[理系による「アート」考察] 絵画オタクが画家になる、そして世界で最も偉大な画家になる
デイヴィッド・ホックニー展に行ってきました!!!
実は、自分はホックニーの大ファンで、今回の展覧会は楽しみで楽しみで仕方がなかったのですが、なんしか夏が暑すぎて…。よーやく涼しくなったので、妻を誘って行ったのですが、
凄い!!! 素晴らしい!!! やっぱホックニーは最高だ!!!
で、トランス状態に入り、国内の展覧会では自身の最長記録となる3時間を超える時間をこの展覧会で過ごす始末…。(ほんとはもっと見ていたかったのですが、腰と足が限界で…)
というわけで、今回は、ホックニーの魅力と、この展覧会で展示されている作品の一部の考察・解説をゴリゴリ理系の切り口で行います~。
まずは、ホックニーの魅力に関してです。
ホックニーは上記の本で分かるのですが、実は絵画オタク(とうかアートオタク)で、西洋から東洋までありとあらゆる絵画の技法をオタク的視点で吸収しています。そして、その吸収した知識を、非常に論理的に整理・再構成し、自身の作品に反映させているところがゴリゴリ理系を魅了している理由です。
では次に、"絵画オタクが吸収した知識を、非常に論理的に整理・再構成して作品に反映させている"点に関して、今回の展覧会で展示してある作品を例に説明していきます。
■三番目のラブ・ペイント(1960、23歳)
現代の我々の認識するホックニーとは全く異なる画風ですが、何かホックニーの中のドロドロした部分を見せられているような気味の悪いものを感じさせる絵です。まだ23歳なので、ホックニー自身の中でも色々葛藤があったのだと思われますが、それをそのまま表現したような絵であり、陰鬱な暗さを感じさせます。
■ビバリーヒルズのシャワーを浴びる男(1964、27歳)
色彩がかなり明るくなりますが、雰囲気的にはまだ暗いです。少しずつ、自身の恥部をさらけ出し始めますが、それほど吹っ切れているわけではなく、まだ葛藤と戦っている状況を感じることができます(まだ27歳ですからね…)。技術的には、シャワーから出た水が肉体ではじかれる様の表現は見ごたえがあります。
■23、4歳の二人の少年(1966、29歳)
若い芸術家の創作の根源となる"自身の恥部"をいよいよ直接的にさらけ出しました。この辺りからかなり吹っ切れたらしく、若干暗さは残るものの、我々が認識するホックニーの絵の色彩になっていきます。
■クラーク夫人とパーシー(1970~71、33~34歳)
恥部をさらけ出すことで自身のコンプレックスで悩む必要が完全になくなったため、芸術家として次の段階に入ります。具体的には、絵画オタクの知識の整理、の時期です。ホックニー自身が持つ過去の芸術家による構図・光の表現・色彩バランスの知識を、自分なりに消化していこうとしていきます。この絵にて、色々な画家の要素が見られてすべてを説明できないのですが、分かりやすいところで言うとフラ・アンジェリコの"受胎告知"でしょうか。色彩的にはフレスコ画的な色合いになっており、2人の人物による構図・緊張感も参考にしていると思われます。また、ベラスケスの"ラス・メニーナス"にて描かれている"モデルの視点がこちら側に集中し、絵のモデルから見られていような感覚、になる技法”も入っています。
■ジョージ・ローソンとウェイン・スリープ(1972~75、34~37歳)
これまた色々が画家の要素が入っているのですが、分かりやすい要素の1つがフェルメールの"窓辺で手紙を読む女"です。横から光が入る状態における表現、を消化しようとしているのが分かりますし、構図も非常に似ています。また、右側の余白は、日本画の余白、から来ていると思われ、絵画オタクっぷりがよく分かります。
■ホテルの緯度の眺め Ⅲ(1984~85、47~48歳)
キュビズムとフォービスムの消化です(どこまで絵画オタクなんだ…)。静止している絵なのになぜかグルグル回っているような錯覚に陥る、人間がどのようにモノを見て認識しているのかを論理的にとらえつつ、その論理性を悟られないようにフォービスムな色彩で表現した(ごまかした)、なんとも秀逸な作品です。
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ここで少しブレイクなのですが(ここからが本番なので)、ホックニーのデッサン力に関してです。ホックニーの絵はデッサン力が無いように見えるのですが、リトグラフを見るとそうではないことが一目で分かります。この展示会では多くのリトグラフがあるので、ぜひご覧になってください。
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■竜安寺の石庭を歩く 1983年2月、京都(1983、46歳)
絵画オタクの知識の中で、勿論ピカソも含まれています。で、この作品では、なんと、キュビズムを進化させることに成功します!
