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クリエイティブ視点で「なまえ」の話

さまざまな会社のクリエイティブ・ディレクションを請け負っていますが、最近「サービス名」を考えて欲しいという依頼を受けることがあります。つい先日もご依頼いただき、ここ最近は頭の片隅でずーっと「なまえ」を考えています。ユーザーの記憶に残り、かつ、何をするものかが簡単に想起できるサービス名を考えるのはなかなかむずかしいです(でも光栄です)。

今回はそんなサービス名や企業名など「なまえ」の話をします。正解やセオリーのある話ではありませんが、いろいろな角度の考え方があると思います。

CMを作っていると、ラストでクライアント企業の会社名やサービス名をロゴとともにコールする際に「名前、覚えてもらえますかねぇ?」という議論がよく起きます。読み方やロゴの出し方で最大限の工夫はしますが、限界はありますね。他に「ちゃんと検索してもらえますかね?」という議論もよく起きます。多くの場合、英語のスペルが難しかったり名前が長かったりで、カタカナや略称を検索窓内に記載したりすることで対応しています。

もちろん魂こめて作り上げる会社やサービスの名前を、はじめからマーケティング的に有利である名称にする必要は必ずしもありませんが、CM向けの名前と、CM向けではない名前と言うのは明確にあります。

個人的に、最近良い名前だなと感じたのが「SANU」さんです。「サヌー」と読みます。東京から車でいける距離で自然の中に建つ2nd homeの月額サービスで、愛用させてもらっています。

年末に訪れたSANU白樺湖

SANUがどういう意味かは、今日これを書くために調べるまで知りませんでしたが、子供たちも「次、いつサヌー行くの?」「こないだサヌー行った時のさぁ」と「セカンドホームを訪れる行為」であったり「思い出の中での地名」の代名詞として日常的に使われています。このパターンの名称は、一般に認知を広げて行こうと思うと強いですね。

SANUとはサンスクリット語で、「山の頂(いただき)」、「太陽」、「思慮深い人」の3つの意味があります

https://remotelock.kke.co.jp/case/hotel/sanu/

サービス名を考える際や、キャッチコピーを書く時に「サービス名が動詞になりたいです!」と言うオーダーをクライアント企業からもらうことがよくあります。分かりやすく言うと、検索することを「ググる」(Google)と呼ぶ、のようになりたいという話です。

それはなりたいです。
なれたら最高です。
でも、これは相当な難易度です。

Googleは言わずもがな、古くは(特に海外では)コピーをとることをXEROX(ゼロックス)すると言ったり、(海外では)ゲームをすることやすべてのテレビゲームがNINTENDOと言われました。最近では、使うツールが何であってもオンラインミーティングすることを「Zoomする」と言ったりしています。

そんなオーダーをもらった時にお話しさせてもらうのが(言い訳っぽくもありますが事実だと思います)過去の事例はほとんどユーザー(顧客)が動詞化させ、それが一般化した事象であり、企業側がそう呼ぶことを推奨し意図的にその名称を広めたのではないと言うことです。

少し前に「食べログ」さんが「食べろぐ?食べろがない?」みたいなCMをやっていました。飲食店を検索し予約する行為を「食べろぐ」という動詞化させましょう!というキャンペーンだろうと一視聴者として受け取りましたが、自分の感覚としては、これをCM発信で(しかも短期間で)定着させるのはむずかしいだろうなと感じました。

言うまでもないことですが、動詞化するためにはそもそも体験が「あたらしく」「圧倒的」であることは外せないと思います。その「行為」を代表する代名詞になるのだから。ただ、食べログの場合で言えば国内ではNo.1のポジションにあり体験価値的には充分とも言えるかも知れません。

この時のコツ?ポイント?となるのは、「聴いたことのない単語(造語)」であり、「音の響きにちょっとしたおもしろさ」があることではないだろうか?と思っています。SANUの場合も「サヌー」だからよくて「サヌ」だとちょっとおもしろ味が足りない気がします。「グーグル」って名称もそうだし「ググる」ってちょっと独特ですよね。はじめて「ぐぐる」って単語を発する時、ちょっとした照れが生じたことは生々しく覚えています。ゼロックスもあたらしい感じのする単語だし、ニンテンドーに至っては日本語だけど言いやすいエキゾチックさがあるのかも知れません。

なまえを今まで見たことも聴いたこともない造語にすると、多くの場合、何をするサービスなのか?のコミュニケーション速度は低下します。しかし、定着した時に深く残り、代名詞化できる可能性が生まれるということです。

例えば、長く支援させていただいている企業に「M&Aクラウド」さんがあります。「M&A」と「クラウド」は、どちらも(その業界では)かなり日常的な一般名詞で、2つの単語の関連性に意外性もないので、記憶に残る名前か?と言われれば、そうではありません。しかし、事業の売買というごく限られたタイミングにのみ使うサービスのため、一般に名前が覚えられている必要性もありません。逆にどんなことができるサービスなのか?の速度はめちゃくちゃ早い名称で、正解だと思っています。

自分の会社も「北尾企画事務所」という名称です。インパクトも口にしたい響きもない名前だけど、あまりにそのままで何をする会社なのかは瞬時に理解可能です。

別の観点で名称にはSEOも重要です。企業名やサービス名を入れて検索した時に、検索リストの上位に出てくるかどうかという観点です。あまりに一般名称すぎる名前だと、いつまで経っても上に上がってきません。有名な映画やドラマなどと同じ名称だったりしてもきびしい戦いになります。そこをハックしていてうまいなと思ったのが「ラクスル」や「ノバセル」です。

マーケティングを駆使して売上を「伸ばして」くれる会社なんだなと事業内容は伝わる上に、カタカナ4文字にすることでSEO観点ではライバルがおらず簡単に上位に並ぶことができるのです。

冒頭にも書いたとおり、ネーミングに正解やセオリーはありませんが、奥が深くおもしろい分野です。企業名やサービス名のネーミングのご依頼あれば、是非、ご相談ください。


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