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節分の豆撒きが危険!おうちでできる工夫は?

※2021/2/2 加筆修正しました

毎年毎年、節分の時期になると、小児に関わる医療者としてはちょっとハラハラします。

それは、節分の豆が小さな子どもにとって非常に危険なものだからです。現在は5歳以下の子どもには食べさせないで、とされています。(昨年までは4歳未満には、とされていました)

初めて子どもを持つ親は毎年新しく誕生していて、節分の豆が小さな子どもにとって危険だということが知られていないことも多いです。

けいゆう先生(山本健人先生)が、すでにYahooニュースで節分の豆のことについて誤嚥のリスクや症状について記事にされています。ですので、今回はどうして危険なのかの説明とともに、おうちでできる工夫についてを中心に書きます。

けいゆう先生の記事も是非併せてお読みください。

子どもの気管・気管支異物

「1〜3歳、特に1歳児が多く、男児優位である。1歳未満は少ないが、兄や姉が異物を飲み込ませて発生する場合がある」※1)とされています。

子どもの歯の生え方と役割、噛み方

私たち大人は、大抵の人は奥歯も前歯もあって、まぁそこそこ普通に食べている方がほとんどだと思うのですが、子どもはそうではありません。

前歯→6〜9ヶ月ごろに生えてくる。食べ物を「切る」役割をする歯。

臼歯(奥歯)→1歳半ころから生え始め、生えそろうのは3歳ごろ。食べ物を「すりつぶす」役割をする歯。

こう改めて書くと「前歯と臼歯の役割くらい知ってる!」と言われそうですが、私たちはその歯を使うのがもう当たり前になりすぎて、どうやって使うのかいちいち意識していません。していないために、子どものことに考えが及びにくいのです。

さすがにまだドロドロの離乳食を食べるような子どもにあの豆を食べさせる親はいないと思うのですが、奥歯が生えてくるとなんだか食べられそうな感じがします。しかし、実は生えただけではうまく噛めないのです。あの歯を使いこなすには、前歯しかなかったときの動きだけでなく、奥歯を使う動きが必要になります。

前歯で何かを噛むときの動きは、ざっくりいうと

1.口を開ける、

2.口を閉めるという2stepです。

しかし、奥歯を使うときの動きは

1.口を開ける 

2.横に動かしながら

3.潰して閉めるという感じです。
単に「押し潰す」なら開ける、閉めるで済むのですが、「すりつぶす」には横の動きが必要なのです。

実際に飴玉を奥歯ですり潰そうと自分で実験したところ、奥歯ですり潰す前に「犬歯で飴に亀裂を入れる」「そのあと奥歯の部分に食べ物を移動させる」という動作も無意識のうちにやっていました。人間ってすごいですね。

そして、子どもは当然ながら大人に比べて噛む力も弱いのです。そんなわけで小さい子どもは硬い豆などをうまく噛み潰せないのです。

そんなわけで、小さい子がうまく噛み潰せない豆ですが、乾いている豆は軽く、食べながらびっくりしたり笑ったりすると息を吸い込んだ拍子に簡単に気管や肺に入ってしまうのです。これが危険なのです。

気管や肺に入った豆はどうなるか

・窒息
・肺炎
この辺はけいゆう先生の記事に書かれています。
窒息はなんとなくお分かりいただけるかと思います。

豆は、気管に入ると、体から水分を少しずつ吸って膨らんでいきます。膨らんだ豆は柔らかくなります。全身麻酔をかけて取るわけですが、柔らかくなった豆は摘もうとしてもボロボロになって取るのが難しいそうです。(ここは医師の仕事なので私はやったことはないのですが)

節分の時に家庭ではどのような対応をすればよいか

豆そのものは撒かない

0〜1歳の赤ちゃんは、普段から、小さなホコリやゴミなどを見つけては嬉しそうにする子も割と見かけます。そんな子が普段見慣れない豆を見つけたら、かなりの確率で口に入れるでしょう。掃除を念入りにしていても、豆は家具の隙間などに入り込んでいきます。豆そのものを撒くのはおすすめしません。

小包装の豆を巻く

小包装の豆を撒くと、散らばる範囲は豆そのものを撒くよりも狭くなる上に、回収もしやすくなります。また0〜1歳くらいだと見つけても自分では開けられないのですぐには食べられないでしょう。(しかし、長時間放置していると包装部分をかじったりするので渡しても安全だとは言えません。)しかし、きょうだいがいて、上の子が食べたがったり欲しがったりするのをみると、下の子だけ我慢というのはかなり難しいことです。

・豆の代わりのものを用意してあげる

私のおすすめの代替品は、クッピーラムネの小包装です。

カクダイ製菓さんのHPによると、ポケットサイズにも色々ありますので、下の子の年齢や発達を見ながら選ぶと良いと思います。下の子が袋ごと口に入れてしまう恐れがある年齢や発達の場合は大きめの袋がいいでしょうし、そうでなければ10連のを切って渡してあげてもいいでしょう。

一緒に撒けて美味しい。豆よりも安全。もし上の子もラムネでもいいなら、きょうだいでラムネにしてしまうのもありでしょう。

・差別化するときの伝え方について

下の子が小さければ、「◯◯ちゃんは豆じゃなくてこっちね〜」みたいな感じで渡してしまえばいいのですが、2〜3歳になってくるとそれだけでは子どもが納得できないこともありますね。ここの説明が親にとってはかなり難しいところだと思います。うちでは年齢や成長発達の過程でその子だけ食べさせてあげられないものがある場合は、事前に二人に改まって説明をします。

