美肌になり、骨も強く…「味噌」のアンチエイジング効果
インスタントでも沸騰させても同効果、心配な塩分リスクはむしろ減少し、がん予防にも
大豆をこうじで発酵・熟成させることで、栄養価も風味もよりアップしたのがお味噌です。最近ではお通じ改善のほか、美肌作用、骨を強くするなど、健康や美容、アンチエイジングへのうれしい効果が明らかになってきました。
大豆には良質な植物性たんぱく質や、コレステロールを下げる働きを持つリノール酸、女性ホルモンと似た働きを持つとされるイソフラボンなどが含まれます。
「味噌」はその大豆の成分がこうじの酵素によって分解され、体内で消化吸収しやすい形で含まれるのが魅力です。
さらに、大豆にはない遊離必須アミノ酸やビタミン類が多量に生成され、うまみや甘みをもたらしています。
最近の研究で、1日2杯の味噌汁を飲んで頬のシミが減ることもわかってきました。また、発酵熟成の過程でできる褐色成分・メラノイジンには抗酸化作用があり、老化予防(エイジング)効果も期待されています。
■ 味噌汁は食べる美容液
肌の断面でもっとも上にあるのが角質層。ここに水分がたっぷりあれば美しい肌になります。逆に水分が減ってしまうと、表面がめくれて外敵が侵入し、肌トラブルが起きてしまいます。
長野県にある味噌メーカー研究所では、20~30代の女性14名に毎日味噌汁を2杯飲んでもらう実験の結果、角質層の水分量が味噌汁を飲んだ2週間で1.4倍に増加したのです。
さらに、肌の弾力が上がり、キメが細かくなりました。
また、2週間毎日「インスタントの味噌汁」を2杯飲む、という実験でも被験者の肌のすべての項目のスコアが上がりました。
なお、味噌の健康機能性の成分は安定しているので、インスタントの味噌汁でも同様の効果が得られます。
さらに、味噌汁を作るときは「沸騰しているところに味噌を入れてはいけない」と言われていますが、沸騰させて煮込んだとしても、栄養的には変わらない(ただし、風味は落ちる)のだそうです。
■ 味噌の美肌成分…グルコシルセラミド
味噌ができる発酵過程でさまざまな成分が作られますが、「グルコシルセラミド」もその一つです。
肌の表皮の一番下にある基底層には、肌全体の細胞を活性化させるスイッチがあります。
味噌に含まれる「グルコシルセラミド」の成分は、血液を通ってこの基底層に達し、そのスイッチを押します。
肌の細胞が活性化され、表皮上部の角層細胞間の「セラミド」が増え、肌の水分とくっついて肌の内側に水分が保たれるのです。
その他、「グルコシルセラミド」を多く含む食材は、りんごの皮、とうもろこし、こんにゃく、甘酒、麹などです。
■ 血圧が上がるどころか下げる「味噌の塩分」の謎
2010年にアメリカで1つの論文が発表されました。
4か国の40~59歳の人を対象に塩分摂取量を調査したところ、1日あたりの塩分摂取量は、日本人が12gとトップでした。
ところが血圧も調べたところ日本人の平均は117mmHgと一番低い値になったのです。
従来の常識とは正反対の結果でした。なぜ日本人は、多く塩分をとっても血圧が上がらないのでしょうか。
それは、「塩分の一部を『味噌』でとっているから」ではないのだろうか?…その可能性を実験で追求している人がいます。
共立女子大学・家政学部教授の上原誉志夫さんです。
上原教授は、「味噌を多くとれば、当然、血圧は上がる」と考えていました。しかし、この実験に取りくむようになったのは「ネズミに味噌汁を飲ませたら実際に血圧がどう変わるか、実際に実験してみたい」という、女子学生の提案がきっかけでした。
実験に使ったのは、塩分を与えるとどんどん血圧が上がってしまう特別な性質を持つネズミです。
