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現代アートと民俗学の意外な相性

若手作家が鋭い感性と深い思索で異空間を創造!

斬新な視点での空間創造こそ、いま求められている最先端の現代アート・インスタレーションだ。
忘れ去られようとしている葬儀での慣習を、若者らしい鋭い感性で、アートとして蘇らせた。

資生堂ギャラリーで開かれた、岡ともみ展「サカサゴト」(2023年1月24日~2月26日)を見ての感想である。

ハレの世界から、ケの世界へ

銀座の華やかさを象徴する資生堂ビル。
パーラーでパフェを食べようと、女性たちの長い列ができていた。
それを横目に、ギャラリーの入口へと地下に通じる階段を降りて行く。
どんどんと暗くなり、会場の入り口は暗闇となっていた。

そして、部屋に一歩入り込むと、わずかに照らされた「古い柱時計」が目に飛び込んだ。

その時計には、どうも違和感がある。
近づいてよく見ると、文字盤が逆、つまり裏返しになっていたのだ。

そして針は逆に回っていて、あたかも見る者を過去へと誘うかのようだ。
さらに、文字盤の下には振り子がなく、代わりに映像が揺らめきながら映し出されている。

いったい何だろう?


文字盤が逆、 そして針は逆に回る

魔界に迷い込む

暗闇に目が慣れてくると、その時計の後ろにも、時計、時計、時計と、たくさんの時計が宙に浮かぶ柱に掛けられていることに気がついた。

魔界に迷い込んでしまったようで、暗闇の中で恐怖感に襲われた。

ところがしばらく眺めていると、木で作られている柱や時計に囲まれながら、なぜかデジャブ(既視感)のような懐かしさと温もりも感じられ、気持ちは徐々に落ち着いていった。

作者の演出に導かれる

実はあとから考えてみると、この体験が作者である岡ともみ氏の意図に、まんまとはめられてしまったことがわかった。
いや、巧みな演出に導かれたといった方が適切かもしれない。

この作品は、作家自身の祖父の葬儀の体験の中で、日常生活での動作を逆に行う「サカサゴト」という風習に着目したそうだ。
例えば、死者の和服の襟の合わせを右下・左上ではなく、わざと左下・右上にと逆にする風習である。

「個人の大切な思い出や消えかかっている風習など、見過ごされがちな小さな物語を封入した装置を作り、記憶を空間に立ち上げることを試みています。」と、この展覧会のフライヤーには説明されている。

その意図の通り、私も昔の記憶をいつの間にか、たどっていたというわけだ。


木柱に掛けられた時計が暗闇に吊り下がる

民俗学の切り口

この展示を見て、古来から引き継がれる風習を民俗学的に捉え、作者の鋭い感性と思索で作品を作り上げていることに深く感動した。

博物館という明るい場所で、古い時計を物体として学習的に見るのとは全く違った空間。
地下室という暗い場所で、古い時計に「思いと仕掛け」を組み込むことによって、精神性や心象性までも表現する作品となっている。
そして、見る人に自らの思い出を回想させる空間まで演出している。

会場を訪れた女性が「自分の母親を思い出して、涙が止まらなかった。」という感想を実際に残している。
三次元の作品空間が、見る人に時間をさかのぼらせる四次元の作品へと昇華している。


タイトルも暗闇に浮かぶ

アート業界に加え民俗学の世界にも新風を!

年齢を積み重ねた作家が制作したのだと思っていたが、作者は1992年生まれの30歳だと知って、またまた驚いた。

「民俗学に感性を吹き込んだ」とも言えるこの作品のコンセプトは、アート業界だけではなく、民俗学の世界にも新風を吹き込むに違いない。

第16回 shiseido art egg(シセイドウアートエッグ)
「岡 ともみ 展」
2023年1月24日~2月26日
資生堂ギャラリーにて


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