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THE SECOND 2023 ~漫才トーナメント~ 感想・批評 (前編)

<一回戦:第1試合>
【先攻:金属バット】
まず感じた率直な印象は、緊張——金属バットはアガっていたと思う。
冒頭、つかみが上手くいかなかった。友保さんの「ゲボですよ。ワシら」という卑下がハマらないまま、小林さんの「灯台デモクラシー」のボケは、最初のボケとしては突飛過ぎた。

その後、「肘と指先」のくだりから、あるある系のボケ、ぶっちゃけや内輪ネタと、比較的解り易いボケを並べたが、漫才がスムーズに進行していったようには見えなかった。
結果的に、ボケの並べ方に失敗したような印象が残った。

さらに批判を続けるなら、「賞レースの時のTHE MANZAIやな」というボケも判りにくかった。センテンスを短くしたかったのだろうが、「賞レースとしてやっていた時のTHE MANZAIやな」と丁寧に伝えて欲しかったと思う。
「THE MANZAI」の方に引っ張られてしまい、ツービートが出ていた頃の初期の「THE MANZAI」まで、頭がよぎってしまった。

オチは好みだったし、ネタの中身は概ね良かったと思う——「月とスッポン」の部分など面白い。しかし、それだけに面白さを伝え切れなかったのはもったいなかったと感じる。

[THE SECOND・審査方法]
観覧客の内、100名による採点
1人当たりの持ち点は3点で合計300点満点
「とても面白かった」          3点
「面白かった」                     2点
「面白くなかった」              1点

[個人的採点]
3点満点:2点

[あえて100点満点だったと仮定したなら——]
100点満点:86点

【後攻:マシンガンズ】
マシンガンズの漫才がとても面白かったかと言えば、そんなことはない。ただ、金属バットの漫才とは好対照ではあった。

まず、つかみに勢いがあった。緊張は感じさせたが、力で押し切った。
そして、金属バットが自分たちを落としたままの低いトーンで漫才を進めていったのに対し、マシンガンズは自虐で始めながらも、「THE SECOND」という煌びやかなステージで漫才が出来ることを喜び、アゲていった。
観覧客が審査するという今大会の性質を踏まえても、“陽のパワー”でネタをした方が、現場での一体感が出やすかったのだろう。大会を褒められて、観客も悪い気はしなかったはずだ。

しかし、ボケ自体は軽かった。ピークは、呼ばれていった営業先で、お客さんが「子供2人と犬8匹」だったという部分。
オチにつながるバイトのネタに関しても、飲食店経験者なら“あるあるネタ”としてツボるかなという程度。

さらに重箱の隅をつつくなら、冒頭で金属バット、自分たち(マシンガンズ)と出てくる順番は普通じゃないとしておきながら、「決勝のメンバーは正統派揃い」としたネットの反応に対し、「超新塾見えてねえのか!」とだけしたことには、少し違和感があった。

[個人的採点]
3点満点:2点
100点満点:81点

[審査結果]
先攻:金属バット 269点
後攻:マシンガンズ 271点

個人的には金属バットが勝者だったが、大きな異論はない。というのも、「緊張」という部分では、明らかにマシンガンズの方が観客を巻き込めていたからだ。
しかし、これが5点満点や10点満点での採点だったならどうだっただろう。

「とても面白かった漫才」が3点であるのなら、この二組には自信を持って2点以下しか付けない。
その中で1点を付けるとしたならマシンガンズになるのだが、観客を乗せるという意味でマシンガンズが上回っていたことを考えると、マシンガンズのみを「面白くなかった」=1点ともしづらい。

金属バットが勝っていたかもしれないし、余計に点差が開いていたかもしれないし——。
その辺り、どうなったかまでは判らないが、採点方法が違っていたなら果たして——とは思う。

<一回戦:第2試合>
【先攻:スピードワゴン】
今大会の出場者の中で最も知名度があり、テレビで姿を観ることがあった漫才師。そして、その実力通りの漫才を、二人は披露したと思う。

第1試合で明暗を分けた嫌いのあるつかみも、場の雰囲気に負けない貫禄のあるもの。漫才の形式は、今大会唯一と言ってもいいコント式漫才。小沢さんがひたすらに「小沢」を演じ続ける漫才。——面白い。
さらに、「コント漫才」とはいえ、ツッコミである井戸田さんはそれを外側からツッコむという、従来からは変化した形——「もはや俺、副音声だわ」
それでいて終盤、井戸田さんが小沢さんのコントに巻き込まれるという形は、今大会全ての漫才の中で、最も角度のあるお洒落な展開だったと思う。