そのネズミを2つのグループに分け、ひとつのグループには普通の食塩を、もうひとつのグループには同じ塩分量になる味噌を与え、3週間追跡調査したのです。
すると、食塩を摂取したグループは、血圧は予想通り、173mmHgから223mmHgに上昇。ところが、味噌を摂取したグループは172mmHgだった血圧は、207mmHgにしか上昇しなかったのです。
「味噌のなかには血圧の上昇を引き下げる力がある」。意外な結果に上原教授は驚きを隠せませんでした。
「味噌に含まれるペプチドなど複数の物質で血圧が下がることが原因ではないかと考えています。それぞれの成分を抽出して、血圧を下げるものが何かを調べようとしているところです。ひとつの成分ではないと考えています」
また、上原教授は実際に人間を対象にした試験を行い、血圧上昇のメカニズムを研究しました。その結果は…。
「人で研究もしていますが、だいたい味噌汁2杯分、味噌で40gぐらい食べてもらって3か月間血圧をみていますけど、血圧はビクとも動きません」
さらに、1日1杯程度のみそ汁のある食生活が、血管年齢を10歳程度改善する傾向があることも確認されました。
■ 1日2杯の味噌汁を飲んで「頬のシミが減る」…など、まだまだある「味噌パワー」の研究最前線
【がん予防効果】
マウスでの実験によると、味噌を摂取したマウスのほうが塩分を摂取したマウスよりも、胃に腫瘍が発生した割合が20%以上も低かったそうです。また、味噌汁を毎日飲んでいる人とまったく飲まない人では、胃がんの発生率が全然違うといいます。
味噌は、胃がん、食道がん、消化器官系のがんの発生を抑える予防効果が高いと考えられています。
40~59歳の女性2万1852人を対象にした調査では、乳がん発生率は味噌汁1日1杯以下の人に比べて、1日2杯の人で26%、1日3杯以上の人で40%低いという結果が出ています。
みそ汁の摂取が多いほど、乳がんになりにくいという結果が明らかになりました。
これらの値は、乳がんに関連する他の因子(初潮年齢や妊娠回数など)の影響を取り除いて計算しています。
「大豆、豆腐、油揚、納豆」では、はっきりとした関連が見られませんでしたが、「みそ汁」ではたくさん飲めば飲むほど乳がんになりにくい傾向が見られました。
同時に、味噌を含む大豆製品の摂取量、それから計算されるイソフラボンの摂取量と女性乳がん発生率との関係も調査されました。
イソフラボンをあまり食べない人に比べ、たくさん食べる人のほうが乳がんになりにくいことがわかりました。
さらに、閉経していたか否かで分けてイソフラボンとの関連を調べました。閉経後の人達に限ると、イソフラボンをたくさん食べれば食べるほど、乳がんなりにくい傾向がより顕著に見られました。
【アレルギー予防】
花粉症や皮膚炎などのアレルギー症状を緩和します。
味噌に含まれる「乳酸菌MN45」は、一部の味噌から見つかった菌で、抗アレルギー作用をもつ乳酸菌だといいます。
図のとおりMN45を添加した培養細胞はIgE産生を抑制することがわかっています。血中IgE値が高いほどアレルギーが強いことを示します。
まだ研究段階ですが、「症状が軽くなった」という人が増えています。
【米味噌なら美肌・美白に】
シミを薄くするなど美肌に有効な成分は米こうじに多く含まれるため、白味噌など米こうじの割合が高い味噌を選ぶといいそうです。
20~40代の女性22人を、淡色系米味噌を使った味噌汁と味噌なし汁を摂取する2群に分け、それぞれ1日2杯、4週間継続して飲んでもらったところ、味噌汁摂取群は頬のシミスコアが改善したほか、頬のメラニン量も減少しました(東京工科大学、発酵未来研究所 共同研究2014年)。
【豆味噌は骨を強くする】
