4. Noise regulations / 4.1 Motivation /4.2 World Health Organization

このworking groupでは,世界中の良い/悪い事例を明らかにするため,騒音公害に関する広範かつ包括的な概要を示しています。この章で紹介する規制の数々は広範なものですが,それでも国際的,国家的,地域的,地方的なレベルで世界中に1,000を超える規制があるのでその全てを完全に網羅しているわけではありません。とはいえ傾向は明らかで,優れた実践例は他の多くの例とは一線を画しています。

4.1 Motivation

過去数十年にわたり,国際的/国家的などあらゆるレベルで騒音公害規制の近代化がかなり進められてきました。この取り組みの大半は,道路交通騒音,鉄道騒音,風力タービン騒音,労働騒音に焦点が当てられてきました。娯楽・レジャー騒音への関心は著しく低いのですが,(次のセクションで強調するように)これはこの分野における客観的な研究が著しく不足していることが主な原因です [1]。その結果レジャー騒音に関する騒音規制のほとんどは(例外もありますが)職業騒音暴露に基づいています。したがってこのworking groupではライブイベントの騒音に関する既存の規制を批判的に検討し,より適切で正確な規制を導くために必要な更なる研究を行うことに重点を置かなければなりません。

騒音公害規制によって直接影響を受ける主なグループは3つあり,イベントの観客,イベントのスタッフ/ボランティア,そして問題の野外イベント周辺の地域コミュニティのメンバーです。このレポートではこの3つのグループのうち,観客と地域コミュニティの2つに焦点を当てています。イベントのスタッフは様々な国の職業騒音規制の対象ですがボランティアは対象外です[68]。ボランティアは観客とスタッフのどちらの規制に該当すべきかという問題にも取り組む必要があります。

観客に関しては,既存の規制の一部はすでにこのレポートの2章で詳述されているためここでは繰り返しませんが,屋外でのエンターテイメントイベントにおいて観客が十分に保護されるようにするためには,この分野でなすべき重要な取り組みがあります。この点については3章でカバーしているシステム設計の側面が大いに関係しています。

地域コミュニティのメンバーに目を向けると,彼らは規制が適合していることを確認する明確な動機があります。大規模な屋外イベント会場の近隣住民は,苦情を申し立てること以外にはイベントから発せられる騒音を事実上コントロールすることはできません。そのため,近隣住民が生活の質に影響を及ぼす騒音被害を受けないよう,騒音規制や監視の手順を可能な限り効果的かつ現実的なものにする必要があります(ただし過度に制限するものではありません)。このような屋外イベントが(ビジネス目的で)人口の多い地域でますます一般的になってきているため[43],状況は非常にセンシティブになってきており,関係者全員が満足できるようにシステムの設計と運用に細心の注意を払わなければなりません。このセクションでは既存の規制を示した上で,5章ではいくつかの有益なケーススタディを含め,規制の適用に関する議論を行います。

この章の残りの部分では,現行の規制を検証し,優れた実践例を示す一方で不十分な実践の例も同様に指摘します。この章で紹介する規制の大半は,一時的/頻繁に行われる野外音楽イベントを念頭に置いて策定されたものではないことに注意する必要があります。しかしイベントを念頭に置いていない規制だとしても,イベント専用の規制がない場合は主催者が遵守しなければならないものであることが多いためこの報告書に含まれています。このレビューによって,地域近隣への許容できない騒音公害を避けるために何ができるか,何をすべきかが現在よりも明確になることが期待されます。
規制要件を満たすことがここでの焦点であるべきではなく,地域社会を満足させることこそが本当に重要なのです。

4.2 World Health Organization

注: このレビュー公開後の2022年3月にWHOから"WHO global standard for safe listening venues and events" という題目でイベント会場でのセーフリスニングのためのグローバルスタンダードが発表されています。この発表は比較的現実的な方針を示したものであると同時に,この文献ではあまり触れることの少ない"クワイエットゾーン"についても多く言及しているため,目を通していただくことをお勧めします。かといってこのレビューを読む必要がないというわけでなく,WHOのレポートとこのレビューは共通の著者が多くおり,このレビューをもとにしていると推察される箇所も多くあります。(少なくともWHOのレポートにこのレビューは参考文献として記載されています)
原本は
こちらよりダウンロードが可能です。また株式会社須山歯研さまにより和訳されたものはこちらです。
この和訳では元の記述を極力残した表現としていますので,最新の内容ではありませんがご容赦ください。