「豆は6歳になったら食べてもいいんだって。上の子くんは、6歳だね。お兄さん(お姉さん)だから、もう豆は食べられます。はいどうぞ。
下の子ちゃんは、まだ◯歳(もしくは幼稚園や保育園の「◯◯組さんだね」)なので、下の子ちゃんはこっちを食べようね。」といって渡します。

こうしておくことで、上の子も「下の子はまだ食べちゃいけないんだ」とわかります。下の子も、自分が食べられるのはこっち、とすぐにわかります。納得するかは別として。

上の子の豆を欲しそうにしていたりするときは「6歳になったら食べられるからね」と肯定的に伝えるとよいでしょう。また、豆の代わりにもらったお菓子も美味しそうとか、絵が可愛いとか伝えると受け入れてくれることも。

「まだ小さいからダメ」といってしまうと、子どもは願望が全否定されたような気持ちになってしまって悲しくなるし、禁止されることは人間やりたくなるものなので、伝え方としてはあまりオススメしません。また、バレないように上の子だけにこっそり渡すのは、下の子が気づいたときにあとあともめます。

豆撒きはしないという選択肢もあり

上の子が下の子に勝手に食べさせたり口に入れたりしてしまうことがある場合や、どう考えてもこだわりの強さなどで下の子だけ代替品にできないと予想される場合は、もう豆には拘らずラムネ撒きにするとか、あるいはもう何も撒かないという選択肢もありでしょう。

豆撒きのそもそもの意味は「鬼を追い払う」ことです。誤飲誤嚥をさせてしまっては本末転倒です。子どもが大きくなってからやればいいことです。伝統も大切だけど、子どもの命と健康が最優先です。

・一貫して「あげない」態度を貫く

食べたいと言って泣いている子をみると、なんだかかわいそうな気持ちになってきます。そんなとき、誰かが「あげても大丈夫なんじゃない?」とか「うちはそんなことなったことない、心配しすぎ」などと言うかもしれません。しかし、そんな言葉に惑わされてはいけません。

車がビュンビュン通る車道に飛び出そうとする子を、わざわざ見過ごす大人はいないでしょう。どんなに泣かれても、子どもが嫌がっても、車道に行くことを許しません。それと同じことです。

「あげても大丈夫」とか、「そんなことなったことない」という人たちは、車道がどれだけ危険か知らないだけです。その人の子どもが無事だったのは車が避けてくれたり、たまたま車があまり走っていなかったからであって、車道が安全なわけではありませんよね。それと同じです。毎年50人くらい、子どもたちが食べ物で窒息し命を落としています。悲しいことです。

また、一度「食べられない」と言ったのに、子どもの態度を見て意見を変えるのは、しつけ上もよくありませんよね。こういうことが繰り返されると、子どもは泣き喚けばもらえると学習することにもなります。心を鬼にして、「絶対豆はあげない」を貫いて守ってあげてください。お願いします。

・6歳以上の場合でも気をつけること

6歳を超えた子どもでも、ふざけたり笑ったりしていると吸い込みやすく危険です。なので、親は食べさせるときは食べることに集中させるような配慮が必要です。幼稚園などで食べるときも「豆をしっかり噛んで食べるんだよ」と伝えておくといいですね。口に入れたままで、横になる・歩く・走る・飛び跳ねる、ふざけて大笑いする・くすぐるなどは危険な行為です。

10歳の子でもアーモンドで窒息し死亡した事例があります。何歳になったから安全ということはないのです。

子どもに関わる施設で働く方へ

私の友人の話ですが次年度から通う予定の認定子ども園のプレ保育で節分のときに豆を配られたそうです。当時、子どもは2歳になったばかり。友人は4歳未満は豆を食べさせてはいけないことを知っていましたが、園側から出された上に、子どもも周りの子が欲しがっているのをみて「食べたい食べたい!」となってしまい、収集がつかなくなってしまって結局食べさせたそうです。

園側から出されるとなかなか断りづらい雰囲気であったりしますし、見せたら子どもは欲しがってしまいます。

子どもがいる施設で勤務される方に、小さい子どもが口にしたら危ない食べ物がある、という認識がもっと広まってほしいと思っています。

おまけ(豆以外の子どもにとって危険な食べ物)

つるつるしているもの、噛み砕けないもの
・キャンディ
・こんにゃくゼリー
・豆類、ピーナツ(小さくしてもあげてはいけません)
・たくあん
・りんご、ぶどう、ミニトマト(小さくて切ってあげましょう)

皆さまにとって節分が、楽しいものになりますように!


引用)
1)日本小児救急医学会・日本小児外科学会監修.ケースシナリオに学ぶ小児救急のストラテジー,株式会社へるす出版,2009,p328.

参考)
1)節分の豆撒きに潜む危険 幼い子どもの命を奪うことも(山本健人)Yahooニュース.(2020/01/31)

https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamototakehito/20200130-00158038/

2)日本小児呼吸器学会.小児の気道異物事故予防ならびに対応(2020/01/31)

http://jspp1969.umin.jp/ind_img/cc03.pdf

3)教えて!ドクター.乳幼児が注意する食べ物とその予防.(2020/01/31)

https://oshiete-dr.net/pdf/2018hachimitsu.pdf

4)教えて!ドクター 子どもの病気とおうちケア.(2020/01/31)

https://oshiete-dr.net/pdf/home_care2018_2.pdf


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