見出し画像

1,000万ダウンロード突破のタクシーアプリ『GO』 で経験した、プロダクトを成長させるための「3ステップ」

この記事は、Mobility Technologies Advent Calendar 13日目の記事です。

はじめに

株式会社Mobility Technologies(以下、MoT)の脇水と申します。
MoTのプロダクトマネージャーとして、「どうする? GOする!」のCMや広告でもおなじみのタクシーアプリ『GO』(以下、『GO』)を担当しています。
加えて、プロダクトマネージャー(以下、PM)の所属組織であるプロダクトマネジメント部のマネージャーとして、チームビルディングや採用なども担当しています。

私は、2020年9月の『GO』ローンチからPMとしてこのタクシーアプリに携わってきました。
そこから2年が経過した2022年9月、1,000万ダウンロードを突破するという大きな節目を迎えることができました。(もちろんこれはPMのチカラだけではなく、開発・デザイン・QA・分析・事業・営業・マーケ・サポート部門など、MoTの様々な部署が一丸となって努力した結果です)

1,000万ダウンロードとともに、『GO』が利用できるエリアも次々と拡大中
引用元:https://go.mo-t.com/infographics_10milliondl

私自身、ここまで多くダウンロードされ、市場に浸透したアプリを担当するのは初めてなのと、それだけ多くの人々に使っていただけている充実感、一方で責任感も感じながら、日々プロダクトマネジメントの業務にあたっています。

この記事では、2020年9月の『GO』ローンチから2年間で1,000万ダウンロードを突破して今に至るまで、どのような思想で『GO』のプロダクト成長させてきたのか、有名な狩野モデルに照らし合わせ、プロダクトの観点から3つのステップに分けて紹介します

なお、狩野モデルについては以下の記事がわかりやすいくまとめられているので紹介します。

この記事を読むメリット

  • タクシーアプリ『GO』を実例としたプロダクトの成長と進化の過程を把握し、自社プロダクトの成長のために活用できるヒントを得ることができる。

あくまで、『GO』による一例ではありますが、この記事がプロダクトの成長と進化を目指し日々奮闘しているPMの方々にとって、少しでも参考になれれば幸いです。

『GO』の提供価値の変遷 〜 「誰の何の課題を解決し」「どのような姿に」してきたか

Step0:『GO』誕生の経緯

まず初めに『GO』がなぜ誕生したのか、その経緯をお伝えしたいのですが、こちらについては以前に記事を書きましたので以下をご覧ください。(読んでいただくことでこれからお伝えする「3ステップ」の理解が深まると思います)

ここからが本題です。

Step1:「当たり前品質」の追求

「今すぐタクシーに乗りたい人」を「すぐ乗れる姿」に

『GO』は前身の『MOV』のプロダクトをベースに2020年9月にローンチしました。最初に目指したのは「当たり前品質」の追求です。
『GO』の当たり前品質は、「タクシーに乗りたい時にすぐ乗れる体験」の提供です。

狩野モデルの当たり前品質とは:
顧客にとって「あって当たり前。無ければ不満。」と感じる要素。
当たり前品質が満たされていないと顧客の不満を引き起こす。

タクシーに今すぐ乗りたいが周辺にタクシーが見つからない、タクシー会社を探して電話をして注文するのが煩雑、というタクシーユーザーの課題に対し、『GO』を利用することで、アプリを起動してから最短1分でタクシーが決まる。を目指しプロダクトの体験設計をしていました。

タクシーに乗りたいが故に『GO』を利用していただくユーザーに対して、結果としてタクシーを提供できなかったら顧客への提供価値は0になります。よってまずは当たり前品質をとことん追求しました。

Step1:当たり前品質にあたる「乗りたい時にすぐ乗れる体験」の追求

『GO』では「当たり前品質」が維持できているかどうか計測するための指標(KPI)があり、以下のような数値を日々ウォッチしています。

  1. 呼べる状態になっているか:『GO』を起動した時に配車可能なタクシーが周辺を走っているかどうかの確率

  2. 呼んだ後に確実かつすぐに配車が決まっているか:「タクシーを呼ぶ」のボタンをタップした後に、タクシーが配車できた確率と配車が決まるまでの所要時間

  3. 乗車までの待機時間:配車されたタクシーがユーザーの乗車位置に到着するまでの所要時間

  4. 乗車率:タクシーを呼んでから配車が決まり、乗車まで至った割合

  5. 降車時の支払い時間:目的地に到着し、支払いが完了して降車するまでの所要時間

1.〜5.をはじめとした主要KPIについては、僅かでも向上できるよう日々様々な改善施策に取り組んでいます

KPIのインフォグラフィックス
引用元:https://go.mo-t.com/infographics_10milliondl


Step2:「一元的品質」の展開

「希望した時間でタクシーに乗りたい人」を「時間通り乗れる姿」に

『GO』ローンチから2ヶ月後の2020年11月に目指したのは「一元的品質」の展開です。
『GO』の一元的品質は、「タクシーに乗りたいタイミングで確実に乗れる体験」の提供です。

