明治文豪とYoutuber:古くて新しい「参加しない」ゆるメディア
米国在住スミさんが、東京の友人コイさんと、哲学・テクノロジー・歴史などについて毎週Facetimeでトークします(第15回)。
1.入退出自由な「ユルさ」
(…Facetimeの呼び出し音)
ーはろー。
こんにちは。日本は四連休でしたっけ。
ーそうだよ。どこにも行けないから読書三昧。
何読んでるの。
ーイワン・イリイチの『コンヴィヴィアリティの道具』。
友人のおすすめで。
また難しそうなものを・・・
そしてコイさんがどんどんアナーキストになっていく。笑
ーいやいや。笑
俺は自分が一生懸命コミットしなくても、うまくまわる社会がいいですよ。笑
出た、怠惰なコイさん。笑
私は全然高尚じゃなく、Youtube三昧ですよ。最近、料理動画にはまってるの。
ーほう。シェフからレシピを学ぶの。
いや、全然そんなんじゃなくて。
普通のOLの人が、独り言しながら、夕飯作ってただ食べる、っていう5分くらいのゆるい動画。
(一例)Youtube『あみにーちゃんねる』より
ーへえ。
ごはん食べながら、なんとなーくかけてる。
真剣に見てるわけじゃ全くなく。
ーなるほど。
なんか、そういう種類のチャンネルって、ウィズコロナの現代人の生活に合ってる感じがするよね。
そうかな?
ー前にも話したけどさ、対談形式のPodcastの良さも、そうじゃない。
二人の出演者が、台本なくゆるくいろんなことを喋る。
うん。1時間くらいの中で、話題がどんどんうつっていくよね。
トピックが一貫しているような、していないような。
ーだから、いつ聞き始めても、聞き終えても良い。
カフェで隣の人がしゃべっているのを、なんとなく聞く感じ。
確かに。コロナが流行し始めた3月は、Zoom飲みが突然盛り上がったけど、そんなに続かなかったな。
ーでしょ。
一対一で誰かと喋るのって、結構しんどいんですよね。
ー自分がコミットし続けるのって疲れるよね。
かと言って、ずっと一人も寂しい。
2.穏やかなインフォーマルな世界での休息
なんか面白いね。
デジタル時代になって、「参加型」とか、自分も影響を及ぼせる感触が流行ってると思ってたけど、それだけでもないかも。
ー一対多のメディアだと、観る方は実は「参加者」じゃなくて、やっぱり「傍観者」のスタンスだよね。
その形式自体は、昔から変わらない気がする。ラジオのリスナーの投稿とか。
確かに。
デジタルになって、その時間差が縮まったってだけか。
ーかもね。
でも、色んな人がコンテンツ発信者になれるようになって、現代人に適したコンテンツは増えたよね。
と、言いますと?
ー対談型のPodcastも、スミさんが見てるYoutubeも、言ってしまえば、ただの隣の人のお喋りじゃない。
ふむ。
ー良い意味で、情報も、強い主張が無いよね。
聴いてて疲れない、感情に波風が立たなくてラク。現代人は疲れてるんだよ。笑
テレビとかネットニュースとか、フォーマルなコンテンツはメッセージ性が強すぎるのかも。
人々が安息を求めて、こう言うインフォーマルな世界が充実していく。
ーコロナで何気ない会話がリアルから消えた分、デジタルコンテンツで余計ね。
2014年頃から、ファッションの世界で「エフォートレス」っていう言葉が流行ったけど、コンテンツの世界もそうなっていくのかも。
ーそうね。
3.明治の寺田寅彦と、令和のユーチューバー
最近、わたし寺田寅彦のエッセイにはまってて。
『コーヒー哲学序説』とか。
ーおー、寺田寅彦。
さすがコイさん、よく知ってますね。
ーうん。知的で洒落た文章書くよね。エッセイも多いよね。
そうそう。それが好きなのよ。文豪の日常を覗いている気分になって。
ーいいね。
でもね、寺田寅彦なり芥川龍之介なり、明治の文豪が無数に書いた作品も、エフォートレスなコンテンツだと思うんですけど。
ーそうね。
古くは『枕草子』とか『徒然草』みたいな随筆もね。
そういうのって「明治の文豪の作品」ってだけで崇高なものとして、過大評価されてる気がして。
Youtubeも、コンテンツクリエイターとして必ずしも劣るわけでもないのに、本媒体や文学にまだまだ社会的地位が劣るなあ、と。
ーうーん、それだけでもないかもよ。
「文学作品」でも消えていったものは無数にあるけど、時代が流れても世間に評価されて生き残ってきたものでしょ。
うん。
ーその価値がプラスされてるんじゃない?
クオリティがその他と本質的に違う、っていうよりも、人々の「イイネ!」で確立してきたブランドの分。
なるほど。
有名クリエイターと無名クリエイターで、コンテンツがほとんど同じなのに、前者はイイネがたくさん、後者は埋もれる、みたいなのは今もあるもんね。
ーそうそう。
そういう意味では、『枕草子』には1000億ダウンロード、300億イイネくらいついてるみたいなイメージ。笑
そうか。
そう考えると、Youtuberと芥川龍之介と清少納言は、正当な競争の途上か。笑
ーうん。
ふむ、なんかすっきりした。
コイさん、寺田寅彦ぜひ読んでくださいよ。『丸善と三越』が私は一番すき。文豪のオシャレな日常を覗いてる気分で。
ーはい。気分転換に読んでみます。
ぜひ。じゃあ、今日はこのへんで。
残りの一日ゆっくりしてください~。
ーありがとう。ではではー。
(…Facetime終了)
★参考文献★
『あみにーちゃんねる』(Youtube)
『丸善と三越』寺田寅彦(青空文庫)
『コーヒー哲学序説』寺田寅彦(青空文庫)