マガジンのカバー画像

タイの政治経済について難しいことを書いています。

33
素人によるタイの政治経済についてのまとめです。自分の備忘目的にて、有料マガジン設定しておりますが全くオススメしません。
¥1,500
運営しているクリエイター

#タイ

【タイ】軍政による強権発動の立法化でEUの勧告受入れへ

今年の4月30日、タイのウィサヌ副首相が暫定憲法第44条に基づき軍政が発動した強権措置を停止する一方で一部を立法化する方針であることを明らかにした。今年3月24日の総選挙結果に基づき民政移管を実現するには、同条に基づく強権発動措置は取り消しておく必要があるからである。

暫定憲法は、2014年5月のクーデター後、軍政自身が制定したものである。同憲法第44条の趣旨は、国の安全保障を脅かす恐れがあると

もっとみる
タイでの2019年の総選挙について

タイでの2019年の総選挙について

今年3月24日に行われたタイの総選挙は、2014年5月のクーデター直前に行われた2014年2月2日以来、約5年ぶりに実施された。(尚、2014年2月の総選挙は、司法裁判所によって無効とされたため、8年振りの総選挙とする見方もある)

3日間掛けて挙行されたタイ新国王の戴冠式が5月6日に無事完了した翌日、総選挙実施日から1か月以上経過した5月7日~8日に、ようやく「公式」の選挙結果が公表された(但し

もっとみる

タイの個人情報保護法とサイバーセキュリティ法について

世界的に個人情報保護に関する法律と、サイバーセキュリティ強化に関する法律の整備が進んでいるが、タイでも動きがあり、以下の通り最新状況をまとめた。

もっとみる
ミャンマーでのガス田開発とタイ向けパイプライン

ミャンマーでのガス田開発とタイ向けパイプライン

前回ご説明したようにタイとラオスとは電力線グリッドで繋がっているが、一方でミャンマーとタイはガス・パイプラインで繋がっているのをご存知だろうか?

以前、タイとミャンマーの国境貿易に関する記事においても触れたが、タイは1998年以降、アンダマン海に位置するガス田からパイプラインを通じてミャンマー産の天然ガスを輸入しており、近年はタイにおけるガス需要の15~20%を占めている。

(出典:BP公表資

もっとみる
ラオスにおける電源開発とタイの関わり

ラオスにおける電源開発とタイの関わり

前回からかなり間が空いてしまいましたが、今回は「タイのエネルギー事情について」の連載第3回。過去の記事をご覧頂ける方は、目次はこちらとなります。

* * * * *

タイの隣国ラオスは「東南アジアのバッテリー」とも称されることがあるが、その主たる電力源はメコン川水系の水力発電である。タイも東北地方はメコン川水系に属するが、首都バンコクからタイ北部にかけてはチャオプラヤー川水系となる。メコン川は

もっとみる
タイ国内の石炭火力発電に対するアレルギーについて

タイ国内の石炭火力発電に対するアレルギーについて

一度染みついてしまった認識を改めるというのは難しい。タイの場合、過去に深刻な公害をもたらしてしまった石炭火力発電所がそれに当たる。

タイ北部メーモの発電所(โรงไฟฟ้าแม่เมาะ)は、タイ国内産で露天掘りされた安価な褐炭(イグナイト)を使う火力発電所だが、脱硫装置を付けることなく稼働し、周辺住民に深刻な健康被害をもたらしたことで、石炭火力発電所=公害の元凶と見做されるようになった。

もっとみる
タイの電源開発計画(PDP)

タイの電源開発計画(PDP)

タイのエネルギー省は 昨年(2017年)5月に、電源開発計画(PDP、Power Devlopment Plan)を見直すと宣言し、関係機関と共同で新たな計画を作成すると発表した。

その理由・背景をご存知だろうか?

