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【詩のようなもの6編】 森の傘たち


【森の傘たち】

苔むす時間の下で
言葉を持たぬまま
ひとつは笑みの形を宿し
ひとつは能天気に空を仰ぐ

雨が降れば傘を開き
乾けば縮こまる
地を支える無数の根は
語られぬ物語を下地に育つ

土の香り 木の香り
静かな対話 騒がしい風の声
人間は足早に過ぎ去るけれど
森の中で生きるものたちに
嘴を容れたがる人たちから逃避行

青息吐息の末に雑草掻き分けて
最適解を求め合う森の傘たち

【雪解雨】

一縷の望み
一抹の不安
その両方を洗い流すように
降り頻る年末の雪解雨

増えた弱さ
折れた傘
囚われたまま 節を折り
涙雨を兼ねた雪解雨

繊細に美しく
粒だった記憶が
白と透明を影に積もらせて
春を呼ぶ年末の雪解雨

【大人の抱括】

言葉を知っても
使い方が分からないまま
大人になりました

考えながら喋れば喋るほど
墓穴を掘り誤解を生むから
それを避けるように
身につけたのは
慎み 佇み 包み 
投げたブーメランが
自分に刺さらないように
思いやることでした

だけど構造を知っても
社会が分からないまま
時が流れていきました
常識はまた変わっていきました

【常並み】

声のデカさに比例した性格の悪さ
背の高さに比例した威圧の仕方
弱さを見せながら強さを魅せて
同時に優しさも器用さも持ってる
社会はそういう人を普通と言う

成功体験なんてないから
耳目の欲だけ感度が上がって
嫉妬と偏愛に惑わされて
誠実な自分を傷つけるたび
合理性とは程遠い恥の上塗りを
ノートの片隅に記して終わる今日の日

【糸くずの輪郭】

情けなさが編む糸くずの巣
ほころびばかりが目を刺す夜
狂おしさは刃物のように
じわじわと喉元を這い上がる

君の言葉は針だったのだろう
傷を縫うはずが深く突き刺さり
滲む赤を振り切れずに
途方のない裂け目が緑を探す朝

情けなくも狂おしくも
崖際に立つ者だけの呼吸
青空に命を託せるほど広い器はない
それでも糸くずで為した妙趣が
僕という輪郭を彩っている

【anyと笑み】

年々排熱が難しくなる
萎びた身体を抱え
柄にもなく草木を愛でて
雨に唄い粗熱を冷ます

死語と懇ろ
死屍累々だなぁなんて
変わる時代に呟き
どうにもならない尊さに
セリフを打つように微笑み合う

どうとでもなるさ
そう嘯くように
軽はずみにマスを縫い
流行歌を口遊む

どうとでもなるさ
そう書いた落書きを遠くに放り
めんどくさい背伸びをして
人跡未踏の空想世界を作ってく


最後まで読んでくれてありがとうございました。

水宮 青