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クラファン準備、庭の話、わかめしゃぶしゃぶ──書店(など)制作記#3
2025年5月、横浜・白楽にて書店(など)を開業予定です。書店(+ちょっと飲食)であり、イベントスペースであり、コワーキングスペースであり、自分の編集事務所でもあるような、小さな複合文化施設。その「制作」の道のりを、できる限り具体的に記していきます。跡地を引き継がせていただく「ブックカフェはるや」に深い感謝。2025年3月にクラウドファンディング実施予定。
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▶書店(など)制作記──横浜・白楽にて
【2025年2月1週目】
先週の「書店(など)制作記」で、「空間デザイン」についての悩みや課題感をそのまま書いたところ、とてもとてもありがたいことに、何人かの方々からアドバイスや人の紹介などのご連絡をいただき、空間デザインのパートナーになり得る可能性がある方何人かとつながることができた。ご一緒できたらめちゃくちゃ心強いなという方々ばかりで、今週から来週にかけてはその方々と丁寧に打ち合わせしながら、具体的に誰とどのような形で進めていくのかを詰めていく期間となる。ご連絡くださったみなさん、本当にありがとうございます。
一昔前には「プロセスエコノミー」なんて言葉もちょっと流行ったけれど、こうして制作プロセスや途上での悩みを赤裸々に発信していくことは、単なる宣伝や後世への蓄積だけでなく、自分のリアルタイムな悩みを直接的に解決していくことにもつながるのだなと学ぶ。もちろん、完全にステルスで準備して、お披露目の段階でいきなり完成形を見せるのが一番クールだなとは思うし、いち編集者としてはそういう欲望もないわけじゃない。ただ、とにかく今回、完全に素人として書店(など)制作を進めていくにあたっては、そういうプライドや色気はかなぐり捨て、ためらわずバックヤードを見せていくスタンスを取るのがベターだろうという結論にあらためて至る。
それから今週は、3月から開始予定のクラウドファンディングの準備にも本格的に着手しはじめた。クリエイティブ・ディレクションを手伝ってくれている輝一くんから、コンセプトを精緻化する意味でも、一回外に発信する用のテキストをまとめたほうがいいというアドバイスをもらい、それならどのみち書かなければいけないクラファン用のテキストの草稿を書いてみようと思い、手を動かしてみる。結果、ある程度クラファン用テキストの骨格になるようなものができ上がった。
書いてみて思ったのは、施設そのものの役割が多様だからこそ、プロジェクトとしての文脈もけっこう多様で、それゆえのわかりづらさがあるのではないかということ。書店振興はもちろん、まちの文化拠点づくり、横浜エリアの地域振興、編集者として生み出せる価値の開拓、そして「はるや」からの継承など、プロジェクトに乗せたい文脈がたくさんあり、何のプロジェクトなのかがわかりづらくなるのではないかと思ってしまった。もちろん主軸としては「書店」を置くのだけれど、その他にもいろんな文脈を乗せたくなってしまい、かつどれも外したくない。でも、そのままだと伝わりづらいのではないかと。
ただ、ここは輝一くんが「その多面性を活かして、いろんな角度から発信していけば、いろんな関心や問題意識を持った人が応援してくれるのでは?」というコメントをしてくれて、なるほどそういうものかもしれないという気持ちに。もはや輝一くん、クリエイティブの域を超えて経営全般のパートナー級にサポートしてくれて、本当に心強い。
というわけで、クラウドファンディング期間中は、「書店」という切り口だけではなく、さまざまな関心を持った人に届けるため、何度かちょっとしたトークイベントをやろうという話になった。(配信も行う前提で)開店前の書店を会場にすれば、そのプロセス含め面白いのではないかと。そうなると当初の予定より前倒しでWifiや配信設備の整備を進めたり、何よりイベントの企画・集客・準備などでいっそう大変になるけれど、ゆくゆくはお客さんや知り合い起点でボトムアップにイベントや催しが生まれていく場にするためにも、最初のうちは自分で積極的に仕掛けて場を温めていくことが必要だろうということで、なんとか頑張ろうと思う。
ちなみに、これはまた追ってしっかりとした文章にまとめようと思うのだけれど、こうして最初に色々と環境を整備したり、いずれは自然発生的にさまざまな催しが生まれていく場にするための下準備としてまずは自分から色々と仕掛けたりしていくプロセスを、僕は「作庭」(庭づくり)として捉えている。もちろん、実際に庭があるわけではないので、アナロジーだ。
というのも、僕が編集者としてめちゃくちゃお世話になり、この人には絶対に足を向けて寝れないという人が何人かいて、その一人に「PLANETS」編集長で評論家の宇野常寛さんという人がいる。宇野さんは『庭の話』という近刊を出したが、実は僕のこの書店(など)制作は、僕なりの『庭の話』への応答というか、そこで提示された問いに対する実践でもある。
『庭の話』の内容について書いているとそれだけで日が暮れてしまうので関心がある人はぜひ本を読んでもらえたらと思うけれど、この本を僕なりに一言でいうと、いまのプラットフォーム資本主義社会下の問題の解決につながり得る「場所」(空間)の条件について論じた本といえる。
*プラットフォーム資本主義と人間との関係はどうあるべきなのか?