狩野モデルの一元的品質とは:
顧客にとって「あれば満足度が高まるが、ないと不満。」に繋がる要素。
ただあればよいのではなく、品質の良し悪しで顧客の満足度が変化する。

タクシーを利用したいシーンとして、「電車やバスなど公共交通機関の本数が少ない早朝や深夜」「朝の混雑時間帯」「日中の過密スケジュールの隙間」などがあり、時間を指定して予めタクシーを確保し、移動手段をスケジュールに組み込んでおきたいというニーズがあります。

このシーンの場合、ユーザーはタクシー会社に電話をしてタクシーを予約していたのですが、従来のタクシーにおける予約サービスは、予約時間に確実に間に合うようにユーザーが指定した乗車時間の数十分前からタクシー乗務員が待機をする必要があったため、待機時間中に他の営業ができたり、万が一ユーザーが来なかった場合には営業上のロスが非常に大きくなってしまうことから敬遠するタクシー会社があり、予約をしたいユーザーのニーズに十分応えられるだけの車両台数が確保できていないという課題がありました。

その課題を解決して「乗りたいタイミングで確実に乗れる体験」を提供すべく、「AI予約」のサービスを開発し提供しました。
「AI予約」は、AIを活用しリアルタイムでの需給予測を『GO』に導入することで、エリア・時間など細分化した状態でのユーザーの配車依頼実績(需要)と車両の位置などの状態(供給)の膨大なデータを集めて分析し、99.9%以上の確率で配車が成功できる車両台数を各エリア毎に予約枠としてユーザーに提供する仕組みです。これにより、今までよりも10倍以上の予約の注文件数を受けることが可能になりました。

かつこの仕組みでポイントとなるのは、タクシー乗務員は予約のための特別な対応が不要ということです。理由としては「AI予約」は予めユーザーが乗車時間を定めているため、その時間通りにユーザーの元に到着できる最適な場所にいるタクシーを計算して算出し、かつ乗務員の待機時間が長くならないよう最適なタイミングで配車の依頼を行うアルゴリズムを『GO』の裏側にある配車を処理するプログラムで動かしているからになります。
予約のための特別な対応が必要になってしまうと、前述のタクシー会社にとっての課題にぶつかってしまい、AI予約のサービスに参画いただく会社が増えないため、ここは非常にこだわったポイントでした。

少し難しい話になりましたが、簡単にいうと、タクシーユーザーは「乗りたい時間を指定して予約をしておくだけ」、タクシー乗務員は予約のための特別な対応は不要で「通常通り営業してもらうだけ」という双方にとってメリットがある体験を提供しながらAI予約のサービスを展開したことで、結果的に従来のタクシー予約の10倍以上の要求を受け取ることに成功したという実例になります。

一元的品質では機能の良し悪しが顧客満足にダイレクトに影響するため、AI予約をただ提供するだけではなく、ユーザーが希望した時間に確実にタクシーに乗れるよう、現在も随時改善やチューニングを行い品質向上を行なっています。

Step2:一元的品質にあたる「乗りたいタイミングで確実に乗れる体験」の展開

AI予約の仕組みに興味を持たれた方は、以前に記事を掲載しておりますのでそちらもご覧ください。(記事には「希望日時配車」と記載がありますが、現在は「AI予約」に名称変更しております)


Step3:「魅力品質」の提供

「車両を選んでタクシーに乗りたい人」を「条件通り乗れる姿」に

「当たり前品質」の追求、「一元的品質」の展開の後に目指したのは「魅力品質」の提供です。
『GO』の魅力品質は、「好みの車両を選んで乗れる体験」の提供です。

狩野モデルの魅力品質とは:
無くても困らないがあったら嬉しい要素。あることで差別化となる要素。
満たされていなくても顧客は不満に思わないが、満たされていることで顧客満足向上に繋がる。

「乗りたい時にすぐ乗れる」→「乗りたいタイミングで確実に乗れる」の価値を提供し、様々な企画・プロモーション・エリア展開などを進めていく過程の中で、2021年10月には『GO』は500万ダウンロードを超え、街中にも『GO』のラッピング車両が増えていく中で、PMFを実感できるようになってきました。

『GO』を使っていただいていくユーザーが増えていく中で、しかしながらタクシーを呼んで乗車するという行動一つをとっても、実に様々なユーザーのニーズがあることがデータやユーザーインタビューなどからわかってきました。(MoTにはリサーチャーのプロフェッショナルが所属しており、定量調査だけではなく定性調査も常時行なっています)