その上で、井戸田さんのプライベートを最後に絡めることで、ネタ自体(台本)の完成度が高かっただけではなく、ジャンクフード的な畳み掛けの面白さもあった。
「やいやい、やいやい。あー、決めた。この恋、俺、よく見る」——3組までの時点で、初めて声を出して笑った漫才。

[個人的採点]
3点満点:3点
100点満点:93点

【後攻:三四郎】
正直言って、前半部分に関しては、今大会最もつまらない漫才だったと思う。

芸人の名前——固有名詞——を論ったネタ。そういう意味では、自虐から世間に対しツッコミまくっていたマシンガンズと同じ内輪ネタのカテゴリー。
ただ、大会中に自らも述べていたように、ネタはしっかりと台本通りやっているようで、マシンガンズのようなフリートーク感は薄い。

フリートーク、暴露、笑い声を取るのか。
練られた台本、深みのあるボケ、感嘆を取るのか。
どこか中途半端な印象だった。

ネタに入ってからの最初の二つのボケ——「新宿カウボーイ」と「HEY!たくちゃん」は面白いのだろうか?前提を知らないと笑えないと言い切りたくなるほど、狭いゾーンだったと思う。
それを面白いことのように雰囲気を作れる辺り、バラエティーで培われた力なのだろうが、それでも「キャイ〜ン」のボケに関しては、悪い意味での強引さを感じてしまった。
笑いのバリエーション(動きのボケ)が欲しかったのだろうが、それ以上に展開としての無理を感じた。また、かといって「芸人固有名詞」という縛りを、全編を通し設けているわけでもない。

小宮さんが「歯が欠けて売れた」なんて正直知らない。「佐久間宣行」のボケも既視感がある。
差を付ける意味でも、4組目にして初めて1点に相応しい漫才だと思って観ていた。が、最後に大きな爆弾が待っていた。

正直、「キングオブコメディ」のボケは笑った。面白かったと思う。
ただ、この禁断のカードをどう評価するかは難しいところだ。そこに至るまでがずっとイマイチで、「キングオブコメディ」がパンチラインの漫才。高さや大きさはあるが、中身がスカスカ——張りぼてとでも言いたくなるような漫才。

[個人的採点]
3点満点:2点
100点満点:83点

面白ければ何でもいいか、と「キングオブコメディ」のボケを評価した。「キングオブコメディ」という名前を出せば皆が皆面白くなるというわけでもない。
「キングオブコメディって、キングオブコメディ?!」と、改めて聞き返す様などはプロの技だ。だから83点。

[審査結果]
先攻:スピードワゴン 257点
後攻:三四郎 278点

また自分が評価した漫才師が敗退した。ただ、三四郎の得点の高さより、スピードワゴンの得点の低さの方が衝撃。スピードワゴンのネタを否定することは、チャレンジャースピリットを否定することに繋がらないだろうか?
奇しくも小沢さんは自らの敗因を、「自分たちはMー1をやってた」と語ったらしいが、だからこそ自分は面白いと感じた。大会全てを通しても、最も若々しい漫才だったと思う(もちろん下手という意味ではない)。

ちなみに、大会後知った話によると、このネタは昔からあるネタでもあり、すでに知っている人が多かったことも敗退した原因だったのではないか、ということらしい。
しかし、それでも——である。
小沢さんの作り込まれたキャラクターは、何度見返しても面白いと感じさせる、リピート力のあるものだったと思う。

また、Mー1ついでに少し話を逸らすなら、今の小沢さん及びスピードワゴンの二人ならば、敗者復活戦で勝ち上がってきた時と同じ漫才を、故・立川談志の前で披露したとしても、「私、下ネタ嫌いなんで」という酷評は、断じて受けないだろう。
あの時の50点という評価は、「女性の生理」をイジったからではなく、全体を通してただ漫才が下手くそだったから——それだけだ。ますだおかだとおぎやはぎの評価が高かったことも、それを裏付けている。

スピードワゴンはMー1のような若々しさを失わないままに、着実に成長している。
スピードワゴンの評価が低いことは、“本質的”な面白さを理解出来ていないからのような気がする。

<一回戦:第3試合>
【先攻:ギャロップ】
一言でいえばブラックマヨネーズ。
ただ、違いもある。

林さんはとにかく上手い。喋りもそうだが、動きも十分に上手い。
この辺りまで来ると、観客も温まってつかみから流れが上手くいかなくなるということもない(そういう意味では、金属バットはやはり不利な出番順だったのかもしれない)。ただ、耳だけで聞くとそこまで面白い漫才でもなかったりする。
「耳だけで聞く」——というのは、あくまで台本として文言だけを追うという意味である。しかし、これを漫才として、挙動と組み合わせて見ると、十分以上に面白くなる。

