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サブカル大蔵経321篠田博之『増補版ドキュメント死刑囚』(ちくま文庫)

残虐非道な事件。極刑以上を望む被害者の家族。すぐ次の事件に飛びつくマスコミ。忘れていく世間。そんな中、死刑囚となった加害者にたずね続ける篠田博之さん。

「遺族の意見陳述を聞き、二人の娘に対する愛情の深さを知りました。と同時に私が育った環境との違いをも感じました。」(小林薫)p.169

なぜ彼らは死刑囚になってしまったのか。どうすれば悲しみの連鎖が断ち切られるのか。その鎖は自分のすぐ側にあるかもしれない。

手のことをわかってくれなかった両親のことを、「愛情がないと感じたのは、二十歳以前だべな。」(宮崎勤)p.59

世間を騒がせた著名な死刑囚と呼ばれる人たちとの丹念なやりとりの中で、死刑を望む者に死刑が抑止力になっていないことにわだかまりを感じていく著者。

それにしても、登場人物たちの勝手な個人的な理由で無差別に殺された人たちが無念すぎる。

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【宮崎勤】

5月16日祖父死去。29日、親族が形見分けをしている席に突然入ってきて、「みんな出て行け!これはおじいさんのものだ。おじいさんが戻ってきた時そのままの状態でないと大変だ」などと怒鳴った。p.41

「私はいつも頬杖をついているのだが、その日はどうしてか知らないが、テーブルのない所でイスに座らせられた。」p.30

「今回もかわいらしいと思いました」p.116

 発言の純粋さと冷酷さの幅広さに驚く。

解体行為に、一家団欒のシンボルだった卓袱台が使われた。/〈肉物体〉〈骨形態〉人格から物体に変化する。さらにそれが形態に変わる。p.59.67

 ヒトとモノが混ざり合っていく。

【小林薫】

この日は彼が一番風呂だったのです。彼は自分が一番風呂であることを知っていたので入浴の準備をしていたのか、洗面器がキャリーバッグの上に置かれたまま死に逝きました。また、この日はとても寒い朝だったのに、はんてんも着ず、刑場へと歩みを進めて行ったのです。彼の独房には、ハンガーにかけられたはんてんが寂しそうにしていました。(小林の側の房Kさん)p.193

 当日の朝知らされ、速攻で行われる死刑

【宅間守】

三割くらいは彼に共感を寄せたものもあったのだという。自分も一歩間違えれば宅間守になっていたかもしれないというものだ。/「コラッーコラッ雑民達よ、ワシを下げすむな、ワシをアホにするな。」p.203.216

 反省を拒む殺人者。

【金川真大】

「おはこんにちばんは〜!!今、頭の中には死刑の二文字しかありまペン。」p.250

「自殺ができる人種は二種類しかいません。武士みたいな人と、絶望してる人です。俺はどちらでもない。自ら直接命は絶てない。ギロチンのスイッチはあなたが押してくれ。」p.266

 死ぬために人を殺す。

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