実家の部屋
その部屋はわたしのすべてだった。
部屋には、真南と西に面した大きな窓が2つあって
昼間は太陽のひかりで過ごせ
夕方になると西陽が射して、だいだいに染まった。
夜は燦々とした月灯りを迎えた。
今思うと、まるで毎日がキャンプだ。
恐らく朝日以外の光が全て部屋に満ちた。
木の机には緑のマットをひいて
さながら芝生のようだった。
家を出るまで、そのほとんどの時間を
机の前で過ごした。
机の上には大好きな三省堂の国語辞典とオルゴール。引き出しにはワープロとフロッピーの束。
1番上の引き出しは紙。
サイドにすきなスタンプ。
その下はちりめん生地の小物。
横の壁には海と赤いヨットのポスター。
そこに、自分の持つべき全てが詰まっていた。
昼間何処にいても、何をしても、
この椅子に座った時に自分が始まった。
夜10時になれば蛍光灯を消してカーテンを開ける。
ようやく、今日が始まる。
安堵の思いで見つめた月だった。
月明かりはわたしには慈しみそのものだった。
そして友好の印でもあった。
なにを返せばいいのかわからない。
わたしにあるありったけの友情を月に投げかけても、このからだでは足りない、と泣けてきた。
だけどこのからだを
照らしてくれる月が好きだった。
起きた瞬間から、夜が始まることがうれしかった。
家に還るというのは
その時間が始まるということで、
そのための全ての儀式を終えることが
遠き山に陽は落ちて の歌詞。
きょうのわざをなしおえて
に、等しかった。