学びの記録@少年院について
仕事が忙しい時期に突入し、ここ数日息を吐く暇もないほどです。まさにてんてこ舞いです。私は滅多に家に持ち帰って仕事をしないのですが、昨日は24時近くまで仕事をしてしまいました。流石に働き過ぎたのか、夜中の3時過ぎに頭痛で目が覚めてしまい、鎮痛剤を飲んで氷枕をして4時半ごろにまた寝付くことができました。この時期はどうしても欠勤出来ないので何とか回復して良かったです。
そろそろ秋の気配が感じられそうです。季節の変わり目は体調を崩しやすいので、みなさんも体調には気をつけてくださいね。
さて、今回の記事ですが、本日参加した学術講演会の記録です。
たまたま法務省矯正局のTwitterで講演会の告知がされていたのを目にして申し込みました。18時30分開始だったため間に合うか心配していましたが、何とか仕事を終え、参加することができました。
今日の講演会のタイトルは「少年院の現状と子どもたちの出院後の生活」
講師は宮川医療少年院院長・工藤弘人さんでした。
少年院バーチャル見学ツアー
コロナで少年院の見学ツアーの実施も難しいとのことで、こちらのバーチャルツアーが紹介されていました。
以下は私が講演会に参加しながら取ったメモです。
細かな表現などには間違い等があるかもしれませんので、その辺りをご理解いただいた上で読んでいただけると嬉しいです。
◎少年院に入院してくるこどもの特徴
・大人への不信感が強い
・虐待やいじめを受けた経験⇨大人が助けてくれなかった経験
・感情統制が未熟
・激しい行動化⇨他の児童や職員への攻撃、自傷などをしてしまう
児童養護施設などから措置されてくるケースに多い
・コミュニケーション能力の不足
昔の「非行少年」は暴走族などが多かった。反社会的ではあっても集団で行動するため コミュニケーション能力はあった
・非行少年の数は年々減少しているが、10代の自殺者は年々増加している。
「生きづらさ」が外ではなく内に向いている?
・入院者のうち、特別支援課程の児童・生徒は425人(26%)近年増加傾向
◎発達に課題のある在院者の特徴
・能力の差が激しい IQ50程度の入院者もいる
・単独犯の割合が多い 共犯者がいるケースが減りつつある
・性的な問題で入院するケースが多い
・虐待を受けた経験がある者、いじめを受けた経験をもつ者が多い
◎少年院入院の背景
・複雑な家庭環境(ヤングケアラー、母子家庭、父子家庭など)
・虐待を受けた経験
⇨少年院に入院中の男子の4割、女子の7割が被虐経験ありと回答している
実態としてはもっと多いかも
・生きづらさを抱えている
・相対的貧困率
OECDでは20番目の貧困率。日本は先進国の中でも貧困率が高い。
(グラフを見ると少年院における貧困の割合は日本の全体と比較すると+10%くらいでした)
◎少年院内での特徴的な言動
・ぶつかったり、足を踏んでも謝らない
⇨そもそも謝る場面だということがわからないことも
・人との距離感がつかめない(呼ぶとものすごく近くに来るなど)
・急な変更に対応できない
・力加減がわからない
・他者への口出しをしたり間違いを指摘したりする、失敗を許さない
・独特なこだわりがある(服装、食事など)
・落ち着きがない
・気持ちや考えをうまく表現できない
・人見知りする(10代後半になっても)
・空気が読めない、状況に合わせて行動できない
・矮小感や劣等感をもっている
・感覚過敏(音・光・触感など)⇨チェックリストを使う
◎具体的な対応
・特性を理解する
・できることはやらせる(やらないとできるようにはならない)
・繰り返し根気良く指導する
・意図的に褒める場面をもうける
・様々な資源を活用する(外部講師など)
・職員のできること、できないことをはっきりさせる
・特定の職員に負担が偏らないようにする
・職員間での連携を密にする
⇨職員みんなで方針を決めることで、うまくいかなかったときに「誰の責任か」を求めることがなくなる
◎少年院の特徴
・強制的に収容される 鍵付きの扉、窓には鉄格子
・24時間365日職員が関わる
・ハード面もソフト面も強固に構造化されている(日課など)
日課の学習の時間では基礎的な学力の向上のための指導(漢字、算数など)
⇨週に1回漢字や数学のテストをしているところもある
学習指導要領に基づいて授業もする
コミュニケーションの仕方を学ぶためのワークブックを法務省が出している
仕事をするなかで直面するコミュニケーションの問題についてのGWもする
(「こんな時どうする?」などと考える活動など)
◎少年院で変化を促す働きかけ
信頼回復のための関係性の構築
