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ザゴスキンでホイヘンスとファインマン

先日,知人の「グリーン関数ってインパルス応答だって気づくのに時間かかったから,最初に教えてほしかったなあ」という吐露を耳にしました.本来同じものなのに,頭の中でしばらく同じものとしては認識できていなかった苦い思い出って,ありませんか?

今回は,私の中で長らく別々だった,ホイヘンスの原理とグリーン関数がザゴスキンのおかげで一致したときの話をシェアさせてください.

私のお気に入りの場の量子論の教科書,A.M.ザゴスキン著・樺沢宇紀訳「多体系の量子論[新装版]」(丸善プラネット)1.2 1粒子の量子論における伝搬関数から,今でも思い出す,はっとした記述.

物性で場の量子論がどのように使われているか,いわゆる非平衡グリーン関数法について学びたくて,学生の頃に旧版を購入.私にはめずらしく,積ん読ではなく,実際に何度も読み返していたので旧版の背表紙は剥がれてしまい,[新板]が発売されたタイミングで買い直しました.

そんな大好きなザゴスキン,1.2.1 伝搬関数:定義と性質 で1粒子問題におけるGreen関数を用いたシュレーディンガー方程式の解法が紹介され,1.2.2 Feynmanによる量子力学の定式化:径路積分へと続きます.その流れで,出会ったP.10の一節がこちら.

第1の原理は重ね合わせの原理である.これは数学的にはΨ(x,t)が線形微分方程式を満たすということであるが,物理的には波動関数がHuygens(ホイヘンス)の原理に従うことを表している.つまり進行する波面上の全ての点が次の波面の源であると見なし得るのである.

これを読んだ,その瞬間,私の頭の中の遠く離れた別々の領域に格納されていた2つの知識,ホイヘンスの原理とグリーン関数が同じものとしてつながりました.その決定的瞬間のメモの写真がこちらです.

まさか高校物理の波動で学んだ「ホイヘンスの原理」に登場する素元波がグリーン関数だったとは.これを知ってからは,高校生に物理を教える際には,「いまは素元波と包絡線による作図によるこの解法って,あとでグリーン関数というのを学ぶと数式で扱えるようになるからお楽しみに(ドヤ)」っていうようになりました.

グリーン関数といえば,グリーン関数がインパルス応答である,ということが(数学的操作だけでなく)腑に落ちたのは,ファインマン物理学でのファインマンの解説.そのファインマン物理学 のまえがきに,ファインマンとはオリジナリティに溢れた物理学者であり,ファインマン流の量子論はすべてをグリーン関数のコトバに書き直したというくだりも印象的でした.しばらくは何をいっているかサッパリわからないままで,それがファインマン径路積分であることは,かなりあとに知りました.

本質的に同じものなのにそうのように認識し,腑に落ちるようになるには,いろんな出会いが大切ですよね.ザゴスキンのようなちょっとした一言のような,読み手,聞き手の頭の中に働きかける気の利いた説明の仕方を私も心がけたいなと改めて思いました.

ザゴスキンのこの教科書,訳者の樺沢さんが翻訳してくださらなければ,まず出会えませんでした.まだ専門のことにも疎い私のような学生が,自分の専門外の洋書を読み漁って,この本を見つけ出すなんて不可能です.

樺沢さんによるキュレーションの力,確かな翻訳はもとより,細かい訳注と付録の追記に深く感謝しています.


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