日本シリーズ第6戦の振り返り/「怪我の功名」で王手

日本シリーズはヤクルトとオリックスが共に2勝のタイで神宮球場に戻り、第6戦を迎えた。

オリックスの先発は第2戦に先発した左腕・山崎福也。
第1戦に先発したが左わき腹の違和感というアクシデントで降板した山本由伸が不在のため、山崎福が中5日でのマウンド。
一方のヤクルトの先発は第1戦、山本由伸に投げ勝った小川泰弘が中6日でマウンドへ。

<スタメン>

日本シリーズ2022第6戦オリックス打順

このシリーズ、オリックスは日替わりのオーダーで、1試合として同じ打順は無い。
第6戦目は、シリーズで初めて太田涼が打順1番に入った。
不振の宗が第1戦、第2戦、第4戦に続いて打順2番に復帰。
中川圭太、吉田正尚、杉本裕太郎というクリーンアップは、第1戦、第2戦、第5戦と同様。
中川は初戦からファースト、センター、ライト、ファースト、レフトと守ってきたが、第6戦はセンター。
安達了一は第2戦、第3戦以来となるシリーズ3試合目のセカンドのスタメン。
紅林弘太郎は打率.350と全試合出場している選手の中で最も当たっているが、相変わらず打順は下位の7番。
8番・捕手には第2戦で山崎福也とバッテリーを組んで以来のスタメンマスクとなる伏見寅威。

不振の宗は守備の貢献から言ってもスタメンから外せないのはわかるが、わざわざ打順2番に戻しているのは疑問で、打順2番には右の安達了一を起用し、紅林の打順を6番に上げ、宗は打順7番でもよかったのではないかと思われる。
あくまで、右(大田)、左(宗)、右(中川)、左(吉田)という、「左右ジグザグ」の攻撃型オーダーにこだわった可能性が高い。

日本シリーズ2022


ヤクルトの打順は、DH制が無かった第1戦、第2戦と比べ、「2番・レフト」を山崎晃大朗から青木宣親に変更しただけである。
DH制が無い試合ではレギュラーシーズン中と同じほぼ固定のメンバーである。

青木宣親は第1戦、第2戦は代打起用で、第4戦は「6番・DH」で出場、1安打・1四球、第5戦は「2番・レフト」で3安打・1打点と当りを見せてきた。
しかも青木は今季、対左腕投手の打率は.320であるため、左腕・山崎福也に対して先発起用は当然と言えた。
だが、青木を起用する時の問題は打順で、今季、打順2番では打率.206とあまり打っていない。
従って、「6番・捕手」の中村悠平と入れ替え、「6番・レフト」でもよかったと思う。

さらに、ドミンゴ・サンタナは第5戦でシリーズ初本塁打を放っているが、この5試合、19打席で11三振と明らかに不調であった。
ライトを守れるのは、左打者の山崎晃大朗、宮本丈、丸山和郁がいるが、二人ともさほど当たっておらず、しかも、先発が左腕の山崎福ということで右打者のサンタナの起用に踏み切ったのだろう。
左打者ではあるがこのシリーズ、6打数3安打と当たっている新人の丸山和郁を先発起用しても面白かったかもしれない。

両チームとも狭い神宮球場での戦い方を想定し、攻撃的なオーダーを組んだといえよう。

<試合経過>

オリックスは初回、先頭の太田涼がセンター前ヒットで出塁するが、2番・宗佑磨がセカンドゴロで、大田が二塁で封殺され、走者を進めることができず、中川圭太、吉田正尚が倒れて無得点。

一方、ヤクルトは初回、先発の山崎福也から先頭の塩見泰隆もセンター前ヒットで出塁。
ここで2番に入った青木はセカンドゴロ併殺打に倒れてしまう。
山田がライトフライで凡退し、4番・村上宗隆まで廻らず三者凡退。

2回はお互いに三者凡退。
3回、オリックスは8番・伏見寅威の死球の後、9番・投手の山崎福也が犠牲バントで送り、一死二塁の形をつくったが、1番に還って大田、続く宗が凡退。
ヤクルトも二死から9番・投手の小川泰弘が粘って四球を選んだが、塩見が倒れ、無得点。

4回、オリックスは3・4・5番のクリーンアップが小川の前に三者凡退。
ヤクルトは一死後、3番・山田哲人、4番・村上宗隆が連続四球で一死一、二塁のチャンスをつくるも、当たっていたホセ・オスナはショートゴロ、中村悠平もレフトフライで凡退。

