見出し画像

(目次編)【タイ】コメ担保融資制度の政治利用の経緯と今後の行方

 2014年5月、クーデターによりタイのインラック政権が崩壊したが、軍政への移行が「良識派」から支持された背景の 1 つに、タクシン派政権が推進してきたコメ担保融資制度の政治利用がある。この制度は、本来、農家の所得を向上させるための農業補助政策の一つであったが、極度な財政負担を国庫に強いることとなり、また、制度運用過程のあちこちで頻発する大規模な不正の発覚も相まって、政権崩壊の大きな要因となった。

 本稿は、同制度の導入から政治利用されるまでの一連の流れを把握することを目的とし、全5回に分けて解説する。概要把握を目的とするには詳細過ぎる嫌いがあるため、各回の冒頭で結論を述べる。

各回の内容は、以下の通りである。

第1回:コメ担保融資制度とは何か?
そもそもコメ担保融資制度とはどのようなもので、本来、何を目的として実施されてきたものなのか、その経緯と仕組みについて説明する。

第2回:タイのコメの流通の仕組み
コメ担保融資制度を理解する上での前提知識としてタイのコメの流通の仕組みについて触れる。

第3回:コメ担保融資制度の変質とその功罪
コメに関するタイの農業補助政策が、いつごろからタクシン派による政治利用に繋がって来たのか、その変質の経緯を振り返るとともに、その功罪を検証する。

第4回:コメ担保融資制度を巡る政治的扱い
今日現在、軍政下において、同制度がタイにおいて政治的にどのような扱いを受けているのかを2014年5月のクーデター前後から現在までの報道資料等をベースに明らかにする。

第5回:タイの農業政策の今後
上述の過去の政策の経緯を踏まえ、国際商品市場相場の影響も考慮の上、他国の農業政策とも比較しながら、今後のタイの農業政策の方向性について考察する。


なお、制度の名称は英語では “Thai rice pledging scheme”と呼ばれ、融資自体は、”rice pledging loan”等と表現されることが多い。日本語では「籾担保融資制度」「米籾担保融資制度」「米の担保融資制度」「コメ担保による融資制度」等バリエーションがある。タイでの日本語報道を見ると、米がアメリカと紛らわしいことから「コメ担保融資制度」でほぼ統一されている。

(第1回につづく)

ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 100