【タイ】繰越し欠損金の扱いを巡る法人税算定金額のタイ政府内見解相違問題について

本件、既に決着済みであるが、当事者以外は関心が低く、また関係者でないと理解しずらい点もあったため、報道等で公開されている情報をベースに振り返りながら、何が本質的な問題であったのか考察したい。


1. 本件の背景

タイの投資委員会(BOI)から投資奨励を受けた事業で、税恩典として当該事業から生じた所得にかかる法人税が免除されるもの(以下「BOIプロジェクト」という)については、他の所得(法人税の課税対象となるもの)と区分して損益計算することが求められているが、BOIの投資奨励は、そのプロジェクト(製造ライン)単位で付与されるため、多くの会社で、複数のBOIプロジェクトを有している。

また、1社でBOIプロジェクトを複数有している場合、BOIプロジェクト毎に損益を区分して計算することが求められているが、利益が出ているBOIプロジェクトと損失を出しているBOIプロジェクトが混在した場合に、具体的にどのように法人税を計算すべきか法令上明確に定められておらず、投資を奨励したいBOIと税収を確保したい歳入局の間で、対応に齟齬が生まれていた。


2.争点と経緯

争点になったのは、過年度の繰越欠損金の扱いである。

まず、歳入局は2007年10月に複数のBOIプロジェクト間の損益を通算すべきとの見解をルーリングNo. Kor Khor 0706 (Kor Mor.02) /3279として公布。

一方、BOIは、歳入法等に優先して適用される投資奨励法の第31条を根拠に、BOIプロジェクトから生じた損失は、その事業年度のBOIプロジェクト以外の所得と相殺し、相殺しきれない損失は、その法人税の免税期間終了日から更に5年間、繰越欠損金として使用できるとした(投資奨励法は、投資奨励法第3条の規定により、歳入法等に優先適用される)。

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