5回、オリックスは一死から、紅林がセンター前ヒットで出塁するが、後続が倒れて無得点。ヤクルトも下位打線が三者凡退。

5回を終えて、ヤクルト先発の小川は被安打2、オリックス先発の山崎福也は初回先頭の塩見のヒットのみで、スコアは0-0と再び投手戦の様相を呈してきた。

6回、オリックスの攻撃は先頭の太田涼から始まり、センター前ヒットで出塁。
今度は宗がバントで送り、3回の攻撃と同様、一死二塁のチャンス。
だが、ここで期待の中川圭太はキャッチャーファウルフライ。
二死二塁となったところで、吉田正尚を迎えたものの一塁が空いているため、ヤクルトベンチは申告敬遠で二死ながら、一、二塁。
ここで打席には杉本裕太郎。
杉本はカウント2-1から小川が投じた4球目をコンパクトに振ると、打球はライト前へ。
二塁から太田涼が還って、オリックスに待望の先制点が入った。
ヤクルトベンチの「敬遠策」は奏功しなかった。

その裏、オリックスは先発で好投してきた山崎福也に替え、大卒新人の宇田川優希をマウンドへ。
宇田川は先頭の塩見、後続の青木を打ち取り、二死となったが、山田、村上に連続四球を与え、二死ながら一、二塁のピンチで、ホセ・オスナを迎えた。
ここで、オスナに対して、慎重を期して、サイドハンド右腕の比嘉幹貴を送る手もあっただろうが、オリックスベンチは宇田川に懸けた。
結果は宇田川がオスナを三振に仕留め、ピンチを脱した。

7回、ヤクルトは2番手の木澤尚文がマウンドへ。
オリックスは昨年ドラフト2位、大卒新人の野口智哉が代打で登場、日本シリーズ初ヒットを放ったが、無得点。

一方、7回裏のヤクルトの攻撃には、オリックス3番手として平野佳寿がマウンドへ。
平野はヤクルトの下位打線、中村、サンタナ、長岡秀樹を連続三振に切って取った。

8回、オリックスはクリーンアップを迎える攻撃であったが、ヤクルトの3番手・石山泰稚が、中川、吉田、杉本を抑え、三者凡退。

その裏、オリックスは山﨑颯一郎が4番手としてマウンドに上がると、ヤクルトの代打・宮本丈、塩見が連続三振に倒れ、またも無得点。

9回表、マウンドにはヤクルトの守護神、スコット・マクガフが1点ビハインドながらマウンドへ。
ヤクルトベンチはここを抑え、9回裏の攻撃で同点、そしてサヨナラ勝ちを目論むはずであった。
だが、オリックスは先頭の安達了一がライト前ヒットで出塁して、無死一塁。
ここで当たっている紅林が打席に入ったがオリックスベンチは紅林にバントのサイン。

ここで紅林はバントをマクガフの前に転がし、マクガフが一塁に送球、一死二塁、となっるはずだった。
だが、マクガフがアンダースロー気味に投じた送球は一塁手前で大きくスライスし、ベースカバーに入った山田哲人のグラブをかすめもせず、一塁ファウルグラウンドを転々としていった。
この間に、一塁走者だった安達が長躯、ホームインして、大きな2点目がオリックスに入った。そして、打者走者の紅林も三塁に達した。

さらに、オリックスは一死三塁の場面、続投するマクガフから代打の西野が犠牲フライを決め、3点目。
ヤクルトの9回裏の反撃態勢をくじくのに十分な追加点となった。

2点を追うヤクルトは9回裏、またもクリーンアップの3番・山田からの攻撃。
ここでオリックスベンチがクローザーとして送ったのが、第4戦、第5戦とセーブを挙げたジェイコブ・ワゲスパック。
山田哲人、村上宗隆、ホセ・オスナと続く、本来は怖い打順のはずだが、3点が重くのしかかる。
山田はレフトフライ。
続く村上宗隆は空振り三振。
オスナも簡単に初球を打ってセカンドゴロとなり、代わったばかりのセカンド・大城からファーストの太田涼に渡り、スリーアウト。
ワゲスパックはわずか9球でヤクルトのクリーンアップを打ち取り、ゲームセット。

この瞬間、オリックスは3戦0勝で迎えた第4戦のシリーズ初勝利から3連勝。
第2戦の引き分けを挟んで2連敗からの3連勝で26年ぶりの日本シリーズ制覇、日本一まであと1勝と迫った。

<勝敗を分けたポイント>

①オリックス先発の山崎福也の好投を招いた、山本由伸の「怪我の功名」

オリックスにとっては「繰り上げ」先発の山崎福也の好投が勝ちを引き寄せた。
本来であれば、「絶対的エース」の山本由伸が中6日で第6戦に先発するはずであったが、山本は第1戦で、古傷のある左わき腹の違和感で緊急降板したばかりか、日を追う毎に、山本由伸の具合では第6戦はおろか第7戦も先発は難しいことが分かってきた。

