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最初のチタンの腕時計 |ラバト 1987

すべてがチタンという素材でできた腕時計はこれが世界で最初だという。商品化してくれたシチズンの企画部長の話である。

そもそも、僕はいつも素材からデザインを発想していた。最初に惚れ込んだのがゴムでそこからGOMシリーズを始めとするデザインが生まれたし多くのゴムをつかった照明器具も生まれている。その時代が長く続くのだが、そのうち、アルミニュームに愛情を感じることになる。ハンス・ホラインというデザイナーがたしかオーストリアにいた。ウィーンに小さなロウソク店のデザインをしていて、その外装がアルミ板だった。その軽快な感覚と明るいグレーが気に入っていた。
ある時、ウィーンを訪ねてこのロウソク店を見ることになるのだが、そのアルミニュームがウィーンの空の色と一つになっている。僕ははたと納得をする。ウィーンの空がアルミ色だったのだ。いつも曇りがちの空だから光がその雲を透かして落ちてくる。空の色が輝きを持ったグレーだったのだ。ハンス・ホラインはこの空を知ってロウソク店をデザインしたのではないかと思うようになった。

それからますます、アルミニュームが好きになる。グレーはそもそも日本の色である。利休鼠という色はグレーでももう少し暗いのだが、グレーとは影であり輝きもある曖昧さがたまらなくいい。グレーには光も見え、影でもある曖昧な美がある。アルミニュームで建築をつくりたい。僕はそんな思いに駆られていたとき、チタンで時計をつくろうとシチズンからの依頼だった。小躍りしてプロジェクトに立ち向かう。

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アルミニウムの腕時計デリー Delhi 図面

金属なのに金属らしくないチタンの色彩はアルミニュームともちょっと異なる魅力がある。大きめなフェースに極端に細い同じチタンのベルトを連続させる。後ろで金具でとめれば一体のブレスレットのようになる。フェースのガラスにはネガティブなカーブを付けている。デスクにこすりつけても傷が付かないし、照明器具がフェースに反射しても時間を見るのに支障をきたさない。

ニューヨークのメトロポリタン美術館が初めに、そしてその後、デンバーミュージアムが永久コレクションにこの時計を選んでくれた。

このデザインをモロッコの都市名「ラバト|RABAT」と名付けている。モロッコの風景を思い出しながら僕にとってはこの時計はモロッコだなと思ったからである。
その後、製品がすべて売りつくされて、ディテールを修正したラバト2号をつくっている。これは僕自身の会社で発売する自主製品だった。

グレーのアルミニュームとチタンという素材がどこかで日本の美意識と共鳴している。それは微かな光り方からだろうし、光が透けてとおる影のイメージなのだろう。
僕は逆光の美が絡んでいるのではないかと思っている。逆光は華麗な影を生み出している。

P_DALIHI&RABAT-4 [P07]平井広行 - コピー

P_DALIHI&RABAT-7 [P07]ー - コピー

初代ラバト(リストウォッチ/シチズン時計/チタン合金)

P_DALIHI&RABAT-3 [P07]平井広行 - コピー

デリー Delhi(リストウォッチ/シチズン時計/アルミニウム合金)

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ラバト2号(リストウォッチ/チタン合金)

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

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タイトル写真:調査中

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