連載日本史248 日本国憲法(3)
公布から半年を経た1947年5月3日、日本国憲法が施行された。新憲法の精神に基づき、多くの法律が改定された。改正民法では、従来の戸主制度や家督相続制度が廃止され、男女平等・夫婦同権の家族制度が確立された。刑法では、不敬罪・大逆罪・姦通罪が廃止された。刑事訴訟法では令状主義や黙秘権などの人権尊重主義が盛り込まれ、地方自治法では都道府県知事・市町村長の公選制が定められた。公務員法も改正され、公務員の位置づけは天皇の官吏から国民全体の奉仕者へと変わった。憲法は国家の基本法であるため、それが変わるということは、法体系全体に影響を及ぼし、国家のあり方そのものを変えるほどの大きな事態なのだ。
最も大きく変わったのは教育かもしれない。1947年に公布された教育基本法では、民主主義教育の理念と教育政策の大綱が示され、教育の機会均等・義務教育9年制・男女共学・学校教育の公共性などの原則が定められた。憲法と教育基本法の趣旨を実現するために制定された学校教育法では、小・中・高等学校・大学と連なる六・三・三・四制の単線型学校制度が設定された。また、教育行政の民主化と地方分権化を目指して、公選制に基づく教育委員会法も制定された。同年に結成された日本教職員組合(日教組)は、「教え子を再び戦場に送るな」というスローガンを掲げた。
憲法施行直後、当時の文部省が中学一年生向けに配布した「あたらしい憲法のはなし」では、「戦争放棄」について、以下のように述べられている。
<今度の憲法では、日本の国が、決して二度と戦争をしないように、二つのことを決めました。その一つは、兵隊も軍艦も飛行機も、およそ戦争をするためのものは、いっさい持たないということです。これからさき日本には、陸軍も海軍も空軍もないのです。これを戦力の放棄といいます。「放棄」とは「すててしまう」ということです。しかしみなさんは、けっして心細く思うことはありません。日本は正しいことを、ほかの国より先に行ったのです。世の中に、正しいことぐらい強いものはありません。
もう一つは、よその国と争いごとが起こったとき、決して戦争によって、相手を負かして、自分の言い分を通そうとしないということを決めたのです。おだやかに相談をして、決まりをつけようというのです。なぜならば、いくさをしかけることは、結局、自分の国を滅ぼすようなはめになるからです。また、戦争とまでゆかずとも、国の力で、相手をおどすようなことは、いっさいしないことにきめたのです。これを戦争の放棄というのです。そうしてよその国となかよくして、世界中の国が、よい友だちになってくれるようにすれば、日本の国は、栄えてゆけるのです。>
「正しいことを他国に先駆けてやったのだから、心細く思うことはない」とは力強い言葉である。戦争には負けたものの、いや、戦争に負けて塗炭の苦しみを味わったからこそ、こうした矜持を持ち得たのかもしれない。道徳の教科書は、これを復刊すれば事足りるのではないかと思えてくる。文部省が作ったものだから、検定の必要もないだろうし。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?