例えば、「荷物を多く積める車両を選びたい」「車椅いすごと乗車できる車両を選びたい」「評価の高い乗務員を選びたい」「特別な日なので良質な体験で移動できる車両を選びたい」etc.. 
様々なニーズがある中で、定量的・定性的に要望を分析し、ユーザーへの価値提供と事業収益の両立をとる形で優先順位を判断し、好みの車両を選んで乗れる体験を提供するための機能やサービスを展開していきました。

『GO』では、車両タイプ(スライドドア車両・車いす対応車両)に加え、こだわり条件(GO優良乗務員・空気清浄機など搭載車両・JPN TAXI)を選ぶことができ、様々なシーンに合わせて条件を選んでタクシーを手配することが可能になっています。

Step3:「魅力品質」にあたる「好みの車両を選んで乗れる」体験の提供
左:車両タイプやこだわり条件の指定画面、右:GOプレミアムの選択画面

さらに、2022年11月16日からは、GO PREMIUMのサービスを展開しています。いつもの『GO』の操作で良質な移動体験が味わえる「アルファード」の車両を呼ぶことができます。


そして今後(2023年以降)、『GO』が目指していく姿とは?

ここまで、『GO』のプロダクトが成長してきた過程を3ステップに分けてお伝えさせていただきました。
『GO』はPMFに成功し、1,000万ダウンロードを突破したということで、既に完成されたサービスでは?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。(実際、私は採用活動も行っているのですが、面談・面接でも応募者の方からこの質問をされることがよくあります)

しかしながら、この質問に対しては、明確に「NO」と回答しています。
理由は、アプリによるタクシー配車はタクシー市場全体で見るとまだ数%のシェアにすぎず、まだまだ多くのタクシー利用者と乗務員が従来のタクシー産業が抱えている課題に直面している状況であり、その課題解決に向けて『GO』のさらなる浸透と定着を含め、まだまだやるべきことが沢山あるというフェーズだからです。

さらに、MoTではタクシー産業の課題解決を起点に、交通課題・社会課題の解決を目指していく未来像があります。
そこに向けて『GO』ができることはまだまだ沢山あり、2023年もその未来像の実現に向けてさらにプロダクトを成長させ進化させていくための計画があります。そしてその先として、(これはあくまで私見ですが)近い将来、『GO』が「タクシーアプリ」から「移動の社会インフラ」となり交通課題・社会課題を解決し、人々の生活にさらに浸透している姿になっている(そうなっていたい)と思っています。

成長するプロダクトだからこそ、気をつけなければいけないこと

上述のとおり、『GO』のプロダクトはローンチから2年間で様々な機能やサービスを提供し、顧客への価値提供と事業への収益を両立する形で進化してきました。

その一方で、プロダクト開発の現場にいる身として、プロダクトにおける様々な課題が見えてきているのも事実です。
一例として、機能が増えたことでプロダクトが複雑になってきており、
最近入社した方のキャッチアップコストが高くなっていたり、新機能を開発する際に予期せぬ形で既存の機能に影響してしまい、想定以上に開発やテスト期間が長くなってしまっていたり。

これはプロダクトの歴史が長くなればなるほど抱える避けては通れない課題だと思っており、PMだけではなく、エンジニア・デザイナー・QAなどのプロダクト開発チーム全体として、事業計画とは別の軸で改善施策を進めていく必要があると思っています。

また、機能提供やサービスインに夢中になり過ぎてしまい、ビルドトラップになっていないか? については常に気をつける必要があり、顧客価値の提供と事業収益が両立する形でプロダクトを継続して届けられているのか? をPMとして常に意識高くウォッチしておく必要があると感じています。
(ビルドトラップについては書籍「プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける」に詳しく書かれています)

ビルドトラップとは、組織がアウトカムではなくアウトプットで成功を計測しようとして、行き詰まっている状況のことです。実際に生み出された価値ではなく、機能の開発とリリースに集中してしまっている状況です。企業がユーザーにとっての本当の価値を生み出さなくなると、マーケットシェアを失って混乱します。企業は、意図が明確でしっかりしたプロダクトマネジメントのプラクティスを作り上げることで、ビルドトラップから抜け出せます。そうなれば、プロダクトマネージャーはビジネス価値と顧客価値の双方を最大化する機会を見つけられるようになります。

書籍「プロダクトマネジメント ― ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける」より引用


おわりに

仲間募集のお知らせ!

ここまで読んでいただきありがとうございました!
この記事が明日からのプロダクトマネジメントの業務に何かしらの形で活かせると思っていただけたら嬉しいです。

最後に、ミッションの実現に向けて、MoTでは仲間を募集しています!
PMを含むポジション一覧は以下からご確認いただけます。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集