具体的に、ホックニーは、
3次元の物体を、複数の視点から見て得られる絵を再構築して、2次元にする、
という従来のキュビズムの概念に、
時間の要素を加えることにより、4次元(3次元+時間)を2次元で表現する、
ことに成功し、キュビズムを進化させました!この進化はゴリゴリ理系の心を非常に打ち、自身をホックニーの大ファンたらしめた作品なのですが、詳しくは下記を参照していただけると嬉しいです。
■四季、ウォルゲートの木々(2010~11、73~74歳)
"竜安寺の石庭を歩く"、にて、絵画オタク知識の整理の時期から、再構築・新領域に完全に移行し、ホックニー自身のスタイルが確立するのですが、"竜安寺の石庭を歩く"、は写真(静止画)のよる再構築だったものを、この作品ではそれを進化させ、動画での再構築、を試みます。つまり、止まっている時間の再構築ではなく、流れている時間の再構築、になります。そうなると、ゴリゴリ理系の思考に大混乱が生じ、つまり、もはや何次元の再構築か分からなくなり、論理的には5次元でしょうが、本能的に違和感があり、どーも腑に落ちず、最終的に作品を見ていて笑うしかなくなりました…(ゴリゴリ理系的に解が出ず完敗という意味)。
しかもそれだけでなく、4面にて、春・夏・秋・冬、を構成し、何次元か分からない状態の中で、1年という時間次元の再構築は限定されるという、再構築の発散と収束を同時に実現しており、ゴリゴリ理系的にはただただ感動するしかない作品でした(個人的には、ホックニーはもうピカソを超えています…)。
■ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作(2007、70歳)
"竜安寺の石庭を歩く"、は写真(静止画)のよる再構築でしたが、この作品では、自身の絵画を要素として再構築する、を試みています。しかもコンセプトが斬新で、巨大すぎて完成状態が直接分からない、という状態の中で絵を描くとどうなるんだろう?、な好奇心から作品を作成していると思われますが、個人的なつぶやきとして、"ホックニーさん、どこまで進化されるのですか…?"。しかも、この作品が凄いのは、構成要素に過ぎない1枚の絵でもホックニーの作品として完成された素晴らしいモノであり、それをコラージュするという、もはや芸術家として完全に自由を獲得している状態の作品であるところです。
■ノルマンディーの12か月(2020~21、83~84歳)
今度は、自身の絵画を日本の絵巻物のように再構築し(どこまでも絵画オタク…)、春夏秋冬の1年を横スクロールで再構築した作品です。この作品の凄いのは、鑑賞者に1年を1周歩行させて体感させる、という体験込みで1年を再構築するという、もはや表現という分野に関して、視覚以外の要素により人間の認識を解放させるところで、もはやホックニーは究極系の芸術家の領域に達しています。
■2021年6月10日~22日、池と睡蓮と鉢植えの花(2021年、84歳)
さすがにこれ以上の再構築表現はないだろう…、と思っていたら、今度は、各絵を描く時刻過程を見せながら再構築する、かつ、各絵の作成時間を同期させ完成のタイミングを合わることで作品完成は瞬時的にする、しかし、作成過程をループさせることで永遠に再構築が行われることにより時間次元は超越する、つまり、瞬時と永遠を同時に表現することにより時間次元を人間の3次元認知と同様なレベルまで持っていく、という言語化すると何言っているか分からない斬新すぎる表現を、絵を描くツールの進化(つまりiPad)を積極的に取り入れることによりやってのけ、もはやホックニーは、世界で最も偉大な画家、であります!!!
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ここで再ブレイクなのですが(次で最後です)、ホックニーって、本当にお洒落さんでもあり、そこも自身が大ファンな理由の1つです。
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■春の到来、イースト・ヨークシャー(2011、74歳)
自身が一番時間をかけた鑑賞した作品です。もはや、オランジュリー美術館の"睡蓮の間"状態で、何周したかもはや分からないほどグルグル回り続けたのですが、そのぐらい回るたびに新しい発見があり、もはや逃れられない圧巻の作品でした。
具体的には、この作品は初めはモネの睡蓮を彷彿とさせますが、どうも色の滲み方が、琳派の"たらしこみ"、にも見え、絵画オタクのホックニーならやりかねない!、と推測も入り、分析を続けていると、もはやトランス状態に陥り、グルグル回り続けるに至ってしまったわけですが、この作品で凄いのは、これをiPadで作成している点です!
絵画と言えば、筆と絵具!、な固定概念に自身が縛られていることを絵画マニアから教わる、という事実に驚愕と興奮の両方が入り混じった気分になった、本当に幸せな時間を過ごせた作品でもあります。
というわけで、長文になってしましましたが、サイコパス理系が企画・構成・演出した学芸員の方に拍手を送りたくなるほど大変すばらしい展示会でありました。
しかも、展示会が終わるまでにまだ間があるので、もう一度行こうか真剣に悩んでいる状態でもありますが、皆さまももしご都合合えば、行ってみられることをお勧めします!
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