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連載日本史70 院政期の文化(3)
院政期の文学において特徴的なのは、説話や軍記、歴史物語など、いわばノンフィクション系の文学の流行である。1000を超える仏教説話や世俗説話を集めた「今昔物語集」、平将門の乱を描いた「将門記」、前九年の役を題材にした「陸奥話記」など、前代の王朝物語全盛期と比べてみると、文学の分野においても、貴族から武士や庶民への身分的広がりや、都から地方への空間的広がりが感じられる。
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歴史物語では、架空の老人の昔語りの形式をとった「大鏡」が成立した。これは冬嗣から道長に至る藤原北家(摂関家)の栄華を描いたものだが、同時代に成立したとみられる「栄華物語」が手放しの道長賛美に終始しているのに対し、批判的精神も交えて権力者の実像を活写しているのが特徴である。「大鏡」の語り形式は、後に続く「今鏡」でも踏襲され、さらに次代の「水鏡」「増鏡」にも受け継がれ、「四鏡」と呼ばれる歴史物語の系譜を形作ることとなった。
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院政期の文学の白眉は、後白河法皇が編纂した歌謡の集大成である「梁塵秘抄」であろう。後白河院は「今様」と呼ばれる民間の流行歌謡に熱中し、自身も歌い手として、三度も喉をつぶすほどの入れ込みようであったといわれる。庶民から発生した歌謡が貴族にも伝播した「催馬楽(さいばら)」や、琵琶などの楽器の演奏に合わせて詩歌を吟じた「朗詠」など、何らかの旋律(メロディー)を伴って謡われたであろうものが多く、現代の雅楽では、その旋律の復元への試みもさまざまになされているようだ。2012年のNHK大河ドラマ「平清盛」では、「梁塵秘抄」中の代表作である次の歌が、旋律をつけて、主題歌として歌われた。
遊びをせむとや生まれけむ
戯れせむとや生まれけむ
遊ぶ子どもの声聞けば
我が身さへこそ揺るがるれ
当時の舞台芸能としては、古代以来の宮廷芸能を発展させた「猿楽」や、農民から発生し貴族にも流行した「田楽」などがあるが、いずれも神事と関係が深い。古来、舞踊は神に捧げるものであり、舞台は人間の世界と神の世界をつなぐ場であった。当時の舞姫である白拍子(しらびょうし)は、遊女とはいえ、高い見識を持った女性が多かったという。白河法皇の愛人であった祇園女御、平清盛の愛人だった祇王や仏御前、源義経の愛人だった静御前など、高位の貴族や武将に愛された白拍子も数多い。「梁塵秘抄」で謡われた「遊び」の世界は、神の世と人の世のあわいに横たわる、豊かなイメージを孕んだ世界だったのであろう。