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【掌編小説】失格未満
寂しいが付き纏ってくる。
物心ついた幼稚園生の頃にはもう
寂しいであったり、ひとりぼっちだなぁ
といった気持ちが私の周りを彷徨いていて
最近あいつ見ないなと思っても
また、何処からともなくやってくるのである。
いっその事、味方につけられたのなら楽にもなろうが
そういう訳にもいかないらしい。
「あなたは一番じゃないと気の済まない人だよね」と
言われたことがある。
あれは、母だったか昔の女だったか。
言われて瞬時に感じた恥ずかしさに遅れをとるように、くらっと目眩がした。
恥ずかしかった。
見透かされてしまった。
死ぬまで誰にも見透かされたくないと思っていた。
いや、そう思う事すら恥だと思い、
自分はそのような事など考えたこともない然として
生きるよう心がけていたのだから。
もう見透かされる以前の私として
生きられないとすら思った。
認めざるを得ないのだ。
私は寂しく、そして卑しい人間なのだ。
どっかの誰かが
「ありのままで生きるのが一番」と言った。
嘘つき。馬鹿らしい。
そんな事を言う奴はな、周りの人間が
ありのままで生きるお前に合わせてくれて
ありのままで居させてくれていることにすら
気付かない大馬鹿の間抜けだよ。
ほら、少しつついただけでメッキの剥がれる
こんなありのままの自分。愛せるわけがない。
こんな事言ってもそばに置いてくれるの?
随分お優しいことで。
大丈夫。無理なこと位分かってる。
また新しい仮面作んなきゃなぁ。
いっそ自分も玉川上水に身投げ出来ればいいのになぁと思っても、そんな度胸など無く
いっそ近付くもの皆傷つけてしまえたらなぁと思っても、そんな度胸もまた無い。
太宰もこんな気持ちになっただろうか。
勝手に似た気持ちを感じながらも
彼のように行動には移せない自分に辟易して
読みかけの本は棚の奥に押し込んだままでいる。
失格にもなれない
失格未満のどうしようもない自分。
花丸と失格、どちらを貰えば自分は満足するのだろう。
どちらも貰えそうにない自分は
どこへ向かえばいいというのだろう。
それすらも誰かに問うことは出来ず
本棚の右下、一番奥。
埃を被った本を手に取り目を閉じる。
夢であなたに聞けたなら、と期待を込めて。