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【詩のようなもの6編】 幽霊夫婦

【幽霊夫婦】

窓越しに映る花畑を肴に
僕はジャム 君はハチミツ
触ることも食べることも出来ない
食パンにたっぷり塗って
「今日も同じだね」透明な君が呟く

あの子は成長していく
僕らだけが置いていかれる
口から滲み出る後悔
僕はいちご味 君はハチミツ色

互いの痛みを互いに庇い合うも
花の匂いに誘われて
抱きしめることが出来ないまま
苦虫を噛み潰したように
寂しさと健気さを纏い
学校へ向かう後ろ姿を追いかける
幽霊夫婦

ふと振り返るあの子の瞳の奥
何かが残っているのか
僕らの後ろの花畑を眺めている

【カフェインレスの午後】

冷めかけのカフェインレスコーヒー
何気なくカップを持ち上げ

まだ温かいかのように一口含み

「ぬるいね」と少しだけ笑う君は
「昨日の夢、なんだか奇妙だったんだ」
と語り始める

その会話の途中
隣の席では別の客がスマホを手に取り
次から次へと指が滑り
退屈を追い払う小さなダンスのように

何も特別じゃないけど
そこに隠れたリズムがあった

外では風が吹いて

一人の老人が帽子を追いかける
その足取りが妙に軽快で

そこにも隠れたリズムがあり

君と僕は見つめ合いつい笑みをこぼす



冷めかけのカフェインレスコーヒー
何気なくカップを持ち上げ

まだ温かいかのように一口含み
「ぬるいね」と少しだけ笑う君は

「昨日の夢、なんだか奇妙だったんだ」

…あれ?

その瞬間 
違和感に気づいた時から
このカフェインレスのコーヒーが

まるで減ってないことと
周りが同じリズムを繰り返し刻む傍ら
僕の心臓の音が大きくなる午後

【偶数リアリティー】

朝を知らせるサウンドクロック
独り言から始まるRTA
予告なしの「リニューアルしました」
ついていけない いきたくない
昨日を浸し合うノスタルジー
宿命論に埋もれるグラフィティー

月の終わり
カレンダーを捲り
また陽が身体を解く
一日の始まり

口馴染みのいい
希望に満ちた慣用句
当世風に乗せる現代詩
少しの色気を端っこに設えて
空に撒く素数ファンタジー
手元で結ぶ偶数リアリティー

【秋風索莫】

炊き込みご飯が作れるようになった
ゴミの分別も把握した
玄関前の濁った水溜り いつも通り

今となっては
学生の頃の自分は恥ずべきもので
思い出せる記憶も断片的
思い入れない卒アル捨てて始まる
波風立たない青春

会う人も決まってきて
歩く場所も毎日同じで
午後の隙間時間に見る雲だけが
毎日形を変えている

一人飯におかずを一品足して
保存が効かない今日の匂いに
狂気と隣り合わせの秋風索莫

一時間早くなった夕方のチャイム音が
今日の平穏を締め括る

【辛子色】

書き終えた詩のようなもの
がらんどうのわりに
心の中を掃除するように
言葉が文に変わり生まれた物語
軌跡を辿る日々の連続
あっという間に神無月が過ぎる

師走前の寂しさを撫でる為
辛子色のセーターを買う
その瞬間の喜びを言葉にしたいと
辛子色の辞書から言葉を掬い
生まれる 繋がる
新たな詩のようなもの

【久しぶりの東京で】

厄年のせい?
洒落た空気が眩しく
あの頃の街はもうない

「久しぶり」なんて言葉が
ひどく似合わない東京の風
天邪鬼な僕は変わらない振りをしてる

流れ星が落ちる前に
何か変わらなきゃいけないはずだって
空を見上げても
見えない星はずっと遠くて
一瞬の光に次々と越されていく
久しぶりの東京で
迷子の子猫のように
路地裏から路地裏へ


最後まで読んでくれてありがとうございました。

また気が向いたら読みに来てください。

水宮 青