また、ネタの切り口としては、かつらも徐々にピークアウトして行かなくてはならないというのが斬新だった。
この辺りの神経質さがブラックマヨネーズの吉田さんを彷彿とさせるのだろう。相方の毛利さんの提案を「お前な」というトーンで悉く否定していく。
また、それに対して「ほなら(それなら)」と提案していく毛利さんも、小杉さんが被って見えた(どちらかというと毛利さんの方がブラマヨ感が強いと思う)。
しかし、だからといって評価しないということにはならない。ギャロップのその掛け合いも、自分たちのものにしっかりとなっていたからだ。
また、「ハゲ(かつら)」という部分では、確実に林さんたちによるオリジナルの掛け合い漫才である。

そして、決定的にブラックマヨネーズと違うのは、話の導入を毛利さんから始めているという点だ。ボケの吉田さんから話を振っていたブラックマヨネーズと違って、この「かつらネタ」は毛利さんの提案がスタートになっている。
だから、最後にあの秀逸なオチが用意できる。

[個人的採点]
3点満点:3点
100点満点:94点

【後攻:テンダラー】
一番評価の難しい漫才師がテンダラーだったりする。
間違いなく上手い。その上手さは面白くもある。ただ、手放しで面白いかと言えば、そこまでだとは思えない。「面白さに手を掛けている上手い漫才」という感じ。

浜本さんの女性としての動きや、スカウトする価値が白川さんにあるかどうか値踏みしている挙動などは、確かに面白い。ひょっとしたら動きが面白過ぎて、そこに言葉が加わるとボケとしての面白味が軽減するのかもしれないと思うほど、キレがある。

また、別の見方をすればブロックごとにネタを切り貼りしている漫才なので、ネタが進むにつれてどこかで飽きが来るのかもしれない。
同じボケでも、一つのストーリーとして行われる漫才の場合、その流れの自然さからボケのハードルが下がりもするが、テンダラーの漫才は、それが許されない作りになっているように思う。

また、今回のネタに関しては、終盤ゲロを吐く白川さんの顔に足を持って行ったり、髪の毛を掴んで持ち上げたり、オチではたすきで尻を拭いたりと、下品な展開に観客が引いていたように感じた。
尻上がりに面白くなれない漫才だった。

[個人的採点]
3点満点:2点
100点満点:87点

[審査結果]
先攻:ギャロップ 277点
後攻:テンダラー 272点

初めて自分が面白いと思った方の漫才師が勝った。が、自分の分析が審査員(観覧客)と合っているとは思わない。
ただ、ここまで後攻の漫才師が勝ってきた中で、初めて後攻のテンダラーが負けたことを考えると、後半にあった下品なボケの畳み掛けの分が、そのまま点差として付いたような気がしている。
もし「ゲロ」のくだりを、「(頭髪の薄い)ギャロップやったら出けへんで」と対戦相手の林さんを意識して組み込んだのだとしたら、結果論になるが、軽率だったように思う。

また、ここまでの傾向として、フリートークっぽい漫才をしている方が明らかに勝っている。
今後、第2回、第3回と開催が続けば、芸人側が間違いなく対策を練ってくる部分であり、Mー1——プロ審査——と差別化が図られそうな部分でもある。
だが、世界観が強固な漫才が評価されるという余地も見てみたいと、個人的には感じる。

<一回戦:第4試合>
【先攻:超新塾】
本人たちも言っていたが、稽古をし過ぎたのかもしれない。
もちろん5人組なので、コンビの漫才師の何倍も稽古が必要であり、アドリブ強めで漫才を仕上げるなど神業だと思う。が、「型」が見え過ぎてしまった気がした。

個別でいうと、必ずしもつかみが上手くいってなかったような気がする。ちびっこギャングのようなタイガーさんと黒人でスラリとしたアイクさんが座高を比べるというネタだったのだが、腰を屈めた状態まで同じ高さ……にもかかわらず立ったらというボケで、一瞬「座高って何だったっけ?」と、考えてしまった。
上半身を起こすことでアイクさんの身長が頭一つ抜け出るのだが、そうなると上半身の長さでアイクさんが大きなことになり、足が長くなければいけないのって……?と、ネタがなおざりに。

