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女子ゴルフを描く『BIRDIE WING 2nd season』は、「まだ面白くなるのか」という喜びを何度でも教えてくれる

今期一番面白いアニメは『BIRDIE WING -Golf Girls' Story- 2nd season』だ。
突然過ぎて申し訳ない。でもこれは事実だ。
『1st season』の頃から「面白すぎる」「スクライド!女子ゴルフ版スクライドじゃないか」「マフィアに堕ちた自分を後悔しないためにイヴと戦ったローズ姐さんの最期、演出も含めて全部凄すぎる」と言い続けてきたが、そんな『1st season』から空白期間などなかったかのように始まった『2nd season』は一話から「もういいよね? 手加減しなくても」と言わんばかりの全力全開の黒田洋介脚本が飛び出し、話数を重ねても面白さが落ちない。
それどころか、「まだ面白くなるのか」と言いたくなるほどその面白さの弾道は上がり続け、伸び続けている。
そしてこの物語の着地点に対して不安な要素が一つもないことが恐ろしい。
イヴ・アレオンと葵。
二人の女子ゴルファーが再戦を誓い合ったところから始まった物語である以上、この物語の着地点は「二人の再戦」をおいて他にはない。それこそがこの物語を締めくくるに相応しい「最高のエンディング」なのだ。
言ってしまえば、ここまでの物語は「イヴ」と「葵」という二人の少女の純度を高めるためのもので、それにより再び相まみえた時の感動を大きくするためのものなのだが、『2nd season』ではその流れが本格化。「この二人が戦うこと」それ自体に想像を絶する面白さが芽生えつつある。

親のエゴに振り回される子供たち

『2nd season』第一話は「やりそうでやらない」と認識させられていた旗包みの解禁と共に、記憶喪失だったイヴの記憶が蘇るところから始まる。
そこで明らかになったのはイヴの本名と出自、そして父親が葵の父親として語られてきた今は亡き天才ゴルファー「穂鷹一彦」であるということであった。
一話時点では「イヴと葵は異母姉妹……ってこと……?」となるわけだが、続く二話と三話で葵の父親は「穂鷹一彦」ではなく、彼女のコーチである「亜室麗矢」であることが語られ、この物語が葵の母親である「天鷲世良」が実家の都合で「穂鷹一彦」と結婚することを余儀なくされるも、心は「亜室麗矢」に惹かれていたことから始まったことが発覚する。
これらが確定した三話のサブタイトルが全てを語り尽くしている。
「大人のエゴに巻き込まれた、若者たちの二代に渡る数奇な運命」。
見事なまでに大人のエゴに巻き込まれた数奇な運命の物語である。
天鷲世良の父親のエゴにより引き裂かれた若者達(天鷲世良と穂鷹一彦と亜室麗矢)。しかしその若者達も大人となって自分達の娘(葵とイヴ)が再び戦うことを妨害するエゴイスティックな振る舞いを見せる。
「大人のエゴに巻き込まれた、若者たちの二代に渡る数奇な運命」である。もはやこれ以上ないほど、この物語の根底にあるものを表しているわけだが、この物語が面白いのはこれらの事実を踏まえた上で葵とイヴをさらに魅力的にしていることだ。

「どんな時でも楽しむ」の完成

葵は「どんな時でも楽しめる」という心の在り方により最強の存在だった。
相手がどんなことをやってきても、自分がどんな苦境に置かれていても、「葵」と言う存在は相手のプレイを楽しみ、自分の力で苦境を攻略することに心をときめかせるからこそ「ゴルフとは己の心との戦い」という本作において、必殺技らしい必殺技を持たずとも最強クラスの存在として君臨していた。
しかし上記の事実が明らかになると、葵も平常心でいられなくなる。
自分が信じていたものが信じられなくなる。母親も信じて良いのかわからない。
葵の「どんな時でも楽しめる」は普段から安定した精神状態であるからこそ無類の強さを誇っている。しかし様々なことが明らかになって安定した精神状態が維持できなくなった葵は「プロ転向に向けた大事な一戦」という重要な局面において自分のゴルフに集中することが出来ずに崩れていく。
まるで自分と戦った相手が調子を崩して自滅するかのように、だ。
そこから持ち直して葵は勝負をものにしてプロへと転向するのだが、「葵のゴルフ」に必要な最後のピースが「キャディー」というのは恐れ入った。
それもただのキャディーではなく、「葵のゴルフに自分なりの楽しさを見出しているキャディー」というのは「楽しむ」ということに比重を置いた葵のゴルフの魅力を何倍にも引き上げる。
その完成をもってプロの世界へと踏み入れていく展開も全てが素晴らしい。

ルーツの融合

一方のイヴはというと、彼女は自身のルーツを知ってもなお揺らがない。元々記憶喪失であった期間の方が長いので、両親や自分の正体を知っても揺らぐようなものが少ないようだ。
むしろ彼女にとって重要なのは「マフィアに目をつけられた状況で、どうやって葵と戦えるプロの世界に行くか」だが、彼女は母親の父、つまり自分の祖父にして欧州最大のゴルフブランドの創設者に自分自身を売り込むことでプロへの道を切り開く。
血縁関係を無視し、他者の紹介と言う形で誰かに主導権を握らせることなく、自分自身を売り込むことで対等な立場でプロへの支援を取り付けていく辺りはいかにもイヴらしいが、彼女に突きつけられたのは自身にゴルフを叩き込んだレオ・ミラフォーデンとその弟子であるアイシャ・カンバッタ。
イヴの得意とする相手の心を一打で撃ち抜く「弾丸のゴルフ」の上位互換である「カノン砲のゴルフ」を繰り出すアイシャの前に、イヴは「レオから叩き込まれたゴルフ」からの脱却を強いられる。
言うなれば「イヴにしか出来ない、イヴだけのゴルフの創造」であるが、葵のプロへの試練と合わせてみると両者の違いが感じられる。
また完成したゴルフも「実父の虹」と「レオの弾丸」の融合である「虹色の弾丸を操るゴルフ」であり、「レインボーバレット」と呼ばれていたかつての自分を超える「レインボーバレット・バースト」というのも直球だが、気持ち良い音の響きで最高だ。

結びに

というのが大体一週間ほど前に放送された最新話の話なのだが、正直『2nd season』でここまで面白くなるとは予想すらしてなかった。
『1st season』までは「旗包みをやりそうでやらない異能ゴルフアニメ」という面白さが先行していたのだが、『2nd season』は旗包み解禁による「出し惜しみは一切しない。そしてここからギアをあげる」との宣言から面白くない回が一つも存在しない。むしろ一話重ねるごとに一段ギアが入り、速度と熱量を上げているぐらいで、端的に言ってどうかしている。黒田洋介はおかしい。あの人なんなんだ。
まだ見ていない人は早めに見ておいて欲しい。ちょっとどうかしてるテンションの作品を最前列で楽しもう。

余談だが、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』と比較して視聴してみると、双方の違いが際立って見えるのも『BIRDIE WING』の興味深い点だ。
例えば「親のエゴに振り回されている」という点では『水星の魔女』も『BIRDIE WING』も同じだが、『水星の魔女』ではその悲劇性に比重をおいた物語が展開されているのに対し、『BIRDIE WING』では「どうやって主導権を引き戻すか」という切り返しの方に物語が置かれている。
どちらもガンダムが出てくるし、『BIRDIE WING』はやりすぎなぐらいにアムロ・レイとシャア・アズナブルを重ねてくるので一緒に見ておくとより一層楽しめることだろう。


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九条水音
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