大滝詠一による大滝詠一研究書 『大滝詠一 Talks About Niagara』

(2020年の1冊目)2011年、『A LONG VACATION』の30周年記念リマスターが出る前に出版されていた大滝詠一のインタビューや過去に音楽誌に寄稿した原稿をまとめたもの。インタビューは過去に大滝がてがけた作品のリマスター再発などをきっかけにしたものとなっており、制作時の事情や大滝が楽曲に込めた意味や意図を自身の口から解題するような内容となっている。

70年代初頭の作品やナイアガラ・レーベルに関しての発言のなかには、はっぴいえんど関係者の名前は言わずもがな、山下達郎(収録された対談記事には山下達郎も登場する)や坂本龍一の名前も頻出し、日本のポップ・ミュージック史における重要な人脈地図のようなものが大滝詠一の重力圏のなかで描かれているようで大変興味深い。とくに後にYMOを結成することになる細野晴臣と坂本龍一が初めてセッションをしたのが大滝詠一のスタジオだった、とか、YMO結成まで坂本龍一は山下達郎にとって一番の友人だった、とかいう記述から「(あまりはっきりと自分がわかっていない、し、かつ言及されることが多くないように思われる)YMO以前の坂本龍一の姿」を追ってみようか、という気持ちになる。

「世の中にそんな人間いるわけない!」 大瀧詠一さんとは、そのような方でした。

以上は、死後に発売された『Best Always』に寄せられた山下達郎による文章からの抜粋。本書を読むとさらに山下の言わんとするところをより深く理解できる。人を食ったトリックスター的な遊びのなかから歌謡曲のヒットソングを数多く生み出した作曲家という音楽家としての一面にとどまらず、演芸やスポーツ、映画に関しての深い知識や鋭い洞察はほとんどプロの評論家のようであるし、さながら人格が分裂しているようなのだが、リマスター作業であらわれる偏執的な性格にも恐れ入るばかり、という感じであって、要するに本人のレベルが高すぎて、本人以外その世界の全貌を把握できない、というのが正直なところである。

なお、本書については大滝の死後出版された「Complete Edition」もある。


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