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田中一光さんと土で遊ぶ |萩焼茶碗

田中一光さんが萩に茶碗をつくりに行こうと誘われた。萩は深い歴史のある街であり、萩焼という陶器作家も活動しているし、陶器産業も発達している。独特な赤い土と白い釉薬には日本的な清楚な美しさがあり、茶道のための茶碗がよくつくられる。田中一光さんは茶道が好きであり、彼の自宅の茶室で僕たち仲間が毎週、茶道のお稽古をしていた。早朝に田中邸を訪れて茶を学び、お稽古の後は一光さんの調理で粥の朝食を頂くのが楽しみだった。

何を思ったのか、僕と萩に行こうという。萩には三輪休雪さんの工房があり、三輪さんの指導で土を捏ね茶道のための茶碗づくりを楽しんできた。轆轤をうまく使えないので田中さんは手びねりでつくるという。僕は建築家だから構築的な手法で挑戦することになった。土の板をつくってもらい、その土を起こして碗の形状を創り出すのである。紙細工のように、土が素朴な方法で器になっていく。窯を焚くのは時々だからすぐには焼くことは出来ない。その上、釉薬を施して仕上がるまでには日時が必要である。三輪さんが預かって、釉薬は三輪休雪さんによる美しい茶碗が生まれた。

三輪休雪さんといえば人間国宝の作家である。計らずも僕と休雪さんのコラボ作品が生まれることになった。

僕はいま、多治見の不動窯で器の制作をしている。僕がデザイナーとして設計して、不動窯の当主である伊藤照明さんと意見交換しながら制作するのである。土は僕たちの身体を支えている大地である。大地が素材になって生まれる器というだけで感動である。今、僕の発想は土器のように土のイメージを残したまま器にしようというのである。本当は自分でつくりたいのがだデザイナーの立場からは職人からちょっとだけ離れて職人の能力を最大限に引き出す必要がある。今の所、いい関係で仕事が進んでいる。

茶道は裏千家の家元や周辺の人々と深いおつきあいを頂いている。今の家元の弟だった伊住正和さんとも茶美会という現代思想と伝統思想の出会いをつくる創作活動や発表会でご一緒させて頂いた。そこでも田中一光さんが良いつながりをつくっている。グラフィックデザイナーながら日本の伝統的なものに深い想いをもっていたことから僕たちも工芸的なもの、伝統的なものとの接点が多く生まれたし、幅広い人脈と人間性がファッションデザインなどの広い人々と知り合い、交流と創作をする事ができた。

萩茶碗もその一つである。

P_萩焼-1 [P15]清水昭

P_萩焼-2 [P15]清水昭

P_萩焼-3 [P15]清水昭

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

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