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【詩のようなもの6編】 不透明な陽


【不透明な陽】

枝葉末節 軋む関節
古びた遊歩道の裂け目から
時間が溢れ出す音がする

霞む視界 染まる夕暮れ
鳥の羽ばたき 子どものこだま
消えゆく瞬間の温もり

裂け目の先に未来はあるのか
過ぎた日の残像のままなのか
答えは知らずとも歩むだけ
ひび割れた黄昏が私を包むうちは

【長閑】

長閑な空気は
薪を割るように
水を汲むように
心の形を変えていく

今日は雲の流れと同じスピードで
血液が循環するように
疎かな姿に抗えぬまま
吐露できない不安と共に
寂しい雨後が心を安らげる

長閑な空気は
薪を割るように
水を汲むように
心の形を変えていく

【去私】

さよなら私
さよならあなた

泥濘 澱み
泡立つこと
苛立つこと
曖昧さを愛しながら
安い知識で貴重な生活
傷と失敗の数
抜けた主語
また心寄せる試行錯誤

さよなら私
さよならあなた

【洪水色】

赤は叫ぶ
黄色は笑う
邪気を遠ざけるように

青は雲を裂く
緑の絨毯を敷く
無邪気でいられるように

混沌は調和を装い
調和は無秩序を囲い
時に騒がしく広がる洪水色

廃墟になる前のこの場所
この景色にどんな色が残るのか
今はまだぼやけた洪水色が
往々に広がっている

【十年一日の畳】

起きて半畳寝て一畳
天下取っても二合半
足りないのは部屋の中より
心の中だと分かっていても
衣食住の三拍子揃わないことが
まず恥ずかしいまま
四階に住む五人も同じように
口を揃えて欲望を高め合い
時化た六月の支払いに怯えていて
七を揃えに駅前で並び
夜八時を過ぎた頃から
孤独を紛らわす現代詩を読み合い
昨日の九回裏の熱戦を思い出し
十年一日の今日
起きて半畳寝て一畳
天下を取らなくても二合半

【冥加】

捨てる神 拾う神
どちらも足掻けば
手を繋いでくれるわけでもない
かといって寝て待てば冥加
というわけでもない

焼けるような視線を浴びて
痛みと孤独はもはや日常
思い詰めて視野が狭くなっては
うつろな巨木を見て屡々生き延びる

本を積むように
知らなかった世界に導く
涼しい風と香り高い菜の花が
少しばかりの冥加に気付かせている

明日はどうだろう?
そう考える余裕もない時に限って
悲しい話に心惑わされて
嬉しい瞬間をまた探す日常


最後まで読んでくれてありがとうございました。

水宮 青