世界保健機関(WHO)は2018年,欧州地域の環境騒音ガイドライン[1]を発表しました。このガイドラインは,これまでのガイドライン,すなわちWHO地域騒音ガイドライン[2]とWHO欧州夜間騒音ガイドライン[3]をベースにしています。2018年の取り組みではすべてのガイドラインが偏りのない客観的な研究に基づいており,エビデンスに基づく推奨を与えることを特に強調した。この取り組みの一環として,道路交通騒音介入と健康への影響 [126],環境騒音と出生時の有害な影響 [127],環境騒音と迷惑 [128],環境騒音と心血管・代謝への影響 [129],環境騒音と認知 [130],環境騒音と睡眠への影響 [131],環境騒音と永続的難聴・耳鳴り [132],環境騒音と生活の質,ウェルビーイング,メンタルヘルス [133]などのテーマについて体系的なレビューが行われました。 このworling groupでは,迷惑に関するレビュー[128]と聴力損失に関するレビュー[132]が特に関連しています。他のトピックは野外ライブイベントの一時的な性質よりも,むしろ環境中の永続的な音源からの長期的音響暴露に当てはまるからです(ただしこれら2つのレビューでさえ野外イベントで遭遇する頻繁ではない騒音ではなく,永続的な音源に主に焦点を当てています)。

2018年のWHOガイドラインは4つの原則に基づいており[1]:

  1. 静かな場所を守りながら騒音への暴露を減らす

  2. 騒音暴露を減らし健康を改善するための介入を推進する

  3. 騒音源やその他環境上の健康リスクを制御するための手法を検討する

  4. 騒音暴露の変化によって影響を受ける可能性のあるコミュニティに情報を提供し関与させる。

ガイドラインでは多くの異なる測定基準が議論されており,それらはすべて異なる目的を果たすものです。ガイドラインで使用されている中心的な測定基準は,ISO 1996-1:2016 [134]に準拠した昼夜加重音圧レベル$${L_{den}}$$です。これは$${L_{Aeq,~ \mathrm{24h}}}$$を調整したもので,日中(day),夕方(evening),夜間(night)の騒音に対する感受性の違いを考慮しています。$${L_{den}}$$は以下の式を用いて計算されます。

$${L_{den} = 10\log_{10}[\frac{1}{24}(12 \cdot 10^{\frac{L_{day}}{10}} + 4 \cdot 10^{\frac{L_{evening} + 5}{10}} + 8 \cdot 10^{\frac{L_{night} + 10}{10}} )]}$$

通常,日中の時間帯は07:00~19:00または06:00~18:00と定義され,レベル制限にペナルティは課せられません。夕方は19:00~23:00または18:00~22:00の範囲と定義され,レベル限度には+5dBのペナルティが課されます。夜間は23:00~07:00または22:00~06:00の範囲と定義され,レベル制限に+10dBのペナルティが課されます。測定は騒音に最も曝される正面(屋外)で行う必要があります。

ガイドラインでは,これを発展させて屋外の測定値を屋内のレベルに関連付けるための補正値を示しています。窓が全閉,半開,全開の場合,屋内と屋外の差はそれぞれ25dB,15dB,10dBとなります。しかしWHOガイドラインでは,より正確な推定値は周波数に依存するデータを含む以前の研究でカバーされていることを指摘しています[135]。図4.1と図4.2はそれぞれ全体の$${L_{Aeq}}$$と周波数に対する室内-室外レベル関係の抜粋を示しています。図4.2では50 Hz以下のデータがないことと,周波数帯域間の結果のばらつきが大きいことに注意が必要です(低周波数では室内騒音が室外騒音よりも高いレベルにある場合がありますが,これは室内モードによるものと思われます)。