現在、公表されているタイ電源開発計画は、2015年版のPDPで、対象期間は2015~2036年。今後20年以内に計5,746万kW分の発電所を新設又は増設する一方、電源構成を201

もっとみる
【目次編】タイのエネルギー事情について

【目次編】タイのエネルギー事情について

一国の経済発展及び経済規模は、持続的に利用可能なエネルギー源の制約を受けるため、エネルギー安全保障は、国家の経済発展計画の根幹を成すものと言っても過言ではない。

また、本来、一国のエネルギー安全保障は、当該国の政府当局が考えるべき専権事項であり、外国人がとやかくいう話ではない。しかしながら、国際社会において、ある国の置かれた状況や今後の可能性を把握しようとした場合、エネルギー安全保障の観点は、外

もっとみる
【タイ】東部経済回廊(EEC)開発について

【タイ】東部経済回廊(EEC)開発について

タイが次々と打ち出す投資奨励策の詳細に対し、既にタイに進出済みで、追加投資を検討している日系企業の関心は高いが、一般的には日本のタイに対する認識度は20年前のままで、今タイがどのようなステージにいて、何に悩んでいるのかついての関心は高いとは言えない。よって、日本経済新聞での取り上げ方も、バンコクポストなどの現地英字誌での取り上げ方に比べると、盛り上がりに欠ける内容となっている上に、誤解され勝ちな用

もっとみる
カンボジアでの反タイ暴動

カンボジアでの反タイ暴動

(前回はこちら。目次相当の導入部はこちら)

1.2003年の暴動

2003年1月23日、カンボジアのメディアが、タイの有名女優が出演したテレビ番組で「アンコールワット」をタイに返還すべきと侮辱したとの噂が流されたことに端を発し、フン・セン首相も「アンコールワットを盗もうとする『泥棒スター』だ」と批判する発言をしたことから、カンボジア国民の潜在的な嫌タイ感情に火を着けた。

1月29日には、約3

もっとみる
タイのプレアビヒア占拠と撤兵

タイのプレアビヒア占拠と撤兵

(前回はこちら。目次相当の導入部はこちら)

タイにとっての「失地」がカンボジアに帰属するという現状は、タイが国連加盟するための代償であったと認識されている。すなわち、連合国側の理論でモノゴトが決まるという新しい現実社会に適合する為の踏み絵でもあった。

しかし、ここでタイにとって予期していないことが起きた。カンボジアによるプレアビヒア寺院の領有権の主張である。

1954年のカンボジアのフランス

もっとみる
タイから見た領土の喪失と一時的な失地回復

タイから見た領土の喪失と一時的な失地回復

(前回はこちら。目次相当の導入部はこちら)

欧米列強が進出して来る前までは、タイ(シャム)は、カンボジアの宗主国との認識の下で自国の勢力範囲とみなしてきた。しかし、19世紀後半にカンボジアがフランスの保護国となると、フランスからの圧力を前に、暫時、領土を割譲せざるを得なくなった。以下の「タイの領域喪失」図は、18世紀から20世紀初頭にかけて、英仏の圧力に応じて暫時領土を割譲していった領土の変遷図

もっとみる
プレアビヒア領有権を巡る国際司法裁判所の判決

プレアビヒア領有権を巡る国際司法裁判所の判決

(前回はこちら。目次相当の導入部はこちら)

プレアビヒアの領有権問題は、1954年のカンボジアのフランスからの正式な独立を機に幕を開ける。1959年にカンボジアが国際司法裁判所に提訴し、1962年6月15日に領有権はカンボジア側にあるとする判決結果が出されている。

当時のタイのサリット首相は、タイ国民に向けて、裁判には間違いなく勝利すると語っていたこともあり、判決を聞いてタイ国民は激怒。学生を

もっとみる
カンボジアから見た領土認識

カンボジアから見た領土認識

(前回はこちら。目次相当の導入部はこちら)

1.クメール帝国の栄光

以下は、11世紀から14世紀初頭にかけて栄えたクメール帝国の最大版図(13世紀初頭前後)の説明図である。ただし版図は、境界線も曖昧であり、「影響力がこんなに凄い時もあった」という過去の栄光の投影である。

奇しくも15世紀後半に最盛期を迎えたタイ(アユタヤ朝)の最大版図とほぼ重なる。

誤解してはいけないのは、現代のような領域

もっとみる