伝えること、自分を知ること book review
『13の理由』
ジェイ・アッシャー・作
武富博子・訳
講談社
『アメリカのベストセラー問題小説が上陸!』
こう帯に書かれていた。11カ国で、すでに翻訳も決定している。私も発売前から知っていた。おそらく書店で見かけた人も多いと思う。
私は、装丁に驚いた。このカバーの写真……。人間の顔は角度が違うだけでこうも怖いのか……。もう少し正確に言うと、表紙の写真は少女が草の上に寝ている顔のアップだった。眠っているわけではない。正面から見ると顔は横を向いている。頭部だけが地面に、ごろんと転がっているような感じで……。
読後はこの装丁に「上手いなあ」と、ため息が出た。
ある日、高校生の少年クレイのもとに、差出人の書かれていない小包が届く。中身はプチプチで包んだ七本のカセットテープ。表と裏それぞれの面に1から13までの番号が記され、13の裏には何も書かれていない。
テープを再生すると、二週間前に自殺した同級生の少女ハンナの声が聞こえて来た。彼女は「わたしの人生について話します」と言う。どうしてわたしの人生が終わったのか話すと。言い変えると、なぜ自殺したのか理由を話すと言っている。これは遺書なのだ。そして、このテープをきいているあなたは、その理由の一つだとも。でも、なぜ僕なんだ? 最初、クレイはたちの悪い冗談だと思う。でも違った。彼女は本気だ。
テープを聞く人物は13人プラス1人。七本のテープをすべて聞き終えた人は、リストの次の人に送る。もしルールを破る人がいれば、その時は内容が公表される。テープには(プラス1人の)コピーが存在する。ハンナは、13人すべての人がテープを聞くよう仕向けたのだ。これは衝動的な行為ではない。彼女は13人にテープを聞いてほしいと願っている。なぜ? それが自ら死を選んだ理由だから。
ハンナは彼ら13人を責めるために、苦しめるためにこのテープを残したわけではない。ただ、彼らの大半は自分が彼女に何をしたのか、わかっていないと語る。だから、わかって欲しい。知って欲しい。そして、ハンナ自身も知りたいのだ。
二年の年月をさかのぼり、一つずつ、一人ずつ、彼らの言動が語られてゆく。誰が何をして、そのため彼女に、彼女を取りまく周りに、どんなことが起きたのか。驚くのは、その具体性だ。言語表現は、ある程度の人たちに共通性が最も高い。他の表現では伝わらないし、また、知ることもできないだろう。
ハンナのように自身の状況を言葉に置き変えたとき、彼女自身も理解したと思う。漠然とした孤独や不安、苦しみからではなく、なぜ自分が、自ら死を選ぶのかを。
自殺した少女の話なのに、この物語は決して暗くない。それは、この行為が残された者だけにではなく、ハンナ自身にも向けられたものだからだ。私は彼女に同情しても、かわいそうだとは思わなかった。
なぜこの本が問題小説なのか。高校生の自殺をあつかった物語だから? 私は少し違うと感じた。おそらく、この物語がハンナの行為をポジティブに描いているからだろう。
最後の言葉は、何人の人が気づいただろうか。それは7本目のテープのB面の途中に入っている。悲しみは深くても、今後、クレイが出会うものは尊いはずだ。物語は、またここから始まる。始められるのだから。
同人誌『季節風』掲載