ケア、民藝、パターン・ランゲージ、中動態、そして「作庭」。一見無関係なさまざまな分野の知見を総動員してプラットフォームでも、コモンズでもない「庭」と呼ばれるあらたな公共空間のモデルを構想する。『遅いインターネット』から4年、疫病と戦争を経たこの時代にもっとも切実に求められている、情報技術が失わせたものを回復するための智慧がここに。
重要なのは、これは宇野さん自身が言っているように、この本は評論家としての宇野さんの数年に一度の代表作であると同時に、編集者としての宇野さんのここ数年の活動が集約されたものでもあるという点。そしてありがたいことに、僕はここ数年、PLANETS編集部のスタッフとして、その多くの現場で宇野さんのそばで同席させていただいていた。この『庭の話』の原液とでも言うべきシーンに多数立ち会う中で、否応なく僕自身もそのエキスを吸い取るかたちになってしまい、自分でも「庭」──プラットフォーム資本主義下において、人間と人間意外の存在とのコミュニケーションを取り戻す場所──をつくってみたいという気持ちになるのは、何ら不自然なことではないだろう。
この『庭の話』はここ数年の僕の集大成的な一冊です。なので、この本について解説すると僕のこの数年の仕事が網羅できるようになります。2020年以降の『遅いインターネット』以降の情報社会論的な仕事や、都市開発についての研究会の主催(庭プロジェクト)や、『モノノメ』などの編集者としての仕事で得たものが、この本には集約されています。
もちろん多大に影響を受けているとはいえ、僕は宇野さんの"手下"や"取り巻き"ではないし、細部については考えが異なる部分だって全然あるので(そうでなかったらめちゃくちゃ不健全だと思う)、『庭の話』のコンセプトをそのまま実装していくというわけではない。しかし、自分にとっては「書店(など)制作」が宇野さんの「庭」論への応答であることは否定しようがないし、開店に向けてのさまざまな準備は「ガーデニング」のプロセスの一部として捉えている。(具体的に「庭」論をどう受け止め、どう応答していくのかという話は、長くなってしまうので、また追ってしっかりと書こうと思う)。
そんなこんなで、今週も「作庭」を進めている。今週は講談社と読売新聞による「書店振興のための共同提言」が発表されて関係者の間で議論を呼んだりしていて、もちろん僕も自分ごととしてめちゃくちゃ関心を寄せているけれども、結局はいま自分がやるべきは足元の「作庭」作業を粛々と進めていくことだという気持ちにはなっている。制度的サポートはつねに喉から手が出るほどほしいけれど。
それから今週は、もうすぐ長崎に引っ越してしまう「はるや」のお二人と、「はるや」で出会って勉強会の講師をお願いするまでになったが、同じくじきに引っ越して白楽を後にしてしまうラッパーで在野の哲学研究者の牛田悦正さんと、白楽でささやかな送別会。「はるや」ですすめられて読んでめちゃくちゃ素晴らしかった、武塙麻衣子さんの名著『酒場の君』で取り上げられていた、白楽の「角吉」という海鮮居酒屋へ。初の訪問だったが素晴らしいお店で、お刺身から唐揚げまでどれを取っても申し分なく、何より(武塙さんのエッセイでも触れられていた)名物のわかめしゃぶしゃぶは、これまで食べたわかめの中でもトップクラスの美味しさで、誇張ではなく海そのものを食べているような感覚。これまで地元にいながら行ったことがなかった自分を恥じたし、おそらくそんな店がまだまだたくさん眠っているはずだ。