022.大寒と大学入試
大寒の頃になると、大学入学試験当日の降雪情報や交通機関の遅延情報がニュースになります。私自身は大学入試とは無縁の生活を何年も送っていますが、毎年、なぜわざわざ大寒の時期に入試を行うのかと腹立たしい思いでニュースに接しています。
1979年から始まった共通一次試験から、今年のセンター試験まで40年以上もこの大寒に時期に入試を続けてきた理由が理解できません。この時期はインフルエンザが流行し、降雪による交通機関の混乱も予想され、受験生の住んでいる地域によって大きな不公平が生まれることを長年に渡り容認してきた受験制度に心を痛めています。
私の受験時までは、国立大学は一期校と二期校とグループ分けされていて、2回受験できる仕組みになっていました。一期校は3月3日、二期校は3月23日に試験がありました。私が通っていた高校の卒業式は、まだ入試もこれからという3月1日に行われていました。
私は理数系がさっぱりダメで、5科目受験が必須の国立大学受験は早々に諦めていたので、2月の私大合格発表で私自身の進路は決まっていましたが、クラスの中でも優秀な国立大学受験生はまだまだこれからで、卒業後も学校に通って先生に相談したり、一期校に落ちてしまった生徒は、急いで二期校の書類の準備をしてもらったりしていました。
国立二期校に進学する生徒は、合格発表から入学式までまもないので、大慌ての新生活スタートになっていましたが、それでも暖かい春の日差しの中で準備ができました。
文部科学省、大学関係者、高校の先生方、予備校講師など、数多くの人々で考え抜いた制度なのでしょうが、毎年、天候と交通機関の混乱に翻弄される受験生が気の毒でなりません。試験時期を11月や12月に前倒しするか、2月か3月に遅らせるか、せめて1月中旬の大寒の時期を外すことはできないものかと願わずにはいられません。
私たちは最後の一期校・二期校試験でしたから、翌年の入試からは共通一次試験に制度が変わるので、これまで英数国社理の5教科の試験が、浪人すると7教科勉強しなくてはならないから、なんとしても今年合格したいとよく言っていました。
それにあの頃の私たちの心配事は「最近始まったばかりのマークシート方式では、機械が採点を間違えるのではないか」というものでした。今日では思いもしないような心配事でしょうが、当時コンピュータに対する信頼性はそんなものでした。ある日バス停で並んでいた時、ひとりの同級生が「マークシートって不安。コンピュータって信用できるのかな?」と言ったら、周りの子も「ホント、心配だよね、私も不安だった」とこれまで口にできなかった思いを異口同音に述べ始め、大いに話が弾みました。
また、子どもの頃からマルバツ式の答案では思考力・表現力が身につかないと言われ続けていた我々の世代にとっては、記述式の答案でないと、その生徒の真の学力はわからないので、マークシート方式は良い選抜試験とは言えないのではないかという心配もありました。もちろん記述式答案の採点者は各大学の教員という前提でしたから、昨今のニュースのように、記述式の採点をアルバイト学生がやるようでは公平性が担保できないなどという問題が将来議論されるとは思ってもいない時代でした。
当時、一期校と二期校の大学格差を是正する目的で共通一次試験が導入されましたが、当初の目的は果たせぬまま、試験科目が7科目から5科目に戻ったり、試験の名称がセンター試験に変わったり、前期日程とか後期日程が登場したり、私立大学も参加することになったり、英語にリスニングが取り入れられたり、あれこれ制度は変遷を重ねてきました。
気がつけばAO入試も盛んになっていて、私たちの頃の指定校推薦だけだった時代とは入試制度全体も大きく変わりました。また少子化の影響で受験生の人数も減りました。しかし、大学進学率も私の受験時は約4割だったものが、現在では約6割となっています。私が生まれた60年前は、大学進学率どころか高校進学率自体が6割未満だったことを思うと隔世の感があります。私が子どもだった頃には尋常小学校しか出ていないなんていう年配の人は大勢いました。
来年からは試験の名称がまた変わり、今度は「共通テスト」と呼ぶことになり、英語試験や記述式問題など課題山積の状態ですが、試験の時期だけは、大寒の頃というのは一貫しています。
今年も首都圏を始め、普段雪の降らない地域にも雪の予報が出ていますが、交通機関の混乱が最小限であることを願いつつ、受験生がこれまでの努力を結実させることができるよう祈ってやみません。そして、それと同時に、大学に進学しなくても充実した人生を送っている方々は大勢いるということもお伝えしたいと思います。
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