そこで第2戦に先発してヤクルト打線を抑えた山崎福也が繰り上げで先発したが、第2戦同様、テンポの良い投球リズムと緩急を使って、見事にヤクルト打線を狂わせた。

しかも、山崎福也の後を継いだリリーフ陣は速球派が多く、山崎福也の球速と差もあり、ヤクルト打線はさらに速く感じたかもしれない。

もしかしたら、山本由伸が深刻なケガをしていなければ、第6戦に先発していた可能性は高い。だが、その場合、オリックスベンチが、山本由伸という「絶対的エース」をマウンドから降ろすというタイミングを考えるのは難しい。
一歩間違えば、勝敗にとって致命的なことになりかねない。

中嶋監督も、先発が山崎福也だからこそ、早めの継投に切り替えるする決心がついた可能性がある。
これでオリックスが日本一に決まれば、山本由伸の欠場はまさに「怪我の功名」である。


②初回の攻防で打順2番の強硬策失敗が序盤・中盤の投手戦を招いた

両チームとも、初回、先頭打者の太田涼、塩見泰隆がヒットで出塁し、無死一塁という場面をつくった。
だが、双方とも判で押したように、打順2番を打つ宗佑磨も青木宣親も強硬策に出て、走者を進めることができず、先制機を逃した。
もし、両チームとも前述の通り、打順2番にオリックスは西野、ヤクルトは中村悠平が入っていたら、双方とも犠牲バントもありえただろう。
両チームとも、なまじ攻撃的オーダーを組んでしまったがために、初回は強硬策に出たが、失敗に終わったことで結果的に、前半の投手戦を演出することになった。

短期決戦はやはり先制点が重要であり、レギュラーシーズンでは消極的に見える序盤でのバント作戦も何振り構わっている場合ではなかったのかもしれない。

③ヤクルトベンチによる「吉田正尚・敬遠、杉本裕太郎・勝負」が裏目に

0-0で迎えた6回表、オリックスの攻撃、二死二塁で吉田正尚を迎えたところで、ヤクルトベンチは迷わず吉田を申告敬遠した。

確かに、吉田正尚には第5戦で値千金のホームラン2本、しかも、最後はサヨナラホームランを打たれており、ヤクルトベンチ、バッテリーが吉田を警戒するのは当然だ。
だが、杉本裕太郎も今季前半、極度の不振だっとはいえ、交流戦から打撃が上向いていた。
しかも、杉本はホームラン王を獲得した昨季からコンパクトな打撃もできるようになっていたため、決して与しやすい打者ではなかった。
後述の通り、小川に代えて、左腕の田口麗斗を投入して、吉田に勝負を挑んでもよかったと思う。
さらに、杉本と対峙した小川―中村のバッテリーは初球、ウェストしてカウント1-0としてしまったため、杉本への攻めが窮屈になってしまった。
悔やまれるのではないだろうか。

④ヤクルトベンチ、好投する小川泰弘を引っ張りすぎ先制を許す

ヤクルトベンチは5回まで好投してきた小川が6回にピンチを迎えても続投させた。
シリーズ初戦も好投して勝利投手になっているエースの小川を無失点の段階で交代させるのは、あまりに見切りが早いと思うかもしれない。

だが、ヤクルトベンチは、打線が先発の山崎福也にほぼ完ぺきに抑えられていた。
オリックスにはこの後、強力な救援陣が控えてることを考えると、ヤクルトベンチにはこの回、何が何でも失点は防ぐという気概が欲しかった。
神宮は狭く、ホームランのリスクがあるため、申告敬遠でいたずらに走者を溜めるのも得策ではなかったため、場合によっては、吉田を迎えた場面で、申告敬遠せず、小川に代えて、左の田口麗斗を投入してもよかったのではないか。
結局、小川はこの回限りで降板しているのであれば、もう一足早い継投でもよかったはずだ。

ヤクルト打線は終わってみれば、たった1安打でオリック投手陣に完封リレーを許した。
ヤクルトファンの中には「1安打では勝てない。投手ではなく、打線の責任」という声もあった。
だが、第6戦は、勝ったほうが王手を懸けることができる、日本シリーズにおける重要な局面だ。
ヤクルトベンチは、このシリーズにおけるオリックス救援陣の出来を考えれば、0-0で延長に持ち込む、そのためには1点も失点を許さない、という「青写真」を持っておくべきだったと思う。
延長戦になれば、双方の救援陣の中に調子がよくない投手もマウンドに上がることになり、そこで得点を奪って勝利する、という道もあったと思われる。

ヤクルトベンチの中に、「小川はエースだから、小川に懸けて1点を取られても仕方がない」という考えがあったとすれば、短期決戦での勝負所を見誤ってしまった感は否めない。

