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真・金管楽器の発音メカニズム~タイプごとに徹底解説~
これまで金管楽器と【息の音】に関する記事を書いてきました。
記事の内容に関して実際に色々な人と意見交換をしていく中で、
・息の音と楽器から出る音に関連があるのは間違いなさそうだ
・ただし、息の音をどうやって出しているのかは人によっていくつかのタイプに分かれるようだ
ということがわかりました。
今回は、【それぞれのタイプでどのように息の音を出しているのか】【新しく気づいた重要な発見】に関して解説していきます。
~~~~~~~2024/11/30 補足~~~~~~~
その後の研究で判明した、息の音はエッジトーン(のようなもの)ではないかという仮説について下記の記事で解説しています。
こちらの記事で【息の音は何なのか】に関してより詳細な解説をしているので是非ご覧ください。
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1.どうやって息の音が出ているのか
まずは、息の音が具体的にどのような物理現象なのかを調べてみました。
その過程で、
・気柱共鳴
・ヘルムホルツ共鳴
・カルマン渦(エオルス音)
・エッジトーン
などである可能性について調査してみましたが、最終的に【笛鳴り現象】
ではないかという結論に達しました。
2.笛鳴り現象とは?
笛鳴り現象とは、空気が狭い空間を通り抜ける時に圧縮されて乱流が発生して発生する音らしいです。(古い建物で窓やドアに隙間があって隙間風がビュービュー吹いている時の音)
もしかすると説明としては間違っているかもしれませんが、楽器を吹く時の状態に置き換えると
・肺から出た空気が口からでるまでの空間のどこかで
・それまでよりも狭い空間を通ること
によって乱流が発生して音が発生していると考えられます。
ここで大事なのは【体の中のどの部分を使って狭い空間を作るのか】という点です。
3.笛鳴り現象はきっかけに過ぎない
非常に重要なことなので先に説明しておきますが、【笛鳴り現象はあくまで唇が振動するためのきっかけに過ぎない】ので、一度唇が振動を始めたら(楽器から音が出たら)【笛鳴り現象が発生している状態を維持する必要はない】ということを覚えておいてください。
4.タンギングには笛鳴り現象を発生させる役割もあった?
こちらも非常に重要なことなので先に説明しておきます。
タンギングというのは一般的には【息を出したり止めたりする】ために行う行為とされています。
もちろんこれはその通りなのですが、人によってはタンギングをするタイミングで【舌先によって笛鳴り現象を発生させている】可能性があります。
詳細は後で説明しますが、【舌先によって笛鳴り現象を発生させる】こと自体は可能です。ただし、笛鳴り現象を発生させる方法をこれしか知らない場合【タンギングをしないで音の高さを変えるリップスラーや離れた音への跳躍】が難しくなります。
この仮説が正しいとすると、
・初心者が【リップスラー】や【タンギングをしないスラーでの跳躍】が苦手な理由は【笛鳴り現象を発生させる方法が舌先しかない】から
・リップスラーや跳躍が得意な人は、長年の練習によって【タンギング以外で笛鳴り現象を発生する方法】を体で覚えているから
と説明することができます。
5.笛鳴り現象を発生させる方法
では、具体的に体の中のどの部分を使って笛鳴り現象を発生させているのかについて解説していきます。
先に結論を言うと、【笛鳴り現象を発生させることが可能な場所は複数】あります。
金管楽器をある程度の長い年月続けている人は
・プロの奏者でも人によって息の出し方の説明方法が異なる
・人によっては真逆のことを言っている場合もある
・プロの奏者にレッスンを受けてアドバイスをもらったが、その通りにやってみてもうまくいかない
などの経験をしたことがあると思います。
これは、楽器から出ている音の元になる【息の音=笛鳴り現象】を発生させる方法が複数存在することが原因と考えています。
パターン1:舌先=「ツ」の発音に近い方法
口の中、喉を可能な限り広げた状態で「ツ」の発音でタンギングをしてみてください。
舌が離れる瞬間=空気が流れ始める瞬間に息の【ツー】という音が発生すると思います。
この時、空気をせき止めていた舌先が離れる瞬間に笛鳴り現象が発生していると考えられます。
この方法による笛鳴り現象の発生は【タンギングをする際にほぼ確実に発生】するため、主に金管楽器初心者はこの方法で発生する笛鳴り現象をトリガーとして唇を振動させている可能性が高いと思っています。
【補足】
ここで、「タンギングの時に一瞬なるだけの笛鳴り現象で唇が振動するの?」という疑問が湧くかもしれません。
大項目の3で解説したように、笛鳴り現象はあくまでも【唇が振動するためのきっかけ】に過ぎないため、一瞬でも十分なのです。
