右手の気持ち、左手の気持ち
通勤電車の中でいつものように本を読む。パウロ・コエーリョ著『弓を引く人』61ページにある次の文章に目が留まる。「もし私がこの的であったなら、私はどこにいるのか?射手にふさわしい敬意を払うために、この的はどのように射抜かれたいのだろうか?」これはどういう意味を表すのか。こんな表現に出合ったことがない。そもそも弓を引く人は、的の気持ちを考えているのか。不思議な感覚に囚われた。一元論にも通ずる、斬新なまなざしである気がしてならない。
『ここで始まることが世界を変える』というスローガンを掲げるテキサス大学の卒業式スピーチにおいて、ウィリアム海軍大将は「世界を変えたければ、ベッドメイキングから始めよう」をテーマに次のように熱く語った。「ベッドメイキングとは、人生の小さな物事を強固にしてくれるものでもある。小さな物事を正しく行えないのなら、大きな物事を正しく行うことなど決してできない。もしも惨めな1日を過ごしたとしても、家に帰ると自分が整えたベッドが待っている。そして、そのベッドがあなたに明日をより良くする勇気を与えてくれる。」
この教えに感化されて、毎朝布団を綺麗に整えることを心がけている。これを疎かにするとどこか居心地が悪い。通信の構想を練っているとき、ふと思う。布団の気持ちはどうなのだろうか。寝ている私は布団の気持ちを考えているのか。布団に敬意を払えているか。そう考えると、1日の疲れを癒してくれる布団を整えるのは自然な流れであるように感じる。モノという言葉は妥当ではないかもしれないが、モノが感情を持っていても不思議はない。量子レベルで捉えれば、ヒトもモノも大差はなく、ヒトの知的レベルがそのことを認識できていないだけかもしれない。
岡田淳著『竜退治の騎士になる方法』には、騎士になる一歩は“靴を揃えること”と述べている。そして、大ベストセラーともなった『修身教授録』の著者である森信三氏は、しつけの三原則として①挨拶、②ハイの返事、③履物を揃えることを挙げている。どれも基本的なことで小さいころから大事にしなさいと言われていることなのだが、大きくなるにしたがって蔑ろになっているなと痛感する。どんな立派なことを思い描いていたとしても、身近にある小さいことを積み上げずにいてはその道もどんどん遠くなるだろう。それは学問でも同じことがいえる。
易経の「易」という漢字は、月の明るい部分と暗い部分を表す象形文字である。ヒトには長所も短所もある。つい短所は見ないふりをしてしまいがちだが、どちらもその人自身を表す。見える部分だけを意識化すると、見えない部分がどんどん隠れてしまう。恋心はその最たるもの。明るい部分と暗い部分がお互いに気持ちを考え合い、それぞれが受け入れているから、一つとして存在する。ヒトの気持ちはもちろんだが、モノの気持ちも考えられたら、愛の周波数が高まるのではなかろうか。
어제랑 또 다른 짜릿한 나 두려운 모든 게 설레이게
きのうとは違う刺激的な私 怖いものが全部ときめくように
(IVE『I AM』)
🎵 人生いろいろ。人の色もいろいろ。対話を楽しもう~ 🎵
【Color 20】いつ頃、どのような理由で第1志望の大学を決めましたか。
【A】中学生のときに、ノートに色々なランキングを日々書いて独りで楽しんでいました。その一環として、大学ランキングがあって、私立大学がいつも上位を占めていて、数学者である秋山仁教授がいるような大学で勉強したら楽しいよなという憧れを抱きます。そして、高校1年生の冬(正月)には第1希望大学の赤本を買って、祖母の家で黙々と奮闘していました。
【Color 21】部活でも、勉強でも、練習ではうまくいくのに、本番になったり、テストになったりすると、緊張などによってうまくいかないです。どうしたらいいでしょうか。
【A】あなたはそもそもどうなりたいのでしょうか。本番でも、練習と同じようにうまくやりたいということでしょうか。では、どういう状態になっていれば、「うまくいった」とあなたは判断できるのか考えてください。緊張することは嫌なことだなと認識しているかもしれませんが、緊張することは決して悪いことではありませんよ。あなたが一所懸命に取り組んでいるからこそ緊張するのです。あなたが適当にやっていたら、緊張なんてしません。とはいえ、本番でもうまくやりたいですよね。実は、それは難しいのです。本番というか、そういう修羅場を何度も何度も通り過ぎることで、慣れていくしかありません。私は喋ることが苦手で、人前ではあがってしまいます。繰り返して慣れてきたというのもありますが、「うまく喋ろう」と本番前に意気込むことをやめてみました。たとえば、観客を笑わせようと思って、誰も笑ってくれなかったら焦りますよね。そんなふうに結果を期待したり、求めたりすることをやめたら、気が楽になりました。勿論、事前にはできる限りの準備はします。でも、それだけです。実際、バドミントンの全国大会でも、大学受験でも、準備はしたものの、本番は力が入りすぎて、しくじっています。そんな体験もすべて人生です。だから、あなたのその体験はとても大切だと思いますよ。
【Color 22】トラウマを無くすためにはどうしたらいいのでしょうか。
【A】逆に質問ですが、湖などの波をすべて消すことはできると思いますか。それは無理でしょう。お風呂の小さな波でさえも0にはできません。水に手を浸ければ、そこから新たな波が発生します。緊張も同じで、落ち着こうとすればするほど、逆効果です。今、緊張しているなと思えばいいだけです。いずれ忘れます。私は約7年前に自動車事故を起こし、そのときのフラッシュバックは突如やってきます。でも、そればかりずっと気にしていると前には進めません。だから、また思い出してしまったと思うくらいに留めています。これと同じようにして、トラウマ自体が悪いわけではないので、無理矢理なくそうと思う必要はないと思いますよ。ああ、また思い出しているなと思うだけで、しばらくすれば自然と考えなくなります。逆にそれを記憶から抹消しようとしてしまう方が苦しいです。自分が弱いことを知っている人の方が強くも優しくもなれます。そして、同じような経験をしている人たちも含めて、周りの人たちの役にも立てます。だから、自分の弱さは大切です。奥底にしまっておくのではなく、この人になら打ち明けてもいいという人にぜひ話してください。自動車事故なんて普通は隠そうとしたくなるものですが、私はこれがあったからこそ「いのちを大切にすること」を真剣にみなさんに伝えることができます。しかも、今まで見向きもしなかった本を自ら読むようになり、それがきっかけで素敵な人とも巡り合うことができました。そして、自分の見る世界も変わってきている気がします。あなたがどういう世界を生きたいかをぜひ大切にしてほしいです。
2023.6.15