共有知の次元(フェーズ)
2018年に本格的な活動を始めたJMOCですが、この年には、先日ご紹介したCARAVANシリーズの他に、もう一つの主要事業としてJMOCコラムの公開をスタートしました。
初年に公開された記事はちょうど100本。そこから約3年が経過した現在、記事は300本近くに及んでいます。JMOCの競技オフィシャルが様々な活動のなかで蓄積した情報や知見を、JMOCコラムなど通じて少しずつ公開してきました。これらの情報に、関係者やファンのみなさんから多くの関心を寄せていただき、ご活用いただいています。改めて感謝申し上げます。
JMOCコラムとCARAVANの2つの事業は、ともに、MMAのレフェリーやジャッジがこれまで経験的に培ってきたノウハウを、参加するメンバーや関係者、ファンのみなさんにご理解いただくため、言葉や理論に変換するプロジェクトでもあります。
JMOC活動前の現場では、新人のレフェリーやジャッジがオフィシャルとしてのスキルを向上させるために必要とされていたことは、「場数を踏む」ことでした。そして、かつては、関係者やファンのみなさんも、なんとなく、現場における判断の妥当性や、技量の巧拙を語っていたように思います。
現在、UFCやBellator、RIZINなどMMA主要プロモーションで採用されているMMAルールの試合において、KOやTKO(レフェリーストップ等)には明確な基準と根拠が存在します。JMOC活動前のフェーズでは、日本のオフィシャルがKOやTKOの根拠を示せないことがありました。現場で新人・若手からTKOの定義について質問されても、ベテランオフィシャルが明確に答えられないことが多く、答えたとしても「危ないから」「動いていないから」といった、回答者の感覚を伝えているに過ぎませんでした。
そんな曖昧な感覚や言葉を、みんなが理解できる理論や言葉に変換してきました。そして、理解が徐々に進んできていることを実感する機会が増えています。2020年11月21日に「RIZIN.25」で行われた朝倉未来vs.斎藤裕の判定結果について、関係者やファンの間で議論が起きたことも、みんなが共有できる知見への変換が少しずつ進んでいることを示す出来事でした。
これからも、多くの方々にご理解いただける言葉と理論への変換、および、それらを積み上げる作業を進めていきます。現場における数値・データ、競技運営における改善内容の履歴、ルールの解釈などの情報を整理し、共有知を更に強化していきたいと思っています。
スポーツの審判は、完璧にできて「当たり前」とされています。しかし、スポーツの現場で起こることは「一瞬」であり、また、過去とまったく同じことが起こることはありません。「当たり前」とされていることは、実は簡単なことではないのです。我々も完璧を目指しつつも、それができていないことがあります。しかし、「完璧にできなかったこと」(あるいは失敗)も、前向きに視点を変えて、財産として捉えています。我々は、改善点を共に考える(あるいは共有する)ために、定例のJMOCフォローアップミーティングを開催しています。JMOCでは、活動開始時から、「ボトムアップ」を繰り返し、それぞれのメンバーが持ち寄る知見がチームの課題を解決する共有知となるよう努めています。
競技オフィシャル個人では課題の解決が難しくても、仲間が「知」を持ち寄れば解決できることもあります。また、課題が高度になればなるほど、様々なステークホルダーと協働してより良いものを構築していく必要があります。競技オフィシャルだけでなく、選手、セコンド、ファンのみなさんと一緒になって新しい価値を生み出していくことはもちろん、他競技や異業種との連携も進め、業界の枠組みを越えた取り組みの必要性も感じています。
今年、JMOCは5シーズン目を迎えますが、これからも中立な第三者機関としての存在意義を見失うことなく、活動を続けてまいります。活動にご参加いただける方、ご支援いただけます方、協働していただける方、各種共創パートナーは引き続き募集しておりますので、これからも、どうぞよろしくお願いいたします!
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