・個別担任制
・面接指導 ⇨この2つによる「信頼貯金」
構造化された環境
・ルールの明確化…いじめをさせない、虐待的な行動や発言をしない
各種プログラム
・アンガーマネジメント
・アサーショントレーニング
・認知行動療法
(参考)ケーキの切れない非行少年 宮口先生
集団処遇
法務省式ケースアセスメントツール
https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei03_00018.html
静的領域…生育環境など4項目
動的領域…非行に直接関係があるとされる内容
加害者が果たすべき責任
・説明責任…「何が起きたのか」「誰に影響を与えたのか」
・賠償責任
・謝罪
・許すかどうかは被害者が決める⇨「とりあえずの謝罪」は無意味
(参考)野坂祐子「トラウマインフォームドケア “問題行動”を捉えなおす援助の視点」
・少年院にいるものは「加害者」であるのに「被害者」だという意識が強い。
・自分の被害体験を話すことを通して加害性に気づくこともある
⇨こうした意識に焦点を当てたプログラムはまだない。
・被害者の気持ちを想像することが出来ない者も多い。
(例)特殊詐欺の被害者の手記を読んで「たくさんお金があるんだからすこしくらい取っても大丈夫だと思っていた。こんなに苦しんでいるとはわからなかった」など
少年院を出た後
・男子20%、女子は17%程度が実父母のもとへ戻るが実親が引き取りを拒否したり、親の元に返すのが適切ではない場合は別の方法を考える。
・少年院は引き取る者がいなければ出られないため、11か月で出られるはずが2年近く入院しているものもいる。
・更生保護施設に入るか住み込み就労、精神疾患などがあれば入院するケースもある。児童福祉施設に入ることもあるが少ない。
・一般就労が出来ない場合は福祉関係の施設に引き取ってもらうことが多い。
性的な問題、放火などの非行は引き取った施設においてトラブルを起こすことを心配し、スムーズに引き取り先が見つからないことが多い。
・地域に引き取り先がない(少ない)こともある。
・少年院を出た者と自分の家族を一緒に生活させることに抵抗がある人も多い
⇨社会の理解
法務少年支援センターなどが相談に乗っている
少年院在院中の担任が出院後サポートをする。勤務外に少年院出身者と会うのは絶対にNG。
少年院を出た後に掛けられる専用ダイアルがある。掛けてくるのは女子が多い。深刻な相談というより近況報告をしてくる子が多い。
「良かれと思って」の功罪
・「スケアード・ストレート」
アメリカのプログラムで少年院の少年たちが受刑者の話を聞く
⇨このプログラムを受けた少年の方が再犯率が高かった
・今やっていることが本当に効果があるのかを検証する必要がある
エビデンス(根拠)のある方法を用いることが重要
講演会に参加した感想
公認心理師試験の時に少年院についても学びましたが、実際に少年院で働いている方のお話を聞いたことで、より具体的にどんな場所なのかをイメージすることができました。
私自身、日頃から子どもと関わる仕事をしていますが、
「何でも職員がするのではなく、できることはやらせる」
というのは自分の仕事にも共通することだと感じました。
時間に追われていたり、やらなければならないことが山積みになっていたりすると、どうしても子どもの活動を最後まで見守れず、手を貸したり指示を出したりしてしまいます。「できることはやらせる」というのは簡単なことのようで、実際にはほとんど出来ていないと思います。ここまで書いて、ふと「子どもには失敗する権利がある」という話を何かで読んだことを思い出しました。
近年、子どもが失敗しないように、嫌な思いをしないように先回りをして障害となるものを取り除いたり、確実に成功するように手を貸したりしてしまう親が増えているそうです。そうしたい気持ちはよく分かりますし、私自身同じことをしていることが多い気がします。しかし、先回りをしてすべての障害を取り除くことは不可能です。困難にぶつかった時、「どうしたら解決出来るのか」と考える力や、助けを求める方法、失敗した時の気持ちの立て直し方などは自分で経験しなければ身につかないのではないかと思います。
現在の子どもとの関わり方を変えることは簡単ではありませんが、「失敗しなければいい」のではなく、失敗も成功も自分の力に変えていけるような子どもを育てることが重要だと感じました。
他にも学びがたくさんあった1時間でした。月に1回、こうした講演会を実施しているとのことなので、継続して参加していきたいと思います。