背中と呼吸の話
呼吸の話は自己紹介記事の中でも少し触れたのですが、今回の話は息を吸ったり吐いたりする、いわゆる外呼吸の話です。
物理的にこの記事を読む、という行為をしている人の中に呼吸をしていない人はいないと思うのですが、その呼吸の仕方はおそらくそれぞれでしょう。
胸式呼吸だったり、複視呼吸だったり、鼻呼吸だったり、口呼吸だったり、呼吸のスピードが速かったりあるいは遅かったり・・・。
人間は呼吸をしないと地球で生きることはできませんが、そういうことを意識しなくてもちゃんとからだが自動的に呼吸をしてくれて、ちゃんと生きていることができます。だから眠っても大丈夫なわけです。
でも、意識的に呼吸の仕方を変えることもできます。これは面白いことです。「時計を見ながら心臓の動きを1分間にぴったり60回にしよう」というのは難しいですが、「時計を見ながら呼吸の速さを1分間に12回にしよう」というのは頑張ればできそうです。5秒に1回呼吸したらいいわけです。子どもの頃にこれに気付いて、どうして心臓ではできないことが呼吸ではできるのか不思議に思ったものでした。
緊張しているときに一度くらいは「深呼吸して」と言われたりしたことがあるのではないでしょうか。こんな風に呼吸の速度や深さ、呼吸の仕方を変えてこころに影響を与えようとする方法も、わりとたくさん使われています。
さて、その深い呼吸について今日は少し話してみようかと思います。深い呼吸と言ったときに思い浮かぶのは腹式呼吸です。腹式呼吸なるものを最初に意識したのは小学生で金管楽器を吹いた時でした。先生がうまく楽器を演奏できるように呼吸の仕方を教えてくれるのですが、そのときに指導されたのが腹式呼吸です。お腹息を入れる感じで呼吸する、お腹を膨らませる、というような感じで教わり、私にとっての腹式呼吸は『お腹に息を入れる呼吸』となりました。
長い間、私の中では腹式呼吸イコール『お腹に息を入れる呼吸』のまま経過するのですが、あるとき私は自分が自分の前だけを見ていることに気付くのです。
『あれ、肺って自分の前にだけあるわけじゃないよな・・・』と。
目は首から上の前側を見ていて、視野が広くても真後ろは見えません。耳側にはだいたい90~100度くらいでしょうか。それゆえ自分の後方、背中側を意識することよりも(少なくとも私の場合)、前方、腹側を意識する機会が多いです。だから、腹式呼吸をしようとしてお腹にだけ空気を入れようとしていたわけです。しかしながら、肺は前側だけ膨らんでいるわけではありません。空気には前も後ろもありませんから肺が立体なら全体に空気が入っていきます。もちろん背中側にも入っていくわけです。
『後ろは膨らませなくていいのか・・・?』と不思議になったわけです。
試しに背中側、つまりお腹の反対側、腰のあたりにも空気を入れるようにして腹式呼吸を試してみて、「おぉー」となりました。興奮しました。息をする感じが全然違うわけです。今までは半分だったんだな、と思いました。
どうぞ、みなさん、やってみてください。きっと感覚はみんな違うと思うので、「特に何も」という人もいると思いますが、今までとは違う何かを感じるかもしれません。「だから何?」という感じかもしれませんが、私のように新しい感覚に嬉しくなる人も、1人くらいはいるかもしれません。
最近、背骨を意識しながらからだとこころを整えているとき、「そういえばちゃんとここ(腰背部)に空気を入れてなかったかも・・・」と、忙しくて背中に息が入っていることに気付く機会を持てていなかったことに気付きました。
毎日パソコンと向き合ったり、本を読んだり、だれかと話したり・・・、そうしているうちに、知らず知らずのうちに自分の前だけに世界が広がっているような感覚になってしまっていたのだと思います。
空気がお腹にも背中にも入る呼吸をしたら、初めてそこに空気が入った感覚を味わった瞬間を思い出して嬉しくなりました。
私のからだは、昔も、今も立体です。でも、私は立体であることを忘れていました。ちゃんと生きてなかったなぁ、と思います。自分が自分のからだをどう認識し、どう動かすかで、何を感じるか、からだがどう動くかということが全く変わるんだってことを、再確認した出来事でした。
背中側にも息が入っている、肺は360度動いていて、膨らんだ肺は背中側でも支えられているということに気付きながら世界を見てみると、景色がよりきれいに見えます。私の住んでいるところは、今、桜の季節なのですが、青空も、ピンクの桜も、クロッカスも水仙も、全てが今までよりも美しく感じます。なんとお得なことでしょうか。
何も感じないかもしれませんが、1人くらいは共感してくれる人がいるかもしれません。そうなったら嬉しいなぁと思ったりしています。