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絶望の中国出張記#3 中国の地方工場とその実態

始皇帝(牛さん)の策略で寝起きの闇医者によって指を切断されかけた翌日、出張の目的である工場監査を実施した。

↓これまでのあらすじ


ホテルから工場までは車で30分程の距離だったが、永遠に感じた。

もちろん道など舗装されておらずディ○ニーランドのインディ・ジョーンズ並みに揺れる車内、二日酔いの脳味噌はシェイクされ頭痛と吐き気にまみれながらもひたすら遠くの山を見ることで心を落ち着かせていた。

昨夜のことを心配してか、助手席の工場長が振り向いて何やら話しかけてきたが、口を開けると色んなものが出てきそうな状態は通訳のミンミンさんも同じ状態であり、車内はお通夜状態だった(後部座席の岡部さんは寝ていた)。

そして車は工場に到着した。
前日は気が付かなかったが、屋上に巨大なリンゴのモニュメントがあった。


そもそも食品工場ですらないのになぜリンゴなのか。
まさか始皇帝の権力はAppleにまで及んでいるのか。
この時は全てが謎であった。

とりあえず客室に通され今日の段取りを打ち合わせていると、どうやら始皇帝はまだ来てない(というか来たり来なかったりらしい)とのこと。
むしろいない方が都合が良いため、打ち合わせも早々に工場内を案内してもらった。


監査というと聞こえはいいが、要は事前にこちらが送付したチェックシートを基に、実際にそれを満たしているか確認する作業である。

もちろん工場側も監査に合わせて準備しており、ある意味予定調和的な要素が多いのだが、あえて少し突っ込んだ質問などをすることで「どのくらいしっかりとした管理体制なのか」をハード面/ソフト面で確認していく必要があるのだ。

要するに、質問する側も色々な想定をしながら話す必要があり、頭をひねる訳だが、脳味噌をいくら絞っても出てくるのはパイチュウの残り汁だけ。この日、我々は完全に思考が停止していた。


まっすぐ歩くのがやっとであり、報告書用の写真を撮るため機械に近づきすぎて何度かヒヤリハットを繰り返すも、何とか最低限、チェックリストの内容を確認し少なくとも工場の設備(ハード面)としては最低限こちらの要望を満たしていることが分かった。

次は従業員の労働環境や運営面(ソフト面)についてヒアリングを行った。
ここで先程のAppleの謎が解けた。

単純な話で、どうやら地域の名産品がリンゴであるのが理由らしい。
そしてなんと収穫の時期になると従業員は一斉に休みを取るとの事
そのためXX月~XX月(正確な月は忘れた)の間は稼働が極端に下がり納期も長くなってしまうらしい。
しかもその時期は雪も多く降る季節らしく、車やバイク、牛、馬を持っていない従業員はそんな中を歩いて出勤する必要があるとの事。

まさに現代の「あゝ野麦峠」である。


そのような劣悪な環境のため、リンゴの収穫に行ったっきり二度と出勤しない人も多数いるらしい。
他には、春節(旧正月)など長期連休の時期で実家に帰って戻らない従業員も毎年一定数存在するとのこと。
工場側も該当のシーズンは賃金を上げて何とか流出を食い止めようとしているらしいが、頭を悩ませているらしい。

後から知った事だが、中国の地方工場はどこも同じような状態らしく、別のケースだと都心から地方の工場へ出稼ぎに出た労働者が1年ぶりに帰省すると環境が様変わりしており、働き口も多い事からそのまま工場へ戻らない事も多々あるとの事。
ここ数年、チャイナリスクといって中国から外注先を東南アジアなどに切り替える動きが加速しているが、その一端を感じたような話だった。


この頃には脳を浸すパイチュウが少しづつ抜けてきて冷静さが戻りつつあったので、ならば業務が属人化していないかマニュアルなどを一緒に確認しましょうとそれ以降は建設的な話ができた(気がする)


そうこうするうちにお昼の時間になった。
せっかくなので社食を食べさせてもらうと、もつ煮のような料理が出てきた。暖かい内に早く食べてくださいと急かされ慌てて口に入れるが、これが意外とおいしい。いかにも滋養強壮に効きそうな味だ。


横を見ると通訳のミンミンさんは一回も手を付けていなかった。
理由を聞くと彼女は申し訳なさそうに口を開いた。

「コレハ、ヤギの脳味噌です。。。ワタシハトテモ食ベラレマセン。。。」

更に聞くと、暖かい内に食べろと言われたのは冷めると異臭がするのが理由とのこと。


従業員離れの原因これでは?と思わざるを得なかった
チャイナリスクとかの問題ではない


話を聞いた岡部さんは「痺れるわあ~」と叫び、2回おかわりをした。


ランチの後は監査の総括を行った後、工場を出た。
ここからまた空港近くまで戻り、別の工場がある地域まで長距離の移動をするのだ。

工場を出ると後ろから聞き覚えのある声がしたので振り返ると始皇帝がいた。
「なんだもう帰るのか!ゆっくりして行けばいいのに!ガハハ!」的なことを言いながら立派な材質の大きな紙袋を渡された。

手に持った瞬間、凄まじい重量で取っ手が指に食い込む。
その衝撃で昨晩の傷口が開いた感覚を確かに感じた。


聞けば我々のために地域の特産品を特別に用意してくれたらしい。
となればリンゴの詰め合わせかと思い中身を見ると、縄文時代の貨幣を思わせる巨大な石の円盤が現れた。


曰く、この地域ではリンゴの他に三葉虫の化石が大量に出土するらしい。
それを円盤状に加工し、ご丁寧に地域の歴史書的なものと2点セットで用意してくれたとの事

正直に言うと、子供の頃から化石が好きだった僕はテンションが爆上がりした。


隣の岡部さんは「なんやリンゴやないんか!狂っとんのか!」と騒いでいたが、渋々受け取り車に乗りこんで行った。

今回の御礼を伝え、出発した車から窓から振り返ると僕らの姿が見えなくなるまで彼らは手を振ってくれた。僕も再見(ツァイチェン)!と叫びながらいつまでも手を振っていた。

「再び見る」と書いて再見、つまりさよならという意味だが、その後二度と彼らに合う事は無かった。

何度かお仕事を依頼し、実際に取引も行ったのだが、ある日急に閉鎖になったのだ。

2019年、日本でもちょっとニュースになったが中国で大規模な爆発事故があった。それにより工場規制が厳しくなり、その余波で営業停止を余儀なくされたという。


でも彼らにはリンゴと三葉虫がある。


僕自身も転職をしたため、仕事上で一切かかわることが無くなってしまったが、きっと彼らもちゃっかり別のビジネスを始めて成功を収めているに違いない。
なんせ彼の地には始皇帝こと牛さんがいるのだ。


数年後にそんな事になるとはつゆ知らず、2016年の僕は段々と小さくなっていく屋上のリンゴが見えなくなるまで、車に揺られながらずっと工場を見つめていた。



<次回予告>
段々と開いていく傷口に耐えられなくなった僕を見かねたミンミンさん。
そして開かれる中国国家機密の扉。
再び乾杯の夜が始まった時、何かが壊れた僕が向かった先は。。。

次回、絶望の中国出張記#4 ~国家機密と夜明けのBEAT~に続く

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