安い?高い?「値段は関係ない」と言われて反省したこと。
こんにちは。
京都で珠数職人やっています。
珠数をつくって売っている私が、こんなことを言ってはいけないのかもしれないけれど、墓じまい、仏壇じまい、寺ばなれなんて言葉をよく耳にするようになった昨今、珠数にお金をかける人っていないと思っている。
だから、お客様が店に珠数をお買い求めに来られると、ついつい安いものから紹介してしまう…これが悪いクセになっているのかもしれない、と思うことがあった。
だって、いきなり「高っ!」って絶句されるのもイヤだし、高いもの売りつけられているとも思われたくない。
仏壇にいたっては尚更。
商店街の中に極極小さな会社があるため、ご近所さんがお線香やらちょっとした仏具やらを買いに来てくれる。そんな感じで、そもそも珠数屋だったはずが、気づけば極極小さな仏具屋になっていた。
なにせ店が狭いので、お仏壇までは置けない。
でも、たまに尋ねられることもあるので、一応、取り扱えるようにはしている。
久しぶりに、仏壇の問い合わせがあった。
普段は、まず予算から聞いてみる。
正直、ピンキリなので。
でも、予算を聞いて具体的な数字が出てくる人は、たぶんネットで買っていると思う。
店に来る殆どの人は、いきなり数字は出てこない。
まずは具足(仏壇に供える仏具一式)付きで、10万くらいにおさまるようにそろえて見せてみる。まぁ主観的な言い方になるけれど、おそらく他所の人がお線香をあげに来てくれた時に、一般的にきちんとしているなと思われるレベル(今時の家具調の場合)。
これでも「結構かかりますね」と言われてしまうことが多いので、その場合には仏壇と具足のレベルをもう一段下げて5万くらいを提案してみる。
最低限きちんとしているなと思われるレベル。
それでも高いと言われると、仏壇ではない別なスタイルを提案して、どこまでのものをご希望かを聞いてみる。だいたい、いつもこんな感じ。
私にとっては、安くても高くても関係ない。
そもそも、皆こういうものに興味ないよね…と思ってしまっているから、安い高いよりも関心を持ってもらいたいという気持ちの方が強い。お葬式、お墓、お仏壇、こういったものは故人のためではなく、残された人たちのためにあると私は思っている。
故人を想い、残された人たちが心穏やかになれるのなら、安くても高くても気に入ったものを選んでほしい。
そのお手伝いをするのが、私の仕事。
そう思っていたはずが・・・
今回のお客様も予算を聞くと、ざっくりとした数字も出てこなかった。
購入を検討しているというよりは先ずは聞いてみた感じかなと思い、いつものように10万くらいのものを見せてみる。
あまり反応がない…。
「具足を替えればもう少し抑えられますよ。安いものではないし、ゆっくり考えてご予算決められたら…」と言うと、「値段は関係ない」と。
この言葉、前にも何度か言われたことがあった。
でも今までのお客様は、別に高価なものを探しているわけではなかったし、結局、一般的なものに落ち着いていた。
今回のお客様も、必ずしも高価なものを探しているわけではないのかもしれないし、40~50万くらいのもの見せて引かれても…だからと言って、このまま安価なものを見せ続けるのも失礼な気がする…。
ご要望をうかがうと
「仏壇っぽくなくて部屋に合っているもの」と言われたので、
「ゆっくりカタログを眺めてもらって、気に入るものを選んでいただいたら…」と提案してみるが、パッとしない。
すると、
「部屋を見に来てくれない?部屋に合ったものを、あなたが選んで」と。
こんなこと初めて言われたので戸惑う。
何をどうしたら良いのか分からなかったけれど、本当に気に入るものを探そうとしてくれている気がして、私も付き合ってみたくなった。
そのまま、お宅訪問。
「5月に主人が亡くなり、今は3階建ての一人で住むには大きすぎるお家に、一人でいるから寂しくて仕方がない。もう3ヵ月経つけれど、寂しくて、悲しくて、御位牌を見るだけでも涙が出てくる。だから、とにかく仏壇っぽくなくて、この洋風の家に合う明るい雰囲気のものがいい。主人は、とても明るくて楽しい人だったから」と。
「安くても高くても気に入ったものを選んでほしい」というのは決して嘘ではない。親が買い物をしている時に、幼稚園児くらいの子が「これ欲しい!」と600円くらいの珠数を親にねだる姿を見て、嬉しくなってオマケしてしまうこともあるくらいに。
それなのに、「値段は関係ない」と本気で言っている人を目の前に、数字ばかり考えていた自分が恥ずかしくなった。
とても失礼な対応をしてしまっていたのではないかと反省する。
後日、カタログとにらめっこしたり、メーカーに電話したりを繰り返しながら、タイプの違うものをいくつかピックアップし、その中でも私のオススメを一つ決めて再び訪問。
最初に訪問した時とは異なり、お客様は少し嬉しそうだった。
私も嬉しい。