⑤オリックスベンチ、1安打投球と好投の山崎福也を5回・70球で交代

一方のオリックスベンチは、好投してきた山崎福也を6回のマウンドには上げなかった。
ヤクルト打線が打順3巡目を迎えるところで、2番手に宇田川を起用した。
山崎福也は5回まで70球、被安打1と完ぺきに封じており、通常であればもっと引っ張りたいところだが、オリックスベンチは5回の攻撃中に、ブルペンで救援陣の肩をつくらせていた。
そして、その通り、中嶋聡監督は山崎福也を惜しげもなくスパッと替えた。
緩急で勝負する山崎福也は打順3巡目を迎えるヤクルト打線にそろそろ危険だという想定もあったのだろう。
結果的に、パワーピッチャーの宇田川、山﨑颯一郎、ワゲスパックをリレーさせることで、ヤクルトの反撃を封じ込めることができた。

⑥オリックスベンチは前回、「バント失敗」の紅林に再度、バントのサイン

オリックスベンチは1点リードの9回表、無死一塁の場面で、紅林にバントを命じた。
紅林は第5戦、1点を追う6回裏無死二塁の場面でバントを命じられたが、キャッチャー・中村悠平の好フィールディングにも阻まれ、三塁封殺で一気にチャンスを潰すという苦い失敗があった。

1点ビハインドと1点リードという状況は大きく異なるが、打者は打線でもっとも当たっているといっていい紅林であり、再度、失敗すれば、オリックス側は嫌なムードになる場面である。
だが、紅林のバントが結果的に、マクガフの悪送球を誘い、貴重な2点目を入れることになった。
さらに、紅林が三塁に進んだことで、続く代打の西野がキッチリとライトに犠牲フライを打ち上げて、さらに貴重な3点目を陥れたことになる。

⑦ヤクルトの守護神・マクガフ、2試合連続でまさかの「悪送球→失点」、指揮官の「信頼」が裏目に

ヤクルトのクローザー、スコット・マクガフは、京セラドームでの第5戦、1点リードの9回裏に、安達の四球から福田周平のバントで一死二塁となり、西野が打った当り損ねのピッチャーゴロを一塁に悪送球して同点にするというミスを犯したばかりであった。
それが、直後の吉田正尚のサヨナラホームランに繋がった。

ヤクルトは守護神が2試合連続で一塁悪送球でまさかの失点をするという悪夢が再現されてしまった。

ヤクルトの指揮官・高津臣吾監督からすれば、クローザーのマクガフが1度、打球処理を誤ったり、失投を赦して試合を落とした程度では、マクガフへの信頼は揺るがず、自信を持ってマウンドへ送り出したものの、マクガフのほうは打球処理、一塁への送球という一連の動作における不安が払拭できていなかったということになる。
高津監督の「親心」というか、「選手への信頼」が完全に裏目に出てしまった。

一方、中嶋監督は、シーズン中、クローザーであった平野佳寿が不調とみるや、クローザーから外し、代わりにク第2戦でクローザー起用された阿部翔太が同点弾を浴びると、今度はワゲスパックをクローザー起用した。
打撃面同様、柔軟な継投起用を見せている。

<第7戦への展望>

4戦先勝の日本シリーズは2勝2敗で迎えれば、先に次ぎの1勝を挙げたほうが明らかに有利であり、オリックスが優位に立っているのは間違いない。
だが、ヤクルトは本拠地・神宮という「地の利」を活かし、再逆転の日本一を目指すしかない。
高津臣吾監督はシリーズでも選手を信じて、基本的にはレギュラーシーズン通りの起用法を実行してきたが、流れを変えるためにも、打順の組み換えもありうる。
先発は中6日でサイスニードを立てる。
ヤクルトは負けたら終わり、とにかく、ビハインドの展開にならないよう、「攻めの継投」が必要になると思う。
第6戦の試合後、高津監督は「マクガフへの信頼は変わらない」と語ったが、マクガフのクローザー起用は難しいと思われる。
最終回、リードしていれば、清水昇の起用もあるだろう。

一方のオリックスは、悲願の「日本一まであと1勝」のためにどのような継投を見せるのか。
確かに、状況は有利ではあるが、戦力としては「絶対的エース」の山本由伸を欠き、先発に中4日の宮城大弥を立てざるをえない。
高卒プロ3年目の宮城はこれまで登板間隔でいえば、今季、中5日を1度、経験しているだけである。

オリックスベンチは、陽動作戦として山本由伸をベンチ入りさせるという考えかもしれないが、その分、ベンチ入りメンバーを犠牲にしなければならい。
中嶋監督は、リリーフ陣の連投を極力、避けてきており、勝てば日本一の大一番でどのような継投を考えているのか、注目である。

オリックスが26年ぶりの日本一か、それともヤクルトが第8戦に望みをつなぐか。
第7戦は両チームのベンチワークがさらに勝敗に影響を与えそうだ。


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