[理系による「アート」解説] 能・狂言の鑑賞方法 ➡この世とあの世の狭間でダンス・ダンス・ダンス
"狂言"は、今で言うと"お笑いコント"なので、観やすく分かりやすいです。
問題は"能"です。かなり抽象度の高い演劇です(アングラ演劇ともまた違う)。
死者の"怨念"や"現世への固執"が主なテーマの演劇なのですが、
・音響は、打楽器と笛と歌のみです。
・照明は、変化がありません。
・一部の役者は、能面をかぶっているため表情が分かりません。
とまあ、一般的な舞台とも全く違います。
自身は"ダンスによる幽玄舞台"と定義しています。
まず、"ダンス"の意図するところですが、一部の役者は能面をかぶっているため表情が分かりません。よって、役の感情を表現するには身体の動きしか手段がなく、身体動作ですべてを表現する、という意味でのダンスになります("踊る"という意味でのダンスとはニュアンスが異なります)。よって、面をかぶった能楽師は、劇の初めから終わりまでずっとダンスを行います。顔の角度を微妙に調整することで能面への光の当て方を変え、喜怒哀楽を表すのもダンスですし、見せ場である"舞"を舞うのもダンスです。
次に、"幽玄舞台"の意図ですが、死者の"怨念"や"現世への固執"が主なテーマなので、死者(というか幽霊)が普通に出てきますし、死者が舞を舞って現世への執着から解放されて、あの世に昇天していきます。よって、舞台上はもはや我々の属している世界ではなく、この世とあの世の狭間になっており、能面・衣装・音響も含めて、なんとも幽玄な世界が構築されています。
と、偉そげな能書きを垂れましたが、自身は"能"の前半から中盤にかけて実は大体寝ています。役者の動さがゆっくりなのか、打楽器のリズムからかよくわからないのですが、とても眠くなるのですよね。ただし、熟睡するわけではなく、半分寝ていて半分起きている状態なので、まさに、現実と虚実の間でぐるぐるした感覚になります。
で、最後に覚醒した状態で"舞による昇天"を堪能します。"舞"は鬱屈した感情から解き放たれた感情への変化を表現するので、とても見ごたえがあるダンスです。
を、一緒に能を見に行った理系ドイツ人2名に説明したのですが、1名は理解してくれて面白かった、とコメントしてくれましたが、もう1名は歌舞伎をイメージしていたのか、なかなか伝わらなかったです…。