このようなノッキングでネタに集中できなかった人がどのくらいいたかはわからないが、改めて見返すと観客の人たちもあまり笑っていなかった(タイガーさんとアイクさんを「G7」と表現したことも、上手く受け止められなかったのかも。それ以前に松本さんがボケで使ってもいたし)。
この辺り、つかみから本ネタに入る部分で、明らかに空白の瞬間がある。サンキューさんのスベリ芸も超新塾のネタを初めてちゃんと観る自分としては、何をやっているのかがよくわからなかったし、そもそも「サンキューサン」という言葉の羅列が、人名を指していること自体が飲み込めなかった。

そして、ここからのネタが基本的にベタ。もしくは、何をやっているのか、自分にはやはりわかりにくかった。
ある意味、稽古のし過ぎで稽古を見せられているとでも言うような——。
5人をフォーメーションのようにして息を合わせるところなどは、オリジナリティーがあるしさすがだと思ったが、“お笑い的”に面白いかというと、どこか眺めているような感覚。
楽しい気分にはなったが、これは「お笑い」ではなく「エンターテイメント」なんだなに着地した。
正直、オチである「ワクワクさん」のような意外性のあるボケが中盤に一度あれば、印象は変わったのかもしれない。

[個人的採点]
3点満点:2点
100点満点:82点

【後攻:囲碁将棋】
純粋に「とても面白かった」。
スピードワゴンのネタは3点と評価したが、正直好みに左右される要素の大きなネタだったとも思う。しかし、囲碁将棋の一本目の漫才は、素人も玄人も捩じ伏せられるネタだと感じた。

まず8組目のラストにして、初めてつかみがなかった。あくまで説明(フリ)だけでしっとりと漫才を始める。それでいて「街で買い物する様子がとても毎日がスペシャルに見えない竹内まりや」という最初のボケ。
この時点で「95点」だと思った。センス、面白さ、才能……これだけで、ある意味判る。

骨太なボケを一発目に持ってくるという部分は、金属バットと同じでもある。しかし、前者にはセンスを感じ、後者には解りにくさを感じた。金属バットに酷な言い方をすれば、これは漫才師としての“腕の差”である。
文田さんは自分たちのことを「断トツ無名」だと評していたが、そうは言ってもコンテストだった時の「THE MANZAI」の決勝に、二回勝ち上がっている。金属バットと比べれば、卑下にもほどがある。

また、お互いがボケるという意味では笑い飯を想起させるネタでもあったが、はっきり言って笑い飯を超えていたと思う(Mー1をイメージしての比較なので、4分間と6分間の差はあるが)。95点だと感じさせたネタは、その後も失速することはなかった。
「ドとソの音が出ない『マツコ・デラックス』クラリネット」ではダッチロール仕掛けたが、一度「面白い」と手放しで感じさせたら、「面白いことを言ってるんだろう」と雰囲気で押し切れてしまうのが笑うという行為でもある。
それに、ここからツッコミであった根建さんが仕掛ける側(Wボケ)に回るという構図も、展開上良かった。

お互い「チャゲ&飛鳥」でボケたくだりも、飛鳥(文田さん)の方は「飛鳥時代のところでやたらテンションの上がる飛鳥涼」と比較的ベタなボケであったのに対し、チャゲ(根建さん)の方は「体育の授業でドッジボールの時にスタートから積極的に外野に出るチャゲ」と想像させることによって面白さを感じさせるといういい台本だった。
最後に長渕剛のモノマネを試みる際も、指で喉を抑えるなど上手く味付けを変え、飽きさせない工夫が凝らせてあった。

[個人的採点]
3点満点:3点
100点満点:95点

[審査結果]
先攻:超新塾 255点
後攻:囲碁将棋 276点

順当な結果。超新塾が何点を挙げるかは想像の付かないところであったが、点差を付けて囲碁将棋が勝利。しかし、ここで囲碁将棋に1点を付けた審査員が2人——。
今大会一番の衝撃は、一本目の囲碁将棋のネタに1点が2人もいたことである。

3点は避けたとしても、せめて2点なのではないかと自分は思う。超新塾と差を付けたかったとしても、1点はないのではないか。正直、どうやったらこの漫才に、1点が付けられるのかが解らない。
最初からずっと何をやっているのかが解らなくて(確かに「ドラゴンボール」や「チャゲ&飛鳥」など、世代的に判らない人は解らないのかな?)、長渕を喉で探そうとするコミカルさで何とか2点に上がったものの、直後のしょうもないアリアナ・グランデの真似で1点に戻った?!

Mー1だったら優勝していてもおかしくなかったネタ。
最終の三本には残る。

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