職場に来なくなった、彼女に思いを馳せて
彼女と一緒に仕事をしたことはない。
ただ、数年前彼女が異動して抜けた穴に、新規採用の私が充てられた。そんな縁から、彼女と私で共通する知り合いは複数人いる。
不思議な繋がりがあった。
それから年月が流れ、数箇所の異動先を経てこの春、私のいる部署にやってきた彼女。
彼女は突然、職場に来なくなった。
春。異動の季節は、私の所属部署の繁忙期と重なる。
今の部署には、ペアを組んで仕事を進める場面が度々ある。ただ業務分担上、私には彼女とペアを組む場面がほぼなかった。
部署にはもっと年次の若い異動者がおり、私はその職員とペアを組みながらあれこれ仕事を教えていた。
一方、彼女とペアを組んで仕事をしていた職員は、明らかに自分の仕事でキャパオーバーを起こし、彼女のことまで手が回っていないように思えた。
私は私で自分自身の業務と前述した若手異動者の教育に加え、係に在籍する他の職員の仕事をチェックする、そんな機会が増えた。
産休育休を挟んで在籍年数だけは立派になった私に、今年から与えられた役割だ。
可能なら残業なんてしたくないけれど、そうも言っていられなかった。時には休日出勤もしながら、山積みの業務を回すことに必死だった。
いや、私だけではない。皆が皆、自分の役割をこなすことで、いっぱいいっぱいだった。
彼女が職場から姿を消したのは、そんな繁忙期の真っ只中だった。
こんな忙しい時に休みやがって。
口に出さなくとも、内心そう思う職員も中にはいたかもしれない。
けれども私にはどうしてもそう思えなかった。
異動したての彼女のフォローは、できていただろうか。
彼女と仕事を組む相手がもし自分だったら、果たして防ぐことができたのだろうか。(いや、どうだろうか。)
彼女は何を考えていたのだろうか。
繁忙期が落ち着きつつある中、私は答えの出ない問いを繰り返している。
彼女には明確に、やりたい仕事があったらしい。
しかしながらそれを考えると、今回の異動先の仕事はきっと全くの希望外。
少なくともここは、市民向けのイベントを企画・実行するような「楽しそうな」部署ではない。
地味な裏方仕事。バックオフィス。毎日がデスクワーク。
ざっくり言えばこんな感じ。
ただ私は結構、ここでの仕事は悪くないと思っている。多分、あまりに前職が辛すぎたからなんだろうけど。
彼女はそんなにここでの仕事が嫌だったのか。そう思うと、やや寂しい気持ちになることも事実だ。
一応、私のストレングスファインダー上位には、親密性(3位)とか共感性(8位)とか、人間関係構築力に関連した資質が並んではいる。
だからかもしれない、必要以上に彼女のことを考えてしまうのは。
つくづく、誰も幸せにならない。
こうなる前に何ができるのか。
答えはないけれど、今私が思うこと。
とにかく、何でも良いから話してほしかった。
そして、こちらからもっと歩み寄ればよかった、ということだ。
察してほしかったのかもしれないけれど、それでも口に出さないとやっぱりわからない。
一方で、今私の口から出てくることは、どれもこれも憶測ばかり。実際のところはわからないし、時間が戻ってくることもない。
彼女は、物静かな人だった。
多少世間話を振ってみたりはした。相槌は返ってはきたけれど多分、本質的な話はできなかったように思う。
相互理解。繁忙期を言い訳に、蔑ろにしてはいなかったか。自分のことばかり、考えてはいなかったか。
仕事は、人が減ってもやるしかない。
けれども彼女の人生は一度しかない。
今は彼女の心が少しでも平穏であればと、そう願っている。