【詩のようなもの6編】 灰色の秋
【灰色の秋】
肌寒い秋風が吹く
木々の葉が色を落とし
街はモノクロームに彩られる
色彩を奪われた世界はとても静か
だけど強く何かを語ろうとしている
君はそれに耳を傾けて佇んでいる
曰くありげな笑みと秘密を語る沈黙と共に
幸せと哀しみの狭間
僕の知らない誰かとの約束を抱え
口に出来ないままの記憶の欠片
「さ…」と君が切り出すも
風がそれをさらい空へ
互いの景色は灰色に沈み
公園の落ち葉が君を隠すように舞い
僕は夢の中で何度も思い出す
君の曰くありげな笑みと空虚な秋を
【欲し書き】
読むたびに泣きそうになる
そんな小説があること
エッセイがあること
漫画があること
詩があること
嬉しくてたまらない
切なくてたまらない
読むたびに錘や怒りを溶かすような
言葉にする前の色や心臓の音を
くっきり現すような
そんな物語や夢があること
まだまだこの先も出会いたくて
書きながら欲している今の時代
【デットライン】
心の奥の火は冷えて
焦りが絡む喉の奥
時計の針が響く静寂に耐えられず
人に急かされる不安に耐えられず
神経を擦り減らすデットライン
引かれた線はまさに命の終わり
情緒の尾は切れて
僕は僕に出会わぬまま
亡霊の仲間入り
君という幻は陽炎のまま
【セックスの代わりは】
結局は一人を選んだ
そんな僕のセックスの代わりは
アートを学びアートを描くこと
持っているペンと筆の数は
君の想像を超える量だ
一筆目にノせる情熱と叫びは
並々ならない確かな力強さ
君を欲しているのに
君に向けられない情慾を
季節の匂いと共に
色に変えて形に変えて
生きていることを確かめて
セックスの代わりの達成感が
今日の僕をまた明日へ向かわせる
【揺れる肯定】
肯定 肯定 肯定
もう自分のことも他人のことも
否定なんてしたくないんだ
そう強く願うだけに終わる
一人の誕生日
頬張るショートケーキ
ながら見するバラエティ
その横のバツがついたカレンダー
倒れたままの写真立て
否定 否定 否定
もう目先の感情と関係だけで
肯定なんてしたくないんだ
そう強く思うだけに終わる
真夜中の自慰行為
故障したままの電子レンジ
挽けないままのコーヒーマシン
割れたままの鏡とスマホ
同じ言葉に浸り揺蕩う朝
今年の私はどっちの自分だろう
【砂と輪郭】
未来を描いてみても虚ろな空白
望んでいたものはここにない
足元が不確かで進む先が霞む中
浅い呼吸が景色をぼやかしたまま
自分を作ろうとしても砂粒の如く
すぐに指の間からこぼれている
過去の経験を書くと少し色が見える
望んでいたものは今も遠いままなのに
足元に今日までの自分がいる
深呼吸すれば少しずつ緩やかに現れ
自分を作る手が輪郭を成していく
こぼれる砂も時を重ねて固まるように
砂も輪郭もどちらも僕
崩れる日もあるし形を作る日もある
未来はその連続に過ぎず
今を生きることで少しずつ固まっていく
最後まで読んでくれてありがとうございました。
水宮 青