図4.1 屋内と屋外の$${L_{Aeq,~ \mathrm{10s}}}$$を比較したデータの例[135]
周波数による屋外と屋内の違いの分析。上段,
中段,下段のプロットはそれぞれ窓を開けた場合,傾けた場合,閉めた場合のデータを表している[135]。

ライブイベントの騒音モニタリングに$${L_{den}}$$を使用することにはいくつかの重要な実用的課題があります。この指標は昼,夕方,夜で異なるリミットを使用するため(定義された時間帯で即座に切り替わります),野外イベントでのパフォーマンスがこれら2つの時間帯にまたがる場合に問題が生じることが知られています。パフォーマンス中の制限値の変更は(観客の体験を損なうような)迅速なサウンドレベルのカットが要求されるため,現場や場外での騒音モニタリングに問題を生じさせます。さらに夜間や夕方の時間帯に対する+5/10 dBの罰則数値は恣意的であり,必ずしも科学的根拠に基づいたものではないことが確認されています。そのため$${L_{den}}$$の使用は環境騒音モニタリングへの適合性という点で現在専門家から疑問視されています。

2018年のWHOガイドラインは1999年のコミュニティ騒音ガイドライン[2]に取って代わるものですが,レジャー騒音に関する最新の制限値を提示するには信頼できるデータが不十分であるため,1999年のガイドラインは依然として有効であると考えられ,ライブイベントに特化したガイドラインは表4.1に示されています。

表4.1 1999年WHO地域騒音ガイドライン[2]からの地域騒音ガイドライン値

$${L_{Aeq}}$$(4時間以上) = 100dB,$${L_{A ~\mathrm{max, fast}}}$$ = 110dBという制限値は2章で示された多くの聴衆の暴露限界値に基づくものです。実際には4時間という積分時間には問題があります。4時間の間に複数のパフォーマーがステージに立ちそれぞれ異なるミックスエンジニアが担当する可能性があるからです。イベントの初期にエンジニアが規定のリミットを超えた場合,4時間のレベル測定値がリミットの$${L_{A}}$$ = 100dB以下にするためにその日の後半にエンジニアがサウンドシステムの電源を切ることが事実上要求されることになりかねません。これは明らかに不合理です。

この問題の解決策として,ライブイベントに3段階のレベルガイドラインを導入することが考えられます。第一の制限はピークレベル,第二の制限はセット間レベル(15分,長くても2,3曲をカバー),第三の制限はイベント期間全体とします。これによってエンジニアが他のエンジニアの違反行為によってペナルティを受けることなく,一日を通して合理的な調整ができるようになります。このアプローチについては5章で詳しく説明し,さらに必要な研究を指摘しています。

最後に,WHOのガイドラインに関して,2009年にWHOが発表した「ヨーロッパのための夜間騒音ガイドライン」[3]を基にした2018年の報告書にはかなりの情報が含まれています。これらのガイドラインのほぼすべて(1999年と2018年)は,道路,鉄道,その他のライブイベントに関連しない騒音に焦点を当てています。これらのガイドラインは健康への影響(聴覚障害,心血管系への影響,睡眠障害,精神障害,迷惑など)という観点からそのような騒音への長期暴露に注目しています。単発的な騒音はガイドラインで取り上げられていますが,これらの文書で取り上げられている騒音源には事実上情報が含まれていないため,ライブイベントによる騒音公害に直接関係するとは考えられません。

この場合,騒音に含まれる音楽的内容は情報とみなされます。このような様々な騒音にさらされる個人は,比較的短時間で頻度の少ない暴露による健康への悪影響は考えにくいですが,迷惑の閾値は低くなる(つまり小さい騒音でも迷惑だと感じられてしまう)可能性が高くなってしまいます。したがって対処しなければならない問題は,地元コミュニティからの苦情のリスクを減らすために迷惑を最小限に抑えることです。このトピックについては5章で詳しく説明しています。

全体としてWHOのガイドラインは正しい方向への一歩であり,規制値が客観的で公平な調査に基づいていることを保証するものです。しかし明らかなのは,レジャー騒音,特に野外ライブイベントから発生する騒音の分野では,科学的根拠に基づいた公平な知識が著しく不足しているということです。

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