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MoMAの永久保存の依頼を断る | ゴムの椅子 1978

ゴムのいろいろな商品を発表して一世風靡したGOMシリーズは数年に及んで様々な商品を世に出した。ニューヨークのキップさんが黒色だけの商品を販売する店をやっていて買いに来てくれたのは感激だったし、世界への販売を目指して、会ったこともない大沢商会の社長に電話して10分だけの会見を申し込み、GOMシリーズの輸出をお願いしたのも新鮮な記憶として残っている。ゴム川さんとニックネームをつけた人もいる。
モダーンデザインの白い、硬い素材のシンプルなデザインへの反逆を意識して、黒くて光を反射しない、シンプルだが柔らかい素材のデザインを提案して黒い旋風を起こした時だから、勢いにのって椅子をつくっている。それがこれである。
MoMAから収蔵したいとオファーがあったのだが断っている。たった一つしか持っていないアートのような作品だからである。

ゴムだから柔らかいのにシート状の薄い椅子をつくろうと考えたのである。5ミリ程度の厚さの50ミリ程度の幅の平鋼を椅子の周縁に回したものを溶接で構成して、大きな鉄板を型材にしてそこに敷き、ゴムを盛り込んで上から加熱加圧をするという困難な製作をやってくれたのはGOMシリーズ全般に中心的な活動をしてくれた宮山さんである。それができてからゴムと鉄が一体となった板を曲げ加工するのだ。

製作には相当な努力があるのだが、出来上がったのはシンプルな板でしかない椅子である。MoMAはそれを読み取って評価してくれたのだろう。

デザインは「詩」であり「魂」であると以前、書いたが、デザインは同時に「詐欺的裏切り」だったり「冗談やユーモア」だったりもする。そうはいっても真剣さには変わりないのだが、意表をついたり、驚きを誘ったり、異常な感覚を感じさせるのはデザインの重要な役割である。

人間とは実に不思議な生きものである。新鮮だった恋も普通の感覚になり、慣れなかった種類の仕事にも慣れてしまう。感動は続かないのだ。
そんな人間を感動させ続けるのは容易なことではない。本当は人間の深層に潜り込み深いところの根っこを掴むことなのだがそれとともに、ちょっと気楽なゲームもそれを使う人達との軽やかな会話になっていい感じなのだ。

デザインは詩でも小説でもそうなのだが、独り言でもあり、誰かとの会話でもある。人間と人間は遺伝子的には99.9%共通しているのだから通じ合える、しかし、小説にしても詩にしても決して同じ感動が得られるのではない。それぞれの人生の歴史が作り上げた文化があり、まったく異なった感動を受けている。この共通性と相違がデザインを通じて人と人の面白い共振を生んでいるのだと思う。

デザインは共振するためにあるのだ。

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

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タイトル写真:調査中

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