#004 まほうのことば
今日はなおちゃんのようちえんの入園式。
となりのおねえさんがきていたのと同じ、あこがれの赤いネクタイのついたこん色のせいふくとスカート。同じ色のベレーぼう。ま新しいせいふくはとってもかっこよくて、なおちゃんはむねがおどります。
「まあ、なおちゃん入園おめでとう」
となりのおばあちゃんもにこにこして、おいわいをいってくれました。
なおちゃんは、お母さんの手をひっぱって、ようちえんにいそぎました。ようちえんの桜の木はまんかいで、花びらがひらひらまっています。
ようちえんの大きな式場には、せいふくのお友だちとお母さんがいっぱい。お友だちはどんどんまえにならんでいます。
「さあ、お友だちだけまえにならんでね」
きれいなくろいふくをきた先生が、なおちゃんのせなかをおしました。
「いや、いや。お母さんといっしょ」
ふあんそうななおちゃんは、お母さんの手をにぎったままはなせません。
そして目がうるうるしてきました。もうお友だちはみんなまえにすわっています。
「もうようちえんだから、一人でまえのせきにいかなくてはいけないのよ」
お母さんがいっしょうけんめいなおちゃんに、いいきかせています。
なおちゃんの目からとうとうなみだがつつーっとながれだしました。
あわてて先生がきて、なおちゃんの手をつないでまえにつれていきました。なおちゃんは式のあいだじゅうシクシクないていました。 お母さんもしんぱいそうにみています。
式がおわって、教室にはいりました。
「大山もも子です。よろしくね」
かみの長いやさしそうな女の先生。
なおちゃんはなきやみましたが、ふあんそうなかおですわっています。
もも子先生に名前をよばれて、ほんとに小さい声で、
「はい」
とへんじをしましたが、
「きこえないよ」
男の子にいわれて、顔をまっかに下を向いてだまってしまいました。
帰りはお母さんといっしょに、手をつなぐとやっと元気になりました。
次の朝です。
ようちえんの入り口まできたなおちゃんは、お母さんと別れるのがつらくなって、手をはなすことができなくなりました。
「いやいや、お母さんといる」
お母さんはこまってしまいました。
「なおちゃん、もうようちえんせいだから、一人でいかなくちゃね」
なおちゃんが、グズグズなきはじめたとき、
もも子先生がむかえにきてくれました。
先生は、なおちゃんをしっかりだきしめて、小さい声で何かいいました。
なおちゃんは、くちもとをひきしめて、なきたいのをがまんすると、先生と手をつないで、ようちえんにはいっていきました。
お母さんはほっとして、先生にあたまをさげてかえって行きました。
その次の朝、ようちえんの門をはいると、なおちゃんは、お母さんの手をはなすことができなくなりました。
きのうも男の子が、
「だまりんぼ」といったのを思い出したのです。
「やだやだ、お母さんといる」
なきだしたとき、もも子先生が、気がついてむかえにきてくれました。
そしてきのうのように、なおちゃんをしっかりだきしめて、何かいいました。
なおちゃんは、ちょっとうなづいて、もも子先生とようちえんにはいっていきました。
「なおちゃんがんばってきたね」
といってくれました。
また春が来て、なおちゃんは、年中さんになりました。
入園式の次の日、門をはいると、まあたらしいせいふくの年小さんたちが、あちこちでないています。
なおちゃんは思わず、てつぼうの横にいた小さい女の子をだっこしていました。「だいじょうぶよ。だいじょうぶよ」
また、そばにいたないている女の子のあたまをなでなでしてこういいました。
「だいじょうぶよ。だいじょうぶよ」
なおちゃんが小さい女の子ににっこりすると、女の子はなみだをふきました。
「いっしょにあそぼ」
「うん」
小さい女の子の手をひいたなおちゃんは、いっしょに園庭にかけていきました。
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