安藤忠雄と田中一光さんと水栓金具 |デザインコミッティーとTOTOの蛇口
田中一光さんには本当にお世話になった。建築家ではないのだしグラフィックデザイナーではあるのだが、日本の伝統に深い共鳴をしていて「人間」として生きている人だった。残念ながら食事の外出からの帰り道で突然倒れて逝ってしまった。デザイナーズスペースというデザインのギャラリーを初めてつくったのも彼だった。彼の誘いで数十人のデザイナーが集まって自主的に経営をしていた。デザインが芸術として主張する最初の行動だった。
そんな田中一光さんから誘いがかかったのが「TOTOの外部ブレーンとしての委員会」だった。コンサルティング集団である。メンバーは杉本貴志(インテリアデザイナー)、安藤忠雄(建築家)、田中一光(グラフィックデザイナー)そしてと僕、黒川雅之(建築家/プロダクトデザイナー)だった。
TOTOの指導的な人々、会長、社長、役員の自発的な勉強の会でもあった。
二ヶ月に一回ほど、東京だったりTOTOの本社のある北九州だったりで会議をする。快適な環境で夜は最高の料理のもてなしがある。メンバーはそれぞれの分野の最高な人たちだし気持ちの知れあった者同士の会議後の時間は楽しい時間だった。
一光さんの推薦で僕がTOTOのための商品開発をするチャンスが多くなった。当時のデザイン部の指導などもしていた。安藤君も時々便器のデザインなどもしたのだが、最後には「小さいものは君に任すよ。僕は駄目だ」と降りてしまって、TOTO関係の空間の設計は杉本貴志が、製品の開発は僕が、そしてグラフィックデザインは田中一光さんがやっていた。TOTOが経営するギャラリー「間」のインテリアは杉本貴志のデザインだったし、ポスターや図書のデザインは田中一光さんがしていた。
そんなかなで生まれた沢山の水栓金具の製品がある。クロームメッキという光る素材のデザインは特殊である。僕はGOMシリーズという黒いゴムによる製品をデザインしていたし、光を吸収して柔らかい素材のゴムに対して真逆の性格を持っていて、光を100%反射する硬い金属である。ゴムが地獄ならクロームメッキの製品はきらきら輝く天国のデザインである。
TOTOの本社は北九州にあってそこへ通っての仕事は別の意味で楽しい仕事だった。若いデザイナーたちとの仕事も充実していた。北九州、博多への旅はしばらくできないでいる。コロナが収束する前にでもそろそろでかけて見たいと思っている。
田中一光さんはあっちの世界で何をしているだろう・・・。冥福を祈る。
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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。
〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。
クレジット
タイトル写真:清水昭
文中写真:平井広行