リーダーの役割は「決断」することである
「日本人にはもっとリーダーシップが重要だ」などとよく言われますが、
結局のところリーダーの役割って何なんでしょうか。
「リーダー」というのは、いわゆる「偉い人」とか階級云々とか、そういうものではなく、あくまでも役割のひとつでしかありません。
僕の考えを先に書いてしまうと、リーダーの役割を一言で表すとすれば、
それは「決断」することだと思うのです。
そして、多くの組織の意思決定が遅いのは、リーダーがそれを理解していないからだと思うのです。
意思決定とは、文字通り「何をするか(意思)を決めること」であります。
時には、「何をやらないか」「何をやめるか」も決めなくてはなりません。
組織の意思決定のスピードが遅い場合、それは、責任の所在が曖昧な組織構造になっているからだと思われます。
責任の所在が曖昧であるというのは、誰が「決断」をしなければならないかが決まっていないか、あるいは、決まっているのにそれを本人が理解していないということになります。
リーダーの役割は、あくまでも「決断」することであって、「判断」することではありません。
「判断」するというのは、真か偽か、あるいは、正か誤か、優か劣か、
それを見極め、判定・判別するということです。
つまり、「判断」することが可能なのは、有限個数の選択肢の中に、ただひとつの正解が存在する場合に限られます。
しかし、ビジネスにおいて、そういったケースはほぼありえません。
選択肢は常に無限に存在していて、しかも、絶対的な正解というものはありません。
したがって、本当の意味で「判断」できる日は永遠に訪れません。
「判断」することが不可能である以上、70とか80くらいの段階で「決断」してしまわない限り、前に進むことはできません。
そして、それをすることこそが、リーダーの役割なのです。
80の段階で「決断」するということは、「失敗するかもしれない」「損をするかもしれない」というような不確定要素を20は残しているということでもあります。
つまり、「決断」するということは、リスクを取るということでもあります。
ここで、「リスク」という言葉の意味をしっかりと考えておきましょう。
一般的にリスクというのは、「危険に遭う可能性」や「損をする可能性」、
つまり、危険性という意味で使われることが多いようです。
しかし、経済学などの分野では、「ある事象の変動に関する不確実性」のことをリスクといいます。
例を挙げましょう。
3階から飛び降りる場合 と 15階から飛び降りる場合 では、どちらの方がリスクが大きいでしょうか。
3階から飛び降りた場合は、足から落ちるか頭から落ちるかによって、
軽症で済むかもしれませんし、もしかすると死んでしまうかもしれません。
一方、15階から飛び降りる場合は、ほぼ確実に命を落とすでしょう。
この場合、後者の方が危険性は高いですが、リスクは小さいということになります。
「失敗するかもしれない」「損をするかもしれない」について言うと、
「失敗する」「損をする」の部分がリスクだと思われがちですが、実は「かもしれない」の部分がリスクの本質だということですね。
もしもリスクがゼロならば、「判断」をすることができるのですが、そんなケースはまずないですよね。
さて、冒頭で、意思決定が遅いのは責任の所在が曖昧だからだと書きました。
では、責任持つ・責任を負うというのは、一体どういうことなのでしょうか。
「責任」を意味する英単語には、ResponsibilityとAccountabilityの2つがあります。
おおまかな意味の違いは、以下の通りです。
Responsibility:これから起こる事柄や決定に対する「責任」
Accountability:すでに起きた決定や行為の結果に対する「責任」
Accountという動詞には、「説明する」という意味があるため、
Accountabilityは「説明責任」と訳されることもあります。
意思決定をする場面で求められる「責任」というのは、
上手くいかなかったときのAccountabilityではなく、これから行うことに対するResponsibilityであるということは明白でしょう。
Responsibilityという単語は、「反応する」という動詞のResponseに、「~できる」という意味の -ible が付いた形容詞の、名詞形です。
つまり、Responsibilityの本来の意味は、「反応可能な状態であること」だと解釈することができます。
反応可能な状態にしておくためには、起こるかもしれないことをあらかじめ理解した上で、その対応策を準備しておく必要があります。
したがって、責任を持つということは、リスクを取ることと同義になります。
あらゆるリスクを理解した上で、起こる確率が極端に低いものを除いた、全ての不確定要素に対応可能な状態にするということが、
責任を持つ・負うということであり、リスクを取るということでもあるのです。
不確定要素が40あっても、その不確定要素に対応可能であるならば、
60の段階で「決断」してしまうことも可能です。
逆に言えば、確実性が90であっても、残りの10のリスクから目を背けていれば、これは責任を負っているとは言えないわけです。
「決断」が速いリーダーは、一見すると楽観的で、責任感が無いようにも思えます。
しかし、優れたリーダーというのは、瞬時にリスクを理解した上で、
「もし失敗しても、○○して、△△すれば、最小限の損失で抑えられるだろう」と考えます。
対応策を考えられているからこそ、素早く「決断」し、どっしりと構えることができるのです。
「決断」できる、すなわちリスクを取れる人というのは、楽観的なわけでも、勇気があるわけでもなく、問題の本質を理解して、先のことを論理的に考えることができる人である、と捉えることもできます。
ビジネススクールで、クリティカルシンキング(批判的思考)とロジカルシンキング(論理的思考)に重きを置かれるのには、こういう理由があるのかもしれません。
全ては、常に目まぐるしく変化しています。
ただ、あらゆることが不確実であることだけが確実なのです。
だからこそ、リーダーの役割は、「判断」することではなく、失敗したら謝罪して辞めることでもなく、リスクを理解した上で「決断」することなのだと、僕は思います。