豆味噌は大豆イソフラボンが多く、最近では骨粗しょう症の原因となる骨吸収を抑える作用も報告されています。
他の味噌と比べて発酵熟成期間が長いため、褐色成分で抗酸化作用を持つメラノイジンが多いのです。
卵巣を摘出した骨粗しょう症モデルマウスを対象に、ヒト換算で味噌汁1杯(味噌14g)の豆味噌を摂取する群と対照群に分け、それぞれ毎日摂取させて5カ月後骨吸収マーカーを調べたところ、味噌摂取群で骨吸収マーカーの低下が見られました(中央味噌研究所報告 2012年)。
【メタボ予防】
大豆にはリノール酸、大豆レシチン、サポニンなど、悪玉コレステロールを下げる成分が含まれます。動物での研究で、ヒト換算で毎日味噌
汁1杯分の味噌を6カ月摂取して中性脂肪の蓄積が抑えられたという報告もあります。
【腸内細菌の改善】
美肌に効果があると言われる効くというグルコシルセラミドですが、マウスにグルコシルセラミドを含んだエサを与えたところ、グラウティア・コッコイデスという腸内細菌が約1.8倍になりました。
この菌は善玉菌で、大腸の炎症を抑えたり、精神を安定させる働きがあると考えられています。
【健康効果を高める味噌のとり方】
味噌汁1杯分の塩分は1.2~1.5g程度と多くはありません。
それでも気になる人は塩分を排出する作用があるカリウムが多い食品(ホウレン草、春菊、サツマイモ、サトイモ、納豆など)を合わせるといいでしょう。 お通じ改善やシミの改善、がん予防など味噌に関する多くの研究報告では、味噌は継続してとることが効果的とされます。
効果を期待するなら、1日1杯を習慣に。 味噌は種類や熟成期間によって成分や効果が異なります。様々な健康効果を期待するなら「合わせ味噌」がおすすめです。
2種類以上の味噌を組み合わせると味に深みが出ておいしさもアップします。
■ 代表的な5つの味噌
味噌は、こうじの原料により「米味噌」「麦味噌」「豆味噌」「合わせ味噌」の4種類に分けられます。
原料の種類のほか、塩分と麹歩合などで変わる「甘口」や「辛口」などの味、「色調」などによってさらに分類されます。
全国で食べられる5つの定番味噌を紹介します。
■信州味噌(淡色系辛口味噌)
長野の米味噌です。全国の味噌の生産量の40%を占める淡色辛口味噌の代表で、今では全国的に生産されています。
酸味のある芳香が特徴で、塩分多めのすっきりした味わいです。
■仙台味噌(赤色辛口味噌)
宮城の米味噌で、辛口の長期熟成タイプです。
伊達政宗が軍糧用に味噌を造らせた「御塩噌蔵」の伝統を受け継ぎます。肉の味噌漬けや野菜炒めにもぴったりな、甘みの強い短期熟成タイプです。
■西京味噌(白色甘口味噌)関西で食べられる米味噌です。米麹の割合が高く、甘みが強いのが特徴。着色を抑えるため精米度を高くし、脱皮した大豆を用います。西京漬けなどに適し、濃厚なうまみとコクがあります。
■東海豆味噌(黒褐色辛口味噌)
名古屋味噌、三河味噌、八丁味噌などの名称で呼ばれる中京地方の豆味噌です。濃厚なうまみとほのかな苦みがあり、懐石料理に欠かせません。温暖な地域で作られる甘口味噌です。
■麦味噌(淡褐色甘口味噌)
主に九州・瀬戸内地方で作られます。淡色~淡赤色で、麦独特の芳香があります。温暖な気候のため熟成期間が短く、甘口のものが多いです。
塩分を気にして「おいしい味噌汁」を敬遠する必要はもうありません。むしろ健康や美容に良いとなれば、毎日の食習慣の基本を「味噌汁」にすべきですね。味噌を使った多彩なレシピもたくさん公開されており、バリエーションに困ることはないようです。科学の進歩によって、昔からある身近な食品の意外な効果に驚かされますね。
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