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珈琲遍歴

読書のお供といえば珈琲という人は多いと思いますが、本の世界同様、珈琲の世界も一度浸かるとズブズブ沈んで二度と出られない底なし沼的な恐ろしさがあります。
定年間近の父がまさにその沼にどっぷりいってしまい、死ぬほどミルを買った挙句、デロンギのでっかいコーヒーメーカーまで買ってしまい、実家の台所の4分の1を占拠しています。
私は絶対こうはならない!と、極力旅先で豆を買うことだけに専念し、珈琲道具は手動ミル1本。ネルドリップに憧れはありつつも、現在のところ自制できています。

今回は、なんとなく自己満足的に、これまで旅先で買った珈琲豆の中から特に美味しかったものを列挙したいと思います(そうして私の欲望をネルドリップセットから逸らす作戦です)。




豆の香り漂う、うだつの街並み
(A COFFEE:徳島)


あるとき思い立って、徳島に一人旅に行った時に出会った珈琲。徳島市街地から電車に揺られて吉野川を遡り、美馬市脇町の「うだつの街並み」に辿り着き、古民家リノベ民宿に1泊したのでした(運良く1棟貸切でした)。
「うだつの街並み」は、かつて藍染で財を成した「藍商」の大豪邸が軒を連ねるエリア。
古民家に寝そべって本を読み、江戸時代の風情が残る街を散歩し、竹細工や藍染を買い歩き、当地の美食を楽しみ……そして1本路地裏に入ったところに珈琲豆の香りが漂ってきたのでした。
こぢんまりした可愛い珈琲スタンドで、豆を買うついでに1杯テイクアウトしてみると、すごく深い味わい。
自宅に戻ってから、今度は手持ちのミルで挽いて淹れてみると、中煎りの筈なのに深〜〜〜い仕上がりで驚きました。豆は柔らかくて挽きやすく、お湯を回し入れると紙フィルターから溢れ出しそうなほど膨れます。
徳島の旅の思い出が重なって、二度美味しい珈琲でした。


偶然見つけた早朝の珈琲スタンド
(MAGNI’S COFFEE TRUCK:名古屋)

出張で名古屋に行き、朝、早起きして念願のモーニングをして、その帰り道に出会いました。
高層ビルが立ち並ぶ名古屋駅界隈で、裏路地にマイクロバスがちょんと停まってて、かたわらに小さなテーブルが1台だけ。
その佇まいに妙に惹かれて、モーニングで珈琲飲んだばっかりなのにテイクアウトしてしまいました。香りが良かったのでその場で豆も購入。
帰宅後ミルで挽いて淹れてみると、苦味・酸味のバランスがすごく良くて私好み。やや豆が固かったけど、ちょっと早起きしてゴリゴリ挽いて、ゆっくり時間をかけて飲むのが至福でした。
名古屋のサラリーマンは出勤前にこんなに美味しい珈琲を飲めるのかと思うと羨ましい限りです。


良い喫茶店の条件とは
(1988 CAFE SHOZO:那須)

ど平日のある日、一人でフラッと那須に行き、せっかく那須に来たなら行かなきゃ!と思って訪問したカフェ。言わずと知れたリノベカフェの走りのようなお店です。
やや変わった間取りの店舗の1F部分はテイクアウトのカウンター。豆はここで購入。2Fにカフェがあり、マホガニー(あるいは楓?)の巨大なバーカウンター、アンティークのテーブルとイス、沢山の本に囲まれながら珈琲と軽食をいただきました。
入り組んで段差の多い店内、だからこそ店に奥行きがあり、遊び心が感じられる隠れ家的な雰囲気。そこに飾られる調度品は、一見バラバラなんだけど木製品で統一され、全体としてシャビーライクな雰囲気に纏まっている。置いてある本は、喫茶店でよく見かけるものや珈琲に関するもの以外に、古い海外文学や随筆、旅小説の類も置いていて、素晴らしい選書でした。
美味い珈琲・美しい調度品・良い蔵書こそが、良い喫茶店の必要条件なのかも。
買って帰った豆はもちろん美味しかった。中煎りを買いましたが、「深めの中煎りなので湯の温度が高すぎると苦いかも」と忠告してくれた通り、いつも通り淹れるとやや苦め。これをまろやかにする温度調整が楽しかったです。

まるで美術館でアートを楽しむように
(Tas Coffee:福岡)

福岡県田川市にある「いいかねpalette」内にある珈琲スタンド。空間まるごとアート作品のように洗練されています。珈琲豆の陳列棚には幾何学の小さなオブジェが。聞くと、珈琲の味をイメージした作品で、豆選びの参考にしてほしい、という事でした。味や香りではなく、視覚イメージで豆を選ぶ……楽しい!もちろん、味や香りは詳しく教えてもらえました。
テイクアウトも可で、嬉しいネルドリップ。
買って帰った豆は、普通よりも小粒でとっても柔らか。ミルで挽くのも力が要らなくて驚きました。ドリップするとブワッと膨らんで、かなり深め。いつもよりお湯の温度を下げて淹れると、苦味がまろやかになって香りが部屋中に立ち昇りました。老年の文豪が行きつけの喫茶店で一杯ひっかけるようなイメージの、実直で深みのある美味しさでした。

やっぱりここのが一番。いつもの珈琲
(Lovers Coffee:会津若松)

いつもお世話になってます。私が珈琲の世界に足を踏み入れたきっかけであり、現役の手挽きミルを買った場所でもあり、いわば「はじまりの場所」です。
ここは豆(粉)を買うと、1杯試飲させてくれるんです。それがまた美味くて…。
豆を用意してくれるのを待つ間、小さな本棚が用意されていて自由に読んでOK。
レイチェル・カーソン『センス・オブ・ワンダー』をお勧めしてもらったのもここでした。
イートインはなく、販売のみ。小さな陳列棚に珈琲道具も売られていています。
そこに、今使っているタイムモア社の手動ミルがあったんです。
気になってはいたけど"沼"を感じてかなり躊躇していて、試しに挽かせてもらった日も買わずに帰ったんですが、後日父から大量の珈琲豆が届き(父は私を沼に嵌めたくて仕方なかった模様)、やむを得ず買うことに。
だけど、ミルを手に入れてからまた少し世界が広がりました。今では本当に買って良かったと思います。
ここの珈琲豆は柔らかめで、とにかく香りが立ちます。ブレンド#2が好みだったのですが、最近見かけなくなったな…。メニューには味や香りが詳しく書かれていて、これのおかげで自分の珈琲の好みが分かるようになりました。
なんだかんだ、ここの珈琲豆が一番落ち着く身体になってしまいました。


以上!美味しい珈琲豆を求めて、これからも日本全国津々浦々、見かけた珈琲店には全力で飛び込んでいきたいと思います。

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