ただし、この方法は【音の高さをコントロールするのが難しい】ため、この方法でしか笛鳴り現象が出せない場合、特に高い音を出すのが非常に困難となります。(B♭管の楽器の場合チューニングB♭あたりが限界)
金管楽器初心者がぶつかる壁として
・チューニングB♭までは出せるようになったがそこから上の音がなかなか出せるようにならない
・倍音をまたぐスラーがうまくいかない(タンギングをすればできる)
というような現象がよく見られるのは【タンギング時にしか笛鳴り現象を発生させられないから】と考えるとつじつまが合います。
【補足】
誤解が発生しやすいところなので念のため解説しておきますが、このタンギング時の笛鳴り現象というのはほぼ確実に発生してしまいますが、それによって必ず【唇の振動が発生するトリガーになる】わけではありません。
唇の振動が発生するトリガーになるほど強い笛鳴り現象を発生させるには、簡単に言うと【強めのタンギング(いわゆる汚いタンギング)】をする必要があるため、初心者を卒業する頃にはこの方法による笛鳴り現象の発生は無視できる程度にるような奏法を身に着けていると考えています。
パターン2:口の真ん中(舌の腹のあたり)=「ス」の発音に近い方法
口の奥、喉を可能な限り広げた状態で声帯から声を出さずにヒソヒソ話をするときの声の出し方で「ス」の音をを出してみてください。
舌の腹のあたりが口の中の上部に近づくことで【狭い空間ができて】笛鳴り現象が発生していると考えられます。
笛鳴り現象を発生させるために舌を口の上部に近づける必要があるため、後述のパターン3と比べると【音域が変えるために舌を移動する】頻度が多くなります。そのため、【高い音と低い音で舌の位置や口の中の広さが変わる】と感じている人が多いと思います。
パターン3:舌の根本=「ウ」の発音に近い方法
口の中を可能な限り広げた状態で声帯から声を出さずにヒソヒソ話をするときの声の出し方で「ウ」の音を出してみてください。
舌の根本のあたり、口の奥が閉じることで【狭い空間ができて】笛鳴り現象が発生していると考えられます。
笛鳴り現象の発生源が口の奥であるため、【音域が変わる際に口の中の広さを変えているという認識が薄い】傾向にあります。(口の中を広く/狭くというより形状によって音の高さを変えいている印象)
ただし、パターン3で笛鳴り現象発生しているにも関わらず、【高い音を吹くときは口の中を狭くする】という情報を信じて(本当は必要ないにも関わらず)口の中を狭くしてしまっている場合もあります(少し前までの私がそうでした)。
パターン4:喉=「ホ」の発音に近い方法
口の中を可能な限り広げた状態で声帯から声を出さずにヒソヒソ話をするときの声の出し方で「ホ」の音を出してみてください。
喉の奥が閉じることで【狭い空間ができて】笛鳴り現象が発生していると考えられます
こちらは前述のパターン2、パターン3とは違い、【ペダルトーンなどの超低音域】に特化したパターンと考えています。
6.どのパターンで音を出しているか
4つのパターンについて解説しましたが、
・パターン1は初心者の時期限定
・パターン4は超低音域限定
ということから、最終的にはパターン2か3のどちらかまたは2と3の混合タイプにわかれることになると思います。
そのうちのどちらがその人に向いているのかは
・体の作り
・歯並び
・骨格
などによって変わる可能性がありますが、一番影響が大きいのは【アンブシュア】だと考えています。
主にパターン2が向いている人
唇を振動させる際に唇の内側を多く使うタイプのアンブシュアの人に多く、ホルンのように上吹き・下吹きと別れる場合低音域が得意な人に多い印象です。
主にパターン3が向いている人
唇を振動させる際に唇の外側を多く使う(唇を巻き気味の)アンブシュアの人に多く、ハイトーンが得意な人に多い印象です。
7.唇が振動した後も笛鳴り現象が起きる状態を維持する必要はない
これは非常に重要なことなので、是非実際に試してみてほしいです。
特に【今よりもっと響く豊かな音で吹きたい】と思っている人には効果がある可能性が高いです。
まずは、
①いつも通りに音を出す
②音が出た瞬間、アンブシュアを維持しつつ口の中や喉を広げる
というのを試してみてください。
この時、以下の点を注意してください。
・①→②を瞬時に行う
・口の中や喉を無理に広げようとしてアンブシュアが崩れないように
8.具体的にどうやって音の高さを変えているか
こちらに関しては現在詳細を調査中ですが、パターン2の人とパターン3の人で【どのようなことを意識しているのか】が大きく異なる可能性が高いです。
前述の【プロの人でも言っていることが違う】というのは、このあたりにも原因があるのではないかと思っています。
如何でしたでしょうか。
今回は、息の音に関して更に詳しく解説してみました。
パターン2とパターン3で、具体的にどのような方法で音の高さを変えているのかについては、情報がまとまり次第記事にする予定です。