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現代アートと、のんびり過ごせるカフェ ~人のつながりが創り出した“ゆったり空間”~

広くゆったりとした空間で、自分なりの時間を楽しむカフェ。

オリジナルのソファで、現代アートを眺めながら、ランチを楽しむ。

地方都市のしゃれたカフェ「montempsモンダン」は、地元の人と人のつながりからできていた。

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現代アートを求めてカフェへ

地元現代アート作家、友成潔ともなりきよしの作品が飾られていると聞き、そのカフェを訪ねてみることにした。

JR両毛線りょうもうせん足利駅(栃木県足利市)から徒歩5分ほどの市街地のある、カフェmontempsである。

訪ねてみると、古いビルの、少しばかり急な階段を上がった2階にあった。

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入口から階段を上り、振り返ると空間が広がる

広い空間に現代アート作品

天井が高くて広々とした店内。
白く塗られた大きな壁があり、そこには友成作品が掛けられていた。

ホワイトをベースにした色調で、モノトーンの店内に不思議と馴染んでいる。

アート作品として意識しなければ、壁と一体となっていて、インテリアの一部のようでもある。
カフェでゆっくりと過ごしたい、という人たちを邪魔することはない。

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静かに作品が並んでいる

しかし、窓からの光やライトに照らされた作品を見つめていると、その個性が徐々に際立ってきて、中へと吸い込まれていく。
アートファンには楽しい空間だ。

陶芸から創作活動を始めた友成の作品は、平面ながら立体感がある不思議な作風だ。

パネルに開けた小さな穴に、細く丸めた陶土を埋め込んだ作品や、染料をたっぷりと染み込ませた「布」を貼り付けた作品など、不思議で独創的な空間を創り出している。

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小さな穴に、細く丸めた陶土を埋め込んである

このカフェにおいて友成作品は、興味を持って見ようとする人には存在を強く主張するのだが、そうでない人にはそっと見守るような存在となっている。

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染料を染み込ませた布を貼り付けてある

デザイナーが空間作り

こうした空間を作り出したのは、グラフィックやウェブのデザイナーである増田吉邦さんだ。カフェを出すのが長年の夢だったという。

ビルの一室をリノベーションしたこの店では、それまでの内装を取り外し、できるだけ建築当初の躯体を利用しようと考えた。

「お金をかけて新築のように作ることは簡単ですが、既存の建物での制約を楽しみながら、古いものにもこだわりたかったんです!」と言う。

そのため、内装はカウンターに古材を活用して、経年劣化の美しさを演出したり、壁には屋根の下地に使う「木毛セメント板」という、模様のおもしろい建材を利用したりといったこだわりが随所に見られる。

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古材を活用したカウンターが経年劣化の美しさを演出

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作品と壁(木毛セメント板)のコントラストが絶妙

「和のテイストを極力排除したかった」と増田さんは話してくれた。
確かにデザインは洋風で統一感がある。

しかし、ビルのリノベーションに始まり、古材を活用するなど、店づくりの考え方は「和の精神」が根底にあり、茶室を作るのと似ている。
余分な装飾を加えずに、シンプルに仕立てていく考え方は、「わびさび」の精神に通じる。

こだわりの料理

料理は、サンドイッチとスープ、そしてドリンクが主体。

ランチでは4種類のサンドイッチ、7種類のスープ、9種類のドリンクからそれぞれ一つずつを選べるスタイルだ。

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組み合わせを選べるランチセット

味はもちろんだが、見た目もきれいで、価格もリーゾナブルだ。
中でも、「自家製タマゴサンド」は、丸いフォルム、出汁マイスター直伝の和風出汁、そしてこだわりの卵を使った人気のメニュー。

