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メトロポリタン・ミュージアム |バッタと言う名の椅子とテーブルのシステム

僕のこの家具はアルミニュームの押出成形部品、一種類で構造体ができるというアイディアである。座の角パイプ型の部品を座に用いてはいるが構造は一種類の部材なのだ。こんな構造システムを発想するのが僕は得意だった。パネルをつかった構造体もスイスの家具会社のために製品化したし、スティールのアングルによる構造システムは自主開発してSYSTEM CUBEとして別荘が生まれその後、日鉄カーテンウォールとともにアルミニューム化した建築システムとして製品化している。大量生産した規格部品で多様性のある建築や家具を生活者自体が組み立てに参加してつくろうという発想である。

P_INGOT BATTA-5 [P06]平井広行

最初は自発的な開発として自分自身で型代まで支払って制作している。試作ロットとはいってもそれなりの数量を発注して制作し展覧会で発表している。その後、日本軽金属の社長と出会い、この会社のブランドとして製品化し販売をすることになった。そこで、僕は倉俣史朗と喜多俊之を誘って三人での開発というプロジェクトにしたのである。初めから豊かな商品群ができるのとなんと言っても楽しい。三人で相談してグラフィックデザインに石岡瑛子を誘うことになる。ロゴタイプやカタログは彼女がデザインしている。

倉俣史朗も喜多俊之も黒川雅之も名字の頭文字がKである。3Kなのだ。それも偶然とはいい面白いことになった。石岡瑛子の登場でブランド名はINGOTとなった。華々しく発表会をしたのだが、一年もすると企業が経営を理由にこの事業を止めてしまうことになる。まるで夢のような出来事だった。

僕の構造システムは初めはT-JOINTと付けて発表しているが、INGOTのブランドでは BATTAと称していた。この商品は僕の小さな会社「株式会社K」で継続して販売し続けていたのだが今では在庫がなくなって廃盤になった。

P_INGOT BATTA-3 [P06]平井広行

メトロポリタン・ミュージアムがコレクションしたいという。そのうち、デンバーミュージアムからも申し込みがくる。現在ではこの二つの会社で永久保存されている。デンバーミュージアムに懇願されて、最後の一つを送ったので今、デザインした僕の手元には一つもない。

当時、僕はアメリカとの関係が中心だった。サンフランシスコやニューヨークで展覧会をしたり、カナダの企業からの依頼で製品の設計もしたりしている。アメリカのテレビ局がソニーのデザイン部とGKインダストリアルデザイン研究所と僕との三者を取材して全米で放映もされている。あまりヨーロッパとの関係を結んではいなかった。その後、ミラノサローネの時代がくるのだが、僕たちの時代はその少し前の時代だったのだろう。
ミラノサローネでは「ネクストマルニ」の新作発表をしたりもしたのだが、世代は僕の次の世代が中心だったように思う。

今は倉俣史朗も石岡瑛子もいない。喜多俊之だけは頑張っているが世代は一つ下の世代である。今、デザイン界は賑やかではない。僕一人で騒いでみるか・・・と思っている。

P_INGOT BATTA-15 [P06]清水昭

P_INGOT BATTA-16 [P06]清水昭

P_INGOT BATTA-17 [P06]清水昭

P_INGOT BATTA-18 [P06]清水昭

P_INGOT BATTA-1 [P06]平井広行

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

クレジット

タイトル写真:平井広行
文中作品写真:清水昭

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