社会人3年目の夏休み、無人島サバイバル体験記
2023年、社会人3年目の夏休み。
さて、この貴重な夏休みをどう過ごそう。
恋人はいないし、一緒に旅行をするような友達もいない。まわりの友達はみんな、パートナーと過ごしている。友達が欲しい…あわよくば旅行やキャンプを一緒にできる友達が欲しい…
そんなとき、Instagramで広告が流れてきた。
「ひとり参加大歓迎!仲間ができる無人島キャンプ」と書いてあった。これだ…!と思った。
いや、でも待って、無人島?
サバイバル生活?なにそれ?インスタ広告って危なくない?大丈夫?と、頭の中は好奇心とはてなマークでごちゃごちゃ。
リンク先に飛んでみると、「無人島プロジェクト」というサイトが出てきて、過去のツアー写真や体験談が山ほど載っていた。参加者30人前後で瀬戸内海の無人島に行き、食料を調達して火を起こし、サバイバル生活をするらしい。どうしよう、めちゃくちゃ行きたい。行きたいけど、本当に安全なのかな、全員初対面って大丈夫かな。
かなり悩んで、職場のみんなに話してみた。
すると後輩から、「面白そう!絶対に行ってください!!」と強く背中を押してもらえた。私は無人島に行くことにした。
🛳️
2023年8月
1日目。
朝9時ごろに姫路駅に行くと、この旅のメンバーが集まっていた。全部で30人と少し、中学生もいれば私の親と同じ世代の方もいた。すこし緊張しつつ挨拶をして、無人島に向かう。
船の甲板に出て風を浴びた。真っ青な空と海、みずしぶき。夏休みが始まる…!こんなにワクワクを感じる夏休みは、子供の頃以来だった。
目的の島へ向かう途中、有人島で停泊した。その島には高さ3mくらいの飛び込み台のようなものがあった。
私は居ても立っても居られず、急いで水着に着替えた。他の参加者に続いて、飛び込み台から海に向かってジャンプした。
ここ数日仕事がうまく行かず、泣きながら働いていた私。海に飛び込んだ瞬間、たがが外れたような気がした。ここ最近の辛さなんか全てどうでも良くなった。これからの3日間は全力で遊ぼう。
びしょ濡れのまま船に乗りこみ、無人島に向かう。
🏝️
ついに無人島に着く。岩場だらけで歩きにくい。猛暑の中荷物を運び終えて、海に入る。水温と気温が最高にちょうど良くて、ぷかぷか浮いたりちょっと泳いだりする。
海に浸かったまま、自己紹介タイムが始まる。全国から集まった色んな職業の人が、それぞれの気持ちを持ってこの島に来ていた。
テントを建てたあとは、海に潜ったり魚を釣ったりして食料を調達する。生きている虫を触って釣り針につけることはできたけど、ジタバタ動く魚を掴むのは怖くてできなかった。全員の収獲を合わせると、なかなかの量の魚が釣れた。
日没の時間は全員揃って、焼けていく空を見つめた。陽の光を受けて、島の岩肌もみんなもオレンジ色に染まっていた。
夕食作り。
かまど担当は石を集めてかまどを作り、火を起こす。魚担当はペットボトルの蓋を使って鱗を剥がしていた。私はお米担当。昼間に飲んだお茶の空き缶を石にこすりつけて、上の蓋部分をぱかっとはずす。その中に米をいれてご飯を炊いた。
夕飯のメニューは焼き魚、あら汁、ご飯。魚がたくさんとれたので、お腹いっぱいたべた。
スタッフの子がウクレレを弾いてくれて、みんなで歌った。楽しくて楽しくて、一緒に大きな声で歌える友達がいることが嬉しくて、本当に来て良かったと思った。大人になってから、大人数でにぎやかに過ごすことはなくなっていた。他のことを一切忘れて、ただ楽しいだけの時間が幸せだった。
周りに光がない無人島では、満天の星空がみえた。この日は流星群のピークが近づいていて、岩に寝そべって星を見ていると次々と流れ星が流れた。
ずっと星空を見ていたくて、ブルーシート上に川の字になって寝転び、星を見ながら眠った。
2日目。
「朝日のぼってきた!」の声で目を覚ます。飛び起きて海辺に走っていくと、嘘みたいに大きくて赤い朝日が、水平線から少し顔を出していた。丸い太陽から光の線が伸びている。
海に囲まれた小さな無人島では、水平線に朝日が登り水平線に夕陽が沈む、そのどちらも見ることができた。朝日を浴びてみんなが赤く染まっていた。
この日は島を一周をした。ひやっとするような崖を恐る恐る歩いたり海を泳いだりして、島の周りを一周する。
無人島に来る前、飛び込みに失敗して岩に頭をぶつけたというニュースを見て、自分は絶対にやめておこうと思っていた。いざ、飛び込みポイントの崖の上に登ってみると、かなりの高さがあるのに無性に飛び込みたくなり…我先にと海へ飛び降りていた。海に飛び込むと、体は深く深く沈んでいき、そのあとゆっくりと水面に浮かんでくる。すごく怖くてすごく爽快!
自分が好奇心旺盛なのはわかっていたけど、ここまでとは…。考えるよりも先に体が動いている感じだった。その後も、女子はあまり通らない危ない絶壁をわざわざよじ登ったりした。
夜はキャンプファイヤーをした。火を囲んで歌い、おどり、みんなで話をした。旅好きの人、自分を変えてみたい人、サバイバル生活をしてみたい人、友達が欲しい人…全国から色んな人が集まっている。無人島に来たら年齢も肩書も関係なく、みんな平等で、みんな友達。じっくり話すほど印象が変わっていって、どんどん仲良くなれるのが楽しかった。
3日目。
最後に海に入り、水上野球をした。そのあとは片付けとビーチクリーンをして、島を出た。
無人島という非日常の環境で、自然を全身で感じて子供に戻ったように全力で遊べたことはかけがえのない経験だった。
でも何よりも、無人島でみんなと出会えたことが、私にとっては大きな変化になった。
無人島でいろんな人に出会った。仕事を辞めて旅をしている人、フリーランスで働きながら世界中を飛び回っている人。今まではデザイン一筋だったけれど、人生には色んな選択肢があって、もっとゆるく楽しく生きる道もあるかもしれないと思った。
みんなが私のことを認めてくれて、それぞれの違いを受け入れていて、何が正しいとか何がダメだとか言わずに互いを尊重している。私にはこの環境がすごく心地良かった。
✍️
この無人島体験をしてから、1年半近くたった。
無人島プロジェクトで出会った友人たちとは、今でも旅行をしたりキャンプをしたり、人生の話をしたりする。
そしていま私は、このときに出会った親友と同じシェアハウスに住んでいる。無人島に行っていなかったら、シェアハウスに入居するという発想すらなかっただろう。
あのとき無人島に行ってよかった。
人生変わった、と思う。