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タマゴサンドは、意外に重厚感があって食べ応えがある

ほかにも、ワインオルタナティブと前菜(アンティパスト)のセットメニューなどもあり、この店ならではの食に出会える。

ワインオルタナティブとは、ワインの代わりに飲むノンアルコール飲料。
ワインからアルコールを抜くのではなく、ぶどう果汁にスパイスやハーブを加え、香りやテイストをワインに近づけている。
足利市のソムリエが監修し、地元のワイナリーで製造したものだ。

ロックアイスや炭酸水を入れるなど、自分好みの飲み方で、前菜とともにゆっくりと味わえる。
ノンアルコールながら、このカフェの雰囲気の中で飲むと、酔った気分になってしまい不思議な感じがした。

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ワインオルタナティブ 「TT red」

イベントで、もてなす

montempsでは食事の提供だけではなく、様々なイベントでもお客様をもてなしている。
コンセプトは「お過ごしの自分時間をより上質なものへ」だ。

例えば、国内屈指のバリスタによる「おいしい珈琲って何?」という体感イベント。
コーヒー豆を解説付きで飲み比べることができる。

また、「オーガニックアロマトリートメントをお試しいただける4日間」というイベント。
こちらは、体調をケアしたい、リラックスしたいといった人向けで、アロマセラピストによるアロマトリートメントを受けることができる。

人と人のつながりからできたCafe

カフェmontempsはマスター増田さんがこつこつと作り上げてきたが、一人だけの力でできたわけではない。
実は、地元の多くの人のつながりの中で生まれ、一歩ずつ成長してきたのだ。

店内に飾られている友成作品は、増田さんが足利市内のギャラリーへきで出会い、感銘を受けたことがきっかけで、飾ることになった。
ギャラリーのオーナー山川敏明さんは、増田さんのカフェへの思いに賛同し、協力することになったのだ。ギャラリストとして地元作家を育ててきた山川さんは、アートに思いを寄せる若手経営者もサポートしている。

店をリノベーションする際にも、仲間たちの手を借りたが、友人の父親である大工さんにも協力的に対応してもらい大きな支えとなった。

さらに、コーヒーのイベント開催やワインオルタナティブの提供で協力したのは、藤倉正法さんだ。
藤倉さんは同じ足利市内で「Bar×Bar×Bar Watarase」を経営しており、バーテンダー、バリスタ、ソムリエとして様々な引き出しと実績を持つ仲間でもある。

このように多くの仲間の支えもあって、montempsは成り立っている。

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アートを背に窓辺でくつろぐ

地元の人たちが協力しながら店を作り、地元のお客さんが楽しむという「地産地消」。
地元の美術家が作り出した作品を、地元で鑑賞する「地産地賞」。
シンプルでスマートなデザインの空間だが、地域に根差したカフェと言えるだろう。

ここにしかない空間や料理を、地元の人はもとより、多くの旅人にも味わってほしい。

それぞれの自分時間を過ごす

店内では、一人で本を読んだりスマホを眺めたりして過ごす若い女性、楽しそうに食事を楽しむカップル、コーヒーへのこだわりをマスターに力説する初老の男性など、様々なお客さんがいた。

それぞれが自分の時間を楽しみながら、ゆっくりとくつろいでいたのが印象的だった。
そして私は現代アートを鑑賞しながら、ゆったりと自分時間を過ごすことができた。

地元の人たちのつながりでできたこのカフェは、地元のお客さんを中心に、ゆっくりと、しかし着実に、町に欠かせない空間へと成長している。

ここは、アート作品が飾られたシンプルな空間で、飲み物や食事でゲストをもてなす洋風のカフェだ。
しかし、掛け軸が飾られた茶室で、お茶や懐石料理を出して客人をもてなす茶道の世界を感じた。
客人を和の精神でもてなす「現代版の茶室」。

「montemps」はフランス語。
日本語に訳すと「自分時間」。
この空間で、自分なりの時間を楽しんでほしい。

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バス停のようなサインが出迎える


最後までお読みいただきまして、本当にありがとうございました。 ほかの記事もよろしくお願いいたします。