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【アラサーにほん昔噺】商社マンと付き合ってるタワマン住みゆるふわ契約社員が入社した
いまは昔、最愛の彼氏に振られ30手前で仕事を真面目にやらないと人生が危うくなる女ありけり。
朝8時に出勤し男に混じりて企画書作りつつ、よろずのクライアントに提案しけり。名をば以下略。
アラサー女は付き合っていたアラサー男と別れると、悲しみのあまり岩(家)に閉じこもってしまいました。そこから女は酒を飲み、眠り、酒を飲み、を繰り返しました。太陽がのぼり、太陽が沈みました。
アラサー女もしごとをせねばと思い、村(会社)に出ることにしました。
三日ほどあまり食事をしていなかったアラサー女の肌は荒れ、痩せていました。いつものような元気はありません。それをあわれに思った村長(部長)はいいます。
「お前の年頃で焦る必要はない。わたしも神の許しのない恋(事実婚)を続けているが、年頃や相性の良い男はいくらでも出会う機会がある」
「ですが村長、あれはわたしにとって一生に一度の恋だったのです」
「痛みが癒えるまでには時間がかかるだろう、しごとに打ち込み、推しを見つけなさい」
村長は韓国語堪能なほうの火力強めのKPOPオタクでした。
アラサー女が最愛の男と別れた話は村中のものが知ることとなりました。村長と同じように女をあわれと思った村人は、男女が飲み食いをしながら一生に一度の恋を探す店に連れて行くこともありました。これを相席屋といいました。
ある島国の東にある赤坂という市場では、広く品物を売り込むための術を考える者、商いを行うものの相談役としてはたらくコンサルタントという人間がおりました。
コンサルタントは腕につけた時計をぎらつかせながら、その夜をともに飲み過ごしてくれるような女を探しています。男たちはみな浮かれており、Tinderで出会った女との一夜の自慢や失敗談に必死です。
アラサー女は男が頼んでくれた薄い味のビールを飲み、酔いました。しかしその酔いも目の前の女同士の友情くらいペラッペラの倫理観の男を魅力的に見せるにはあまりに弱すぎました。
村人の苦労の甲斐なく、アラサー女はその日も別れた男の悲しみが癒えないまま家路についたのでした。
その数日後のことです。
アラサー女の村に1人の女が契約社員としてやってきました。村長はその女を歓迎しようと宴を開きました。
女は自己紹介で言いました。
「ふだんは湾岸のタワマンに彼氏と住んでるんですけど、彼氏は商社マンでこれから海外転勤で会えなくなるかもしれないんですよね」
女は思いました。「お前それ絶対すぐ専業主婦になるからって会社辞めるやつやん」
彼氏がいない、未来も見えないアラサー女には仕事しかありません。自分よりも人生の選択肢にめぐまれている女が素直に羨ましく思いました。
世の中は不平等です。また、理不尽です。
出会いは人それぞれ、いつ良縁巡り合うかは神のみぞ知る。羨ましく恨めしく思ったところでいいことも悪いこともないので、諦めてその日も酔うことにしました。
「○○さんっていま彼氏いるんですか?」
新人の女が言いました。
アラサー女は心のシャッターを下ろしました。
代わりに村長が返事をしてくれます。
「この者は最近男とわかれてしまったのだ」
「あ、じゃあわたしおすすめの人いるんですよ!」
アラサー女は下ろした心のシャッターを少しだけ上げました。
「バツイチで子持ちで3個上なんですけど」
心のシャッターが二度と開くことはありませんでした。
シベリアよりも張り詰めた空気がそこにはありました。誰も寒いので口を開かず様子を見ています。耐えかねた村長がいいました。
「いやまぁさすがにそれはこの子には紹介できないわ」
村長(上司)が吐き捨てるように言い、ビールを飲み切ったところでこの話はここで終わりです。
幸せな人間は、幸せな人間の気持ちがわかりません。彼氏と別れたから男を紹介すれば喜んでくれるんだ!くらいの理解度しかないのです。
上司も恋が多かったそうで、同じく失恋や結婚に関する痛い感情があった様子でした。同じ痛みのある人のフォローはありがたい。
自分も知らず知らず、誰かを傷つける瞬間があるのかもしれませんが、私は少なくとも、アラサー限界独身女には恋愛の話をふらないことが一番の優しさなのだと思っています。
幸せな人間が幸せアピールをするなとは言いませんが、相手にその幸せを前提に「あなたは持ってますか?」と聞くのはやはり野暮なんでしょう。
いや、でも私結婚したけど人に異性紹介するにしてもバツイチ子持ちは初手でアサインしないな…
おわり