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ハンセン病療養所のある大島と瀬戸芸 自分の目でみる大切さ

瀬戸内国際芸術祭2019の振り返り。島全体でいうと一番印象に残ったのは大島でした。訪れたのは夏会期の最後の週末。アートをきっかけにもっと多くの人に訪れて知ってほしいと思いました。

大島は「らい予防法」(らい病・癩病=ハンセン病)に基づく療養所「大島青松園」がつくられた島。芸術祭のボランティア・こえび隊の方が案内ツアーをしてくれたのだけど、説明がとても分かりやすくて参加してよかった。

風邪よりも感染力の弱い「らい菌」を恐れ、島に閉じ込めて。そのせいで「うつる」「感染力が強いのでは」という偏見を招いてしまった。

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入所者は56人(男性29名、女性27名)、平均年齢は約84歳とのこと(大島青松園ホームページより。2018年4月末)。
みなさん病気自体の治療は終わっているけど、後遺症や高齢によるケアを受けている。だから「患者」ではなく「入所者」と呼ぶそう。

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大島のあちこちの角にスピーカーがあって、童謡が流れている。後遺症で目の悪い方のために設けられているそうだ。白杖で叩いて確認しながら歩けるような柵や、道路の中央には太い白線もあった。

教会やお寺が集まった「宗教地区」もある。お遍路巡りさえ出来なかったため、88の小さな石仏がずらっと並んでいる小道もあった。

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そもそもハンセン病とは、ノルウェーの医師ハンセンが見つけた「らい菌」が感染源。いまは「衛生環境や栄養、経済などの向上により、日本国内で新たに感染・発病する心配はない。一方、世界では年間約22万人の新規患者がいる」とのこと(国立感染症研究所ホームページより)。感染力も弱く抗菌薬で治る病気なのに、苛烈な偏見・差別があった。

1948年成立の「優生保護法」にはハンセン病も含まれ、子どもができたら人工妊娠中絶させた。1953年、患者らの反対を押し切って「らい予防法」が成立。ますます患者や家族への差別・偏見が強まったという。
こえび隊の方の説明で、らい予防法の廃止は1996年と聞き、「最近じゃん…」と改めてショックをうけた。たった20年ほど前の話だ。

訪れることのできない対岸の島々

こえび隊の方の案内が終わったあと、わたしが向かったのは鴻池朋子さんの「リングワンデルング」。
大島に入所した若い人たちが「自分で道を作りたい」と、1933年(昭和8年)に北の山に開拓した1.5km、1周20分ほどの山道。そこに作品が設置されている。

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ところどころ、木々のすき間から見える対岸の島の風景。瀬戸内の穏やかな水面に、島の稜線……。ここを歩いた入所者の方々は、けして渡ることが出来ない対岸の島をどんな思いで眺めていたんだろうか。 

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また、大島は、全国の療養所の中で唯一、火葬場が残っているそうだ。これまで多くの人を見送ったんだろうと思う。

ここで「暮らしていた人」が伝わるアート

そして、かつて入所者の方々が暮らしていた長屋の、今は無人の部屋がアートの場になっている。

一番、心に残っているのは、高橋伸行さんの「稀有の触手」。

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被写体は、大島の風景を撮り続けてきた入所者の脇林清さん。写真は真っ青に塗られた室内に展示されている。

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庭には、今も入所者の方が世話しているという盆栽がきれいに並んでいた。

ここに誰かが住んでいたことを強烈に感じて、息がつまった。

鮮やかな絵の具とは対照的に

絵本作家の田島征三さんのインスタレーション「Nさんの人生・大島七十年―木製便器の部屋―」は、入所者の方の体験を、部屋の中で立体絵本のように表現した。鮮やかな絵の具の色合いとは対照的な内容に、心が沈む。

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「最初はすぐ治って帰れると思っていた」
「ただ寝ているだけで防護服の人たちが来る、渡すものは全部消毒液につけられる」
「なぜわしを30年余分にとじ込めた!?」

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言葉がグサグサと刺さった。

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これは長屋のあるエリアに置かれている解剖台。3年前のトリエンナーレの前に、西の海から引き上げられた。大島へ来るとまず解剖への承諾書を書かされたそうだ。

大島青松園のホームページで岡野美子園長が、入所者だった詩人・塔和子さんの一節を紹介していた。

ああ 何億の人がいようとも
かかわらなければ路傍の人
私の胸の泉に
枯れ葉いちまいも 落としてくれない
(塔和子 胸の泉)

これまでハンセン病についての記事を読んで知ったつもりになっていたけど、やっぱり現地で目にすると〝隔離〟という人権侵害の恐ろしさをひしひしと感じた。高松港から船で20分の距離で、かけがえない、もう二度と取り戻せない人生を奪われた人たちがいた
わたしのように、現代アートをきっかけにハンセン病について詳しく知る人もいるだろう。きっかけはアートでも、多くの人にこの歴史を知ってほしいと思った。そうしたら、誰かの胸に枯れ葉いちまいぐらい、落とすことができるかもしれない。
こんなことを二度と繰り返さないために。

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