっている女だ。それが、パパとなんて。
自分で幸せの形を、幸せな器を、作りあげたママとしては、普通と称されものに踏み躙られることは、まだ恋など知らないレナにも分かった。
というよりは、恋などはどうでもよく自分の器、中身、と言う存在に疑問を持たず、当たり前のように生まれたままの姿で受け入れられると疑わないものに、器と中身の解離を感じその苦痛と戦いながらなんとか再構築し、やっと自分を許して生きているママにとっては絶望に等しいことが分かった。
しかも、よき理解であり、自分を作ったパパだから尚更だ。

ママが誰かから否定されても守ってきたものを一番の味方に否定されたのだ。

ママの透き通るような白い肌に映える深い紫のお酒を飲んで、ダイニングテーブルの下のカーペット零してしまった泣いていた。
お気に入りだったのに、このシミは取れないと泣いていた。
タオルで叩いても叩いても、奥に染み込んでいくばかりだと泣いていた。

レナはママの穴を覗いた。

作り物とはいえ、見る器官や呼吸する器官から液体を零しても、ママは綺麗なままだった。

「おい、レム黙ってないでこういう時しゃべってよ…。」

レムは答えてくれなかった。

いや、レナが何も言えなかったんだ。

レナはママの横にそっとしゃがんで、闇に映る二人を見た。
漆黒の中に浮かぶ二人。
本当に世界から取り残されたみたいだった。
レナはそれもいいと思った。

「ねぇ、ママ…。レナは大きくなったらママみたいな顔になりたい」

レナは素直にそう言った。


パパの気配はどこにもない。
多分パパもよく分かっていないのだろう。
泣いてまでこんな美しい女を裏切るなんて……。
いや、自分も裏切るなんて……。
きっと、今ごろ一生懸命理由を